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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「激動のグランツアイク」編
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力を貸して side.マリー

あらすじ

モコの窮地にソフィが駆け付ける。2人の逃走にもジャバウォックたちは追い縋り、容赦ない追撃を仕掛ける。そこに駆け付けた戦力とは――――。

「Buriy!」


 ジャバウォックが噛み付き、牙が打ち鳴らす高音が木霊する。その音だけで、ジャバウォックの牙がどれほど頑丈であるかが分かる。

 ジャバウォックが打ち鳴らした牙は肉を割くでもなく、骨を絶つでもなかった。

 そこにいたはずの無防備なモコは、間一髪で背中を掴まれて攫われていた。


「――――……っ?」


 モコは首を動かし、淀んだ視界に人物の影を捉える。疲労で出血で困憊するモコを、ジャバウォックから攫った人物は煌く銀髪を汗に濡らしていた。


「息はしていますね。意識はありますか?」


 モコを抱きかかえたソフィは、力強く小躯を抱き締めて声をかける。虚ろなモコの瞳が動くと、ソフィは安堵したように笑みを溢す。


「よかった! 声は聞こえているようですね?」

「ソ……フィ……さん?」

「無理に喋らないでください。私に身体を預けて、呼吸を整えて!」


 ソフィはモコに刺激を与えないように抱き寄せ、その健脚を生かしてジャバウォックから距離を離す。

 ジャバウォックたちは獲物を攫われ、怒声を上げながら追走する。しかしソフィの疾走には追い付けず、距離はどんどんと離される。

 走力では敵わないと悟ったジャバウォックは翼を広げる。歪な翼で羽撃き、空気を巻き上げて低空で飛行した。


「Buaaarrr!」


 ジャバウォックは飛行の推進力を駆使し、木々の間を縫って走るソフィを目指す。よろよろと歪な軌道で追跡し、行く手を阻む木々にも容赦なくぶつかる。

 3頭のジャバウォックは血眼になり、ソフィとの距離を詰める。

 ソフィがどれだけ走力に自信があろうとも、人間1人を抱えていては速度が劣る。

 ソフィにジャバウォックの爪先が届いた。逃走する背中に切り傷を受けながらも、ソフィはその脚を止めない。鋭痛に表情を歪めながらも、モコを抱く腕に力を込める。


「Burbleee!」


 勝機を手中に収めたジャバウォックが唸る。その加速は衰えず、巨腕を振り上げて追撃を試みる。


 追い付かれる――――!


 ソフィの背中に悪寒が走った。迫るジャバウォックの攻撃は、間違いなくソフィの背中を割く一撃である。

 ソフィに与えられた選択肢は回避の一択である。モコを抱えた状態で、的確な跳躍が求められていた。

 しかし、ソフィは進路を変えない。鬱蒼と生い茂る草木を掻き分けて一直線に前進する。

 ジャバウォックは威勢よく雄叫びを上げる、そして力任せに巨腕を振り上げ、無防備なソフィの背中を狙う。


「Buuulll――――!」


 腕を振り上げたジャバウォックの雄叫びが悲鳴に変わる。ソフィに迫っていたジャバウォックの顔面は、豪快に爆発する。ジャバウォックの意識外から襲い掛かった爆発は、続けざまに後ろの2頭にも見舞われる。


「Bullll!」

「Burrriii!?」


 訳が分からず爆発したジャバウォックたちは撃墜され、慣性のままに地面を滑って顔面を削る。

 撃墜されたジャバウォックたちに、容赦のない爆発の驟雨が落ちる。煌く輝きの粒が降り注ぐと、瞬きの間に大爆発が巻き起こった。


「ソフィ、大丈夫!?」

「はい。背中に一撃受けましたが、傷は浅いです。自分で応急処置可能ですです」


 ソフィの窮地を救ったマリーは、息を切らしながら駆け寄る。

 ソフィの疾走にようやく追いついたわけだが、ただ走ってきたのではない。魔法で風を操り、追い風に乗ってようやく合流したのだ。

 精神と身体の疲労を押して、マリーはモコの顔を覗き込む。


「かなり出血が酷いけど、大丈夫だよね?」

「外傷ではないので、急いで止血をすれば支障はないかと思われます。ただ、安静は必須ですね。今は眠っているようです」

「よかった……」


 モコは眠っているだけだと理解すると、安心して息を漏らす。

 マリーに息遣いに、モコは虚ろに目を開ける。血涙に濁った視界にマリーの笑顔を見付けると、赤黒く滲んだ唇を動かした。


「マ、マリーさん……。どうして…………?」

「もちろんモコちゃんの力になるためだよ。それに、私1人だけじゃないよ」

「へ……?」


 マリーの言葉と目配せに疑問符を浮かべ、モコは促されるままに首を傾ける。ソフィの腕の中でもぞもぞと身体を捻ると、視線の先には先ほど逃げたはずの獣人たちがいた。


「この人たちがモコちゃんの場所と状況を教えて、ここまで案内してくれたの」

「モコさんの行いは、間違っていなかったのですよ」


 マリーとソフィが優しい微笑みを浮かべる。2人の言葉に、獣人たちが拳を突き上げた。


「おれたちも戦うぞ!」

「こんな逃げ方で終われるものか!」

「モコだけに戦わせるなんて、ダセエことはしないってな!」


 各々に声を上げて勝鬨を叫ぶ。獣人たちに宿った闘志は、間違いなくモコが灯した炎である。


「さぁ、行くよ!」

「「「おう!」」」


 マリーの号令に合わせ、獣人たちも呼応した。

 迫るジャバウォックたちの数は増しているが、負ける気がしない。

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