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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「激動のグランツアイク」編
131/369

命絶つ覚悟 side.リュージーン

あらすじ

逃走するリュージーンたちに、遂にガーランドロフが追い付いた。ガーランドロフの暴力が、対抗虚しく兄弟を散らす。

リュージーンに死の一撃が見舞われた瞬間、ウービーが覚悟の攻勢に転じるのだが。

「よお三下共、絶命の覚悟はいいか?」


 突如として現れたガーランドロフが、リュージーンたちの進路を塞ぐ。巨体で通せんぼをして、腕を振り上げて大仰に嘲笑う。

 虎柄の巨躯で道を塞がれ、リュージーンたちは面食らってしまった。余りの驚きと恐怖に、言葉が出ない。

 震え上がったリュージーンたちを見下ろし、ガーランドロフは邪悪に牙を剥く。


「1人見当たらないが、仲間割れでもしたか?」

「うるせえな。余裕がなくて出向いて来たお前は、相当に追い詰められていると見えるが」

「直々に殺してやるんだ。雑魚に舐められて終わるのは癪だし、何より攻撃はアイリーンに任せればいいからな」


 ガーランドロフの口振りは高慢でも慢心でもない。ジャバウォックを量産し続けたのは、ガーランドロフが特攻に専念できるようにするためだ。

 すでにジャバウォックたちの蓋は開け放たれた。


「さぁ、狩りの時間だ」


 ガーランドロフは拳骨を固めた。振り上げて振り下ろす。単純な動作であるものの、その速度は常人よりもはるかに速い。打拳が大地を抉り、その場にクレーターが刻まれる。


「わざと外しやがったな!」

「何でもいい。あんなの当たれば即死だ!」


 戦闘態勢に移行した獣人兄弟が抜刀する。刀を正面に構え、ガーランドロフの間隙を窺う。


「おらおら! 抵抗しないと死ぬぞ!」


 ガーランドロフは楽しそうに拳骨を連打する。狙いを定めることなく出鱈目に放たれる拳撃は、リュージーンたちを弄ぶように繰り出される。

 ガーランドロフの拳は大地に窪みを作り続けて追い立てる。


「そこだ!」


 ガンジョーが反撃に出る。健脚で地面を強く蹴り出し、刀の切っ先でガーランドロフの胴へ突き立てた。

 しかし、刃はガーランドロフを貫かない。その身に突き立つと、易々と半ばで折れてしまう。


「脆いな。何度効かんと言えば理解できる?」


 つまらなそうに視線を切ったガーランドロフは、至近距離のガンジョーに拳を振り下ろした。

 撤退が遅れたガンジョーは、翻した脚に攻撃を受けた。


「ぐっ……!」


 脚の骨に違和感を覚えたガンジョーは奥歯を噛み締める。

 兄が被弾したことに怒り、弟のバンジョーが特攻に出る。


「このっ……!」

「ふん、虫けらが!」


 バンジョーの攻撃も、ガーランドロフには通用しない。届きはするも、皮に一筋の傷も付けられない。

 ガーランドロフは鼻を鳴らし、脚を薙いでバンジョーを蹴り付けた。

 大木にぶつかり止まったバンジョーは、身体を打ち付けられ血塊を吐いた。


「よくも……」


 バンジョーは地に這いつくばりながらも、一矢報いようと爆弾を構えた。その導線に着火しようと企てるが、ガーランドロフがそれを許さない。


「黙れゴミが。ゴミは黙って地を舐めていろ」


 言葉を吐き捨て、大地を蹴り地面ごと捲り上げる。土塊に紛れ、バンジョーが高く舞い上がった。

 ガーランドロフは舞い上がるバンジョーには気にも留めない。視線をリュージーンへと素早く移した。


「お前は特攻して来ないのか?」

「俺はそういう役回りじゃないんだよ」

「そうか。ならば潔く死ね」


 ガーランドロフは短く吐き捨てると、巨腕を持ち上げる。拳骨を握り締め、リュージーンの頭蓋へ狙いを定める。

 リュージーンは力強くガーランドロフを睨み返し、気丈に打撃を受け止めんと仁王立ちをする。


「ふんっ――――!」


 吐き捨てた鼻息とともに打拳が飛ぶ。

 リュージーンに迫る死の実感を目の前に、救済の一矢が待った。

 木々の影から飛翔する一筋の矢は、正確にガーランドロフのうなじを狙い定めていた。

 鋭利な鏃はガーランドロフのうなじへ突き刺さる、ことはなかった。

 金属同士が衝突する、独特の甲高い音が鳴り響く。


「く、くくく……」


 ガーランドロフは無傷の身体を起こし、喉の奥から奇妙な笑い声を漏らす。その顔には勝ち誇った笑みを浮かべていた。


「やはり好機を狙っていたな。大きな隙を見せれば食い付いてくると思っていたぞ」


 嬉しそうに笑みを浮かべ、ガーランドロフは振り向いた。その視線は、森の闇に潜んだウービーを見据えている。


「まずはお前から仕留めてやる。受けた傷の借りは、命で返してもらおうか!」

「まずい……!」


 焦りに駆られたリュージーンが剣を抜いた。ガーランドロフを仕留める絶好の機会、それを逃したウービーに、ガーランドロフへ対抗する手段はない。


(一瞬でいい。ガーランドロフの注意を俺に逸らすことができれば、ウービーがまた隠れることができる)


 リュージーンは一心に剣を振り上げた。しかし剣先が振り下ろされるよりも早く、ガーランドロフが疾走した。

 大地を捲り上げて駆ける様は風の如く、その巨大からは想像もできない速度でウービーに迫った。


「死ねい!」

「うぅ!」


 ガーランドロフの振り下ろした鉄拳を掻い潜り、ウービーは辛うじて攻撃を避けた。しかし木々を薙ぎ倒した衝動でバランスを崩し、膝を着く。

 ウービーの隙を逃すことなく、ガーランドロフは健脚を奮う。大木を踏み潰す重量的蹴りが、ウービーの小躯を撃ち抜いた。


「がっ――――!」


 ウービーは身体に迸る衝動に嗚咽しながらも、後方に跳んで衝撃を緩和した。大袈裟に飛んだ身軽な身体は木々の間をすり抜け、幸運にもガーランドロフとの距離を開ける。

 ガーランドロフはみるみる距離を開けるウービーに追撃を仕掛ける。

 腰を落として大腿に力を込め、屈伸の勢いで跳躍する。弾丸のような直線的な軌道で、手刀を腰で構える。

 一早く着地したウービーは、急ぎ弓を構える。矢筒から抜いた矢を迅速に番え、迎撃するガーランドロフに照準を定める。


「喰らえ!」

「喰らうものか!」


 放たれた矢を、ガーランドロフは正面から受け止める。強靭な肉体は鋼のように矢を弾き、跳躍の勢いのままウービーに接近する。

 それでもウービーは攻撃の手を止めない。森を狩場とする狩人は、その経験から必勝の罠をこしらえていた。

 正面から散発される矢の猛攻を、ガーランドロフは気に留めない。構えた手刀の構えを崩すことなく、視線は真っ直ぐにウービーの心臓を捉えていた。


「ふっ――――」


 ガーランドロフがウービーの身体を射程に定めたとき、ウービーが小さく微笑んだ。その意図は、後を追いかけていたリュージーンを含め、誰にも理解できない意を含んでいた。

 ガーランドロフが疑心する時間も与えず、その罠は起動する。


チッ――――!


 出鱈目に放たれた矢が届いた先には、吊り下げられたリュックと発火装置が仕掛けられている。擦り合わされた鏃同士が火花を散らした。

 その火花が導線に火を灯し、削ぎ落とされた線はすぐさま爆弾に点火した。

 瞬く間に轟音を上げ、大爆発が巻き起こる。

 立ち昇った爆炎はガーランドロフを包み込み、炎熱は渦巻いて肌を焦がす。

 近くで着火したウービーすら、その熱量に顔を覆う。


「これでも死なないんだろうが、少しは効いてくれるか?」


 緊張と疲労、負傷を押したウービーは安堵の溜め息を漏らす。急ぎ弓を背負い踵を返す。


 時間は稼いだ。

 負傷した仲間を庇った。

 己のフィールドで、自分の戦い方を見せた。

 さぁ、満を持して戻ろうか。仲間の元へ――――。


「くそがぁぁぁ! この程度でオレを仕留められるか!」

「が――――っ!」


 発破をかけたガーランドロフが手刀を突き刺す。槍のように鋭利な一刺しは、瞬きを追い越してウービーの胸を貫いた。


「ウービーーー!」


 リュージーンの絶叫が木霊する。

 血の気が引く感覚のまま眩暈がする。

 振り向いたガーランドロフは、沈黙したウービーを投げ捨てる。

 鼻孔を刺す血の臭いに興奮を覚え、蒸気した顔でリュージーンを見据えた。


「次はお前だ」

「……っ!」


 ガーランドロフに睨み付けられ、リュージーンは硬直した。心では逃げなければならないと叫びながら、身体は言うことを聞かない。

 ガーランドロフが大腿に力を込め、爆発的な発破を仕掛ける。


「名も知らぬ獣人よ。君の勇気は、間違いなく仲間を救った。

 ただ、君の命を救えなかった僕を許してほしい――――」


 新たな救世主は悔やみの言葉を漏らし、決意の一刺しでガーランドロフに襲い掛かった。

 嵐のような特攻に、ガーランドロフも思わずたじろいだ。


「リュージーン、その子を連れて逃げて!」


 白翼を広げたセーネが、覇気を放ってガーランドロフに向かい合う。

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