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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「激動のグランツアイク」編
133/369

紅五点 side.マリー

あらすじ

マリーたちは、降り注ぐジャバウォックの群れを迎え撃つ。モニカの権能、ラブの魔法、ソフィの剣捌きが光る中、マリーに新たな課題が立ち塞がる。

「Buurrrbleee!」

「うるさいねぇ!」


 飛来した異形の怪物ジャバウォックに、ラブが怒りの鉄拳を振り落とした。拳骨が脳天を砕き、飛翔するジャバウォックの一頭を叩き落とした。


「Buuu……」

「まだ息をしているようだね。しぶとい!」


 撃墜されたジャバウォックの頭を、ツリーハウスから飛び降りたラブが踏み抜いた。ラブの自重を乗せた落下は、見事にジャバウォックの頭を散らした。


「だいじょうぶですか師匠!?」

「あんたは家で大人しくしてな! 出ておいでモニカ。あんたの出張るときだよ!」

「言われずとも承知しています」


 心配して顔を覗かせたモコを差し置いて、モニカがツリーハウスから飛び出した。

 モニカに遅れてマリーとソフィが姿を現す。出遅れた2人は夜空を仰ぐと、未知の怪物に驚愕する。


「き……、きもっ!」

「な、何ですかあれは!?」

「Burbbb!」


 驚き硬直した2人へ目掛けて、一頭のジャバウォックが大口を開いて襲い掛かる。その後方では、ジャバウォックの群れが続いて牙を剥き、爪を振り上げて降下を始めている。


「急いで迎え撃たないと――――」


 目を疑う怪物の光景から一転、マリーは我に返った。仮想「魔法の杖」こと、木の枝を握り締めて魔法を繰るそのとき、


「セイッ!」


 一陣の風が大地から吹き上げた。筋の通った気合いと同時に発生した突風は砂塵を孕み、風の刃と化してジャバウォックを飲み込んだ。


「マリーたちはモコさんと一緒に、ツリーハウスから避難してください。翼を持つ相手では、樹上にいては危険です。

 この怪物たちはわたくしが相手をしますので!」


 そう言ったモニカは、何食わぬ顔で強風を纏う。モニカはしなやかな四肢を風の衣で包み込み、彼女の挙動に呼応して攻防をこなす。

 モニカが拳を突き出すと突風は槍となりジャバウォックを穿ち、美脚を薙ぐと風の刃となり巨体を切り裂く。

 踊るようなモニカの挙動とは裏腹に、ジャバウォックの群れは次々と無残に細切れにされる。両断された醜い肉塊が地に落ちる音が、鼓膜に張り付き胃腸を締め付ける。


「何だいこの怪物たちは……」


 ラブは淡々とジャバウォックの屍を観察するも、見分のない容姿に首を捻る。

 ツリーハウスから降りたマリーは、できるだけジャバウォックの肉片から目を逸らしてラブとモニカの元へ駆け付けた。

 マリーと足並みを揃えたソフィとモコも、無残な怪物の屍から視線を切った。


「わたくしは急いで戻り、バルボーと合流します。皆さんはラブ様の指示に従い、無事に逃げてください」

「あたしゃ、この土地を捨てる気はないよ」

「この怪物たちの正体は分かりませんが、どうやら視界に写った者から殺しにかかるようです。どうか森の中に避難して下さい」

「うるさいね。この程度の怪物、金子・銀子で何とかなるさね」


 ヒートアップするラブとモニカの論争は、いつの間にかマリーとソフィに飛び火する。

 急に話題を振られた2人は、咄嗟の無茶振りに頭振った。


「ちょっと数が多すぎるって」

「ですです。一斉に襲い掛かられたら押し潰されます」

「接近される前に殺ればいいのさ。

 こんな風にね!」


 言葉尻に力を込めたラブは、作戦会議をする5人へ急襲を仕掛けた個体を迎撃した。掌から放たれた火球は爆発し、周囲のジャバウォックを巻き込んで派手に燃やした。

 煌々と燃える爆炎だったが、炎の勢いを食い破ったジャバウォックが突貫を仕掛ける。


「ふっ!」


 ソフィは弱ったジャバウォックに好機を見出し、跳躍と同時に短刀を奮った。爆発で弱ったジャバウォックの喉元を、一頭ずつ的確に切り裂いていく。

 風になったソフィは着地し、短剣に付着した血流を払う。同時に白目を剥いた化生の数々が落下した。


「かっけぇ……」

「ほら、銀子でも相手ができるじゃないか」


 してやったりとラブが笑う。

 額に汗を浮かべたソフィは、乱れた呼吸を整えて返事をする。


「今のは爆発で弱っていたからです。私の魔法では、あのような爆発は起こせません」

「それは金子の仕事さね」

「わ、私!?」

「そのために修行してきたんだろう!」


 ラブの的を得た指摘に、マリーは深く納得する。

 今こそ戦力として活躍するときだ。それもマリーにしかできない大役である。


 今やらずして、いつやるのか?


 腹を括ったマリーは、握り締めた杖を振りかざす。掌に収まる木の枝の先端へと意識を集め、魔法を放つイメージを固める。

 マリーがイメージする魔法は、扱い慣れた光の魔法だ。着弾とともに誘爆する光球を編み出し、散弾の要領で乱射を狙う。

 マリーのイメージ通り、枝の先に光の粒子が展開する。光の奔流は一点へと集約される。次第に粒の流れは球体へと変化し、確かな形を有して宙に浮いた。

 点々と浮遊する光球は、総計15個。これが、今のマリーにできる最速・最多の魔法であった。


「行くよ! 喰らえっ!」


 額に汗を浮かべながらも、マリーは快活な号令で魔法を放った。

 光球は隊列を成して降り注ぐジャバウォックの群れへと向かう。

 ジャバウォックたちは光球を掻い潜ろうを翼を扱うが、その歪な形により思い通りの軌道を描けない。ジグザグな飛行で光球にぶつかるジャバウォックたちは見事に爆発し、顔面から爆炎を浴びる。


「やった――――」


 が、留めを下すには火力が不足していた。

 爆発が直撃したジャバウォックを始め、群れの突撃は止まらない。

 マリーの魔法は先ほどラブが放った火力に届かず、十全なジャバウォックの突撃を許してしまった。


「どうして!? 火力は集中させたはずなのに!?」

「当たり所が悪かった。熱に強い、分厚い皮膚の部分に当たったんだろうね、本当にどうしようもない弟子だよ!」

「そんなこと言われても!」


 ラブの私的に、マリーは歯噛みして地団太を踏んだ。どんな言葉を返したとしても、「修行不足」の一言で片付けられることが目に見えているからだ。

 そんなやり取りの間にも、ジャバウォックの突撃は続いている。

 目前へと迫る不気味な影の数々に、モニカが出張って対処をする。


「セイッ!」


 モニカが腕を振るう。その動きに呼応して鎌鼬が空を飛ぶ。風の刃はジャバウォックを額から真っ二つに切り裂いた。


「まだまだ!」


 モニカは舞うように四肢を繰る。飛ぶ風の刃はジャバウォックを数々と両断し、遂には一頭残らず切り裂いて終わりを告げた。


「かっけぇ……。

 って、私これしか言ってなくない?」

「私は一言も挟む余地がありませんでした」


 マリーとモコは肩身を狭くして、片隅で反省会を開いていた。

 全く役に立たない弟子たちを見て、ラブは残念そうに息を吐く。


「チビスケは兎も角、金子は何の修行をしていたんだい。魔法の軌道くらい操れるはずだよ」

「う、頑張りますのでご容赦を……」


 ラブの小言を、マリーは素直に猛省する。例え言い返したとて、「修行不足」の一言で片付けられることが目に見えているからだ。


 文句も愚痴も、後回しだ。

 マリーには進化が求められている。


 それはマリー本人も理解していることだった。


(反省は後回し。ここで自分を超えなきゃ、皆の隣には決して立てない……!)


 己と向き合ったマリーは、己を超える。

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