暴け本能! side.道周
「ガーランドロフ、お前の権能、それは」
リュージーンが口火を切った。
宙で攻撃の好機を窺うセーネも、リュージーンの言葉に耳を傾ける。
当のガーランドロフは焦りと苛立ちを露わにし、歯噛みをしながらリュージーンを睨み付ける。突撃を仕掛けてリュージーンを黙らせようと目論んでも、背後で武器を構えるセーネがそれを許さないだろう。
歯噛みをするガーランドロフ視界に収め、リュージーンは悠々と推理を披露する。
「それは、「身体の硬質化」ではない。
お前の権能は、「不滅の鎧を纏う」権能だ」
「っ!?」
「鎧を、纏う……?」
リュージーンの自信に満ちた言葉に、ガーランドロフとセーネのリアクションは異なった。
ガーランドロフは明らかに顔色を変え、セーネは疑問符を浮かべる。
リュージーンは2人の反応を見比べて、推理を再開する。
「初めに違和感を覚えたのは宮殿だ。俺たちは逃げるときに炎を振り撒いたが、ガーランドロフは焼けなかった。身体を硬質化しているのなら衝撃は耐えられるかもしれないが、体毛の延焼は防げないはずだ。
でも、ガーランドロフの体毛は焼けるどころか、煤の一つもついていない。
このことから推理するに、ガーランドロフは炎も防ぐ何か……、つまり「鎧」を纏っているという結論に至ったわけだ。不可視の鎧だからこそ、俺たちは肉体の硬質化だと勘違いした」
「……なるほど。言われてみれば確かに筋は通っている」
「……」
リュージーンの自信に満ちた推理に、セーネは大きく頷いた。ガーランドロフは言葉もなく、苦虫を食い潰したような表情を浮かべる。
調子付いたリュージーンは、指を立てて大本命の推理を発表する。
「そしてガーランドロフの弱点がそこにある」
リュージーンは悦に浸りながらも推理する。その言葉にセーネは反応を示し、ガーランドロフは攻め気を見せた。
しかし背後から降り注ぐセーネの圧力は健在だ。ガーランドロフが特攻を仕掛けることはできず、歯噛みをしたままリュージーンの言葉を待つしかない。
「硬質な鎧を纏うが故に、権能を発動しているときは動けない。ガーランドロフの権能は防御には有用であっても、攻撃には転用できない。
強固な鎧故に、一度纏ってしまえば動けない。鎧を着ているはずが、鎧に着られているってことだ。
……違うか?」
「……」
リュージーンは勝ち誇った顔で宣言する。相対するガーランドロフは言葉もなく、拳を握り締めて殺意を滲ませる。
「沈黙は是だぞ。どうやら図星だったようだな」
「弱者風情が調子に乗るなよ。弱点だと言うが、お前らはオレの防御を突破できていない。弱者であるお前が、強者であるオレに勝てるわけがないんだよ」
「それはどうかな?」
「何ぃ……?」
リュージーンの含み笑いに、ガーランドロフはあからさまに苛立ちを見せる。
リュージーンわざとらしく間を空けて、もったいぶって口を開いた。
「お前の権能を暴くことができたのは、お前が「弱者」と言って殺したウービーのおかげだよ。
あいつは弱者である自分の弱さを自覚しながら、怯える脚に鞭を打って挑んだ。他人を「強者」だとか「弱者」だとか枠に嵌めて限界を決める。生まれつき強者のお前にはない、「勇気」がお前を追い詰めているんだ!」
「言ってくれるな、弱者が……!」
恐れを知らないリュージーンがガーランドロフに啖呵を切った。ウービーの意志を継ぎ、「弱者代表」としてガーランドロフに挑む男の信念は燃え上がっている。
ガーランドロフは青筋を立て、血管がはち切れんばかりに顔を赤くしている。セーネの特攻を警戒しつつも、隙あらばリュージーンを捻り潰せるように構えを取る。
「さぁ、どうするよ。「弱者」である俺を目の前に置いて、手招くのかい? 「自称強者」?」
「ぐ……。ぜっっったいに……、殺す……!」
一触即発の戦況に、各々が武器と拳を構える。
口撃で攻め立てるリュージーンと、鉄壁で反撃を窺うガーランドロフ、奇襲の好機を狙うセーネの三つ巴は緊迫感が張り詰める。
息が詰まる戦いの火蓋は、一瞬の攻防で断ち切られる――――。




