拮抗と破調 side.道周 1
あらすじ
場面は変わり、ガーランドロフの相手を引き受けたセーネに戻る。
ガーランドロフと相対するセーネは武具を構え、一気呵成の攻勢を仕掛けるのであった。
セーネとガーランドロフの戦いは、両者拮抗し一層の熱を帯びていた。
セーネ翼による空中の機動力と奇想天外な連撃、「空間転移権能を」を駆使した多角的な攻撃を続ける。その速度も去ることながら、間断なく放たれる剣槍の驟雨がガーランドロフに降り注ぐ。
一方のガーランドロフは、2メートルを超える巨躯に白刃の連撃を受けながらも、頑丈さを取り越した堅牢さによって傷一つ付いていない。鉄壁の防御力を誇って尚、空中に滞在するセーネへの反撃にも余念がない。引き抜いた大木や鷲掴みにしたジャバウォックを投擲し、セーネの軌跡を限定する。垣間見えた隙に乗じて跳躍し、鉄拳を振り上げてセーネに襲い掛かっていた。
2人の手練れによる攻防は白熱し森林の木々を薙ぎ払う。セーネが放った数多の武具、ガーランドロフが蹂躙した剥げ上がった森林を辿ると見えてくるのは、更なる戦場である。戦いの舞台は森林地帯から、荒原地帯にまで続いていた。
「――――あーー! 鬱陶しいやつめ! ちょこまかと飛んでは効かぬ攻撃ばかり、貴様が突貫して来なければ状況が変わらぬというのが未だ分からんか!?」
ガーランドロフが牙を抜いて怒鳴りつける。痺れを切らした血眼は、優雅に空を舞うセーネに向けられていた。
怒号を受けて尚、セーネは余裕の笑みを崩さない。悠々と白翼を羽撃かせ、次の武具を両掌に携えた。
「悪いけど、これが僕の戦い方なんだ。君の弱点や突破口が見えるまで、いくらでも時間を使おう」
(といいつつ、救援が来るのを待っているんだけどね。このガーランドロフという男の堅牢さ、恐らく何かしらの権能だろう。リュージーンはこれを看破したらしいが、尋ねるのを怠ってしまった)
言葉と裏腹の感情を抱えながらも、セーネは思惑を悟られないように余裕の表情を絶やさない。
そんな満面の笑みが、ガーランドロフの怒りを更に駆り立てた。
「この小娘が……、必ず地を舐めさせてやるからな……!」
威勢よく獰猛に、ガーランドロフは雄叫びを上げた。暗雲を揺らす咆哮に、味方であるはずのジャバウォックたちでさえ寄り付けずにいる。
しかしこの戦況、圧倒的にガーランドロフの不利であった。
森林地帯での戦闘ならいざ知らず、荒原におびき出されては、空中に舞うセーネを撃墜することは難しい。
この荒原には、木々がない。森林地帯において、林立する大木はセーネの動きを制限し、投擲するための弾丸の役割を果たしていた。無論、ガーランドロフの動きも制限されていたわけだが、大木ごと薙ぎ倒して進撃するガーランドロフには余り関係のない些事である。
森林地帯で拮抗していた戦況は、舞台を移すことによって大きく動くこととなるだろう。
その先手を取ったのは、攻め気に満ち溢れたガーランドロフであった。
「ぐぅ……、たぁっ!」
筋肉の詰まった健脚を深く沈みこませ、両腕を地面に着いて巨躯を支える。地に伏せるように反動をつけ、一息の内に溜め込んだ力を爆発させた。
ガーランドロフは大地を抉るほどの威力で発破をかけ、目にも止まらぬ速さで空中に飛び出す。
ガーランドロフの力づくの跳躍は、瞬間的にではあるが、セーネの視界から姿を消すほどの速度を叩き出した。
「っ――――!?」
セーネがその打拳に反応できたのは、奇跡と言って差し支えないだろう。目前に迫った巌のような拳骨を、紙一重のところで身を翻して回避した。
「まだまだ!」
「ぐうっ――――!」
だが、セーネの反応速度を以ってしても、ガーランドロフの攻撃の全ては避けきれない。
ガーランドロフは空中に残った身体を捻り、強力な回転蹴りを繰り出した。体重に落下の勢いを上乗せし、さらに回転による推進力を得た蹴りは、城砦すら踏み砕く不倶戴天の一撃である。
蹴りを喰らったセーネは、真っ直ぐに地面へ叩き付けられる。人体が地面にぶつかる音が鳴り響き、骨の軋む音が微かに聞こえる。
鈍い衝撃に胃液を吐露し、血塊を飲み下すセーネは、休む間もなく身を転がした。
セーネと入れ替わるようにガーランドロフが着地する。先ほどまでセーネがいた窪みを踏み砕き、ガーランドロフは舌打ちをした。
「本当にすばしっこいやつだ」
「そう言う君は品位に欠けるね」
「なんだと……?」
セーネの挑発はガーランドロフに効果てき面だったようだ。ガーランドロフは一層顔を赤くして、怒髪冠を衝く勢いで雄叫びを上げる。
「だったら望み通り、ばらばらに砕いてやろうか!」
ガーランドロフはまたもや膝を深く曲げ、突貫の構えに入る。
しかし、同じ手を2度喰らうセーネではない。背中の鈍痛を押し殺し、白翼を広げて宙へ舞い上がる。紅の瞳でガーランドロフの一挙手一投足に注目し、微かな動きを見逃さない。
警戒されていることを理解していても、ガーランドロフが攻撃方法を変えることはない。むしろ「面白い」とほくそ笑み、正面から打破すべく全開で挑むのがこの男だ。
ガーランドロフが深い踏み込みをすると、伸縮する筋肉がギチギチとしなった。
瞬きは許されない、刹那の見切り――――。




