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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「激動のグランツアイク」編
143/369

やっと参上 side.道周

 ガーランドロフが鉄拳を構え、持ち上げたセーネに撃ち込む。溜め込んだ力は肩甲骨から腕に回り、ガーランドロフの膂力を最大限に発揮する。

 セーネはガーランドロフの鉄拳が肉薄する瞬間まで堪え、満を持して「空間転移」の権能を発動する。

 セーネは遂に、ガーランドロフの無防備になった首筋を捉えた。ガーランドロフが攻撃に意識を向けたこの瞬間、白銀のスピアを放つ。

 一方のガーランドロフはセーネが逃れたことを認識したものの、身体の硬質化は間に合わない。

 ガーランドロフの虎柄の毛は逆立ち、首筋に迸る悪寒に身体を震わせる。


「もらった!」


 セーネは勝利の確信を持って叫んだ。白翼で強く羽撃き、白銀のスピアを撃ち出し


「やはり、そう来ますわよね!」


 セーネの一撃を待ち侘びていたのはアイリーンだった。アイリーンは満面の笑みを浮かべて、掲げた魔法を打ち下ろした。アイリーンが放った紫の波動はセーネを地面に落とし、網に化けてセーネの四肢を絡め取り拘束した。

 地面にセーネを縛り付けたアイリーンは、声を弾ませて恍惚とした表情を浮かべる。悠々と舞い降りたアイリーンは、しなやかな脚を広げてセーネに馬乗りになった。


「あぁ、やっと捕えましてよ。どうして差し上げましょうか?」

「あまり僕を舐めてくれるなよ。僕がこの程度の拘束から、逃れられないとでも思っているのかい?」

「うふふふ。そうでしょうね、そうでしょうね?

 ……本当にそうでしょうか?」


 アイリーンを見下ろすアイリーンは、豊かな感情を見せて邪悪に微笑む。

 アイリーンの言葉を挑戦と受け止めたセーネは、「空間転移(テレポート)」を使用して拘束から脱出を試みる。が、どれだけセーネが権能の発動に集中しても、セーネが空間を飛び越えることはなかった。

 当たり前のように使える権能の不発に、セーネは意味が分からず疑問符を浮かべる。


「不思議でしょう? 不思議でしょう? どうして権能が使えないのか、不思議で仕方ないでしょう?」


 アイリーンはセーネの困惑した顔を間近で観察し、高揚した顔で煽り文句を並べる。アイリーンは好調な声音で、セーネの耳元に唇を近付けた。吐息が吹きかかる距離で、セーネに甘い声をかける。


「答えを教えて差し上げましょうか? お願いしてみてください?」

「誰が君なんかに頼むものか」

「そうでしょうね! 貴方はそういう人ですわね! 期待通りですわ。

 そんな貴方を踏みしだけるなんて、感極まりますわ!」


 聞く耳を持たないアイリーンは、熱のこもった息を吐き出す。そして高揚した身体を密着させ、体温を重ねてセーネに語りかける。


「この魔法はですね、貴方たち「対四大領主」用に編み上げたものですの。貴方たちの権能を徹底的に分析し、見事完封するに至ったわけですわ」

「分析? その言い振りは、まるでサンプルがあるみたいだな」

「えぇ。ありますとも」

「なに……?」


 アイリーンの言葉に引っかかりを覚えたセーネは、不審な眼差しでアイリーンを見返す。

 セーネの表情に性癖を刺激されたアイリーンは、調子よく言葉を口を動かそうとするが、遮るようにガーランドロフが歩み寄る。


「無駄口はもういいだろう。そいつを潰させろ」

「……今いいところでしたの。お目々、付いていますの?」

「そいつを殺す絶好の機会だ、ってことが分かるくらいには見えてるよ。おら、どけアイリーン」

「本当、獣って情緒のない方ですわね。これだから本能で交尾する種族は、性癖を満たすことを知らないから嫌ですわ」

「性欲丸出しなアイリーンには言われたくないわ」


 本能に正直なまま暴走するアイリーンを、ガーランドロフが呆れ返った声で突っ込む。だが、その視線は殺気を孕んでセーネに注がれている。

 ガーランドロフの殺意に当てられ、アイリーンの昂った熱も冷めてしまう。アイリーンにしては珍しく譲歩し、馬乗りになったセーネから立ち上がる。


「ま、早々に処分するという意見には賛成ですわ。封じたとは言え白夜王。確実に留めを刺せることは重要ですわ。

 何より、彼女のお仲間に差し向けたミノタウロスは破れているようですし」

「っ!? それを早く言え馬鹿女!」


 落ち着き払ったアイリーンの発言に、ガーランドロフは焦りを見せる。ミノタウロスを下すほどの相手が、よもやこちらへ向かっているかもしれない。セーネを奪還されれば、優勢を握っているこの戦況を覆される可能性が大いに有り得る。


「さっさと殺るぞ」

「もったいないですが、そうしましょうか。

 大丈夫ですよ。死体は丁寧に処理して飾ってあげますわ」


 アイリーンは地面に組み伏せるセーネに別れを告げる。

 ガーランドロフはアイリーンの決別を見届けると、自慢の拳骨を高らかに掲げる。

 セーネも易々と殺されるわけにはいかない。ガーランドロフに頭蓋を砕かれる刹那、せめてその腕だけでも落としてやろうと、スピアを逆手に握り直す。

 決死の犯行を決意した瞬間、旋風に乗った雄叫びが届く。

 誰もがその声に振り向いたとき、颯爽と魔剣が迸る。


「――――セーネから、離れんかい!!」


 怒号を放ち、道周が駆け抜けた。ジャバウォックの血を全身に浴びた男の疾走は、完全な意識外から剣戟を浴びせる。

 そして立ちはだかる道周は、白銀に輝く魔剣をガーランドロフに差し向ける。


「さぁ下衆共、俺が来たからには、叩き斬ってやるよ……!」

「いい威勢だ小僧。喰い千切ってやるよ!」


 怒りに満ちた道周の眼差しに当てられ、ガーランドロフも怒気を露わにする。

 2対2の第二ラウンドが始まる。

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