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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「激動のグランツアイク」編
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賭すもの side.リュージーン

あらすじ

リュージーンたちの必死の抵抗は続く。逃走と抵抗、それでも抗えないガーランドロフの猛攻が差し迫る。

「Buuur!」


 未知の怪物「ジャバウォック」の群れが、上空で耳を突き刺す雄叫びを上げる。

 不協和音の雄叫びが重なる中、背後から確かな爆音と灰塵が立ち昇る。林立する木々は薙ぎ倒され、トラの咆哮が夜空に響く。


「ガーランドロフか!? 大将が直々に追いかけて来るのかよ!」

「どうするリュージーン? 迷いなくこっちに近付いて来ていないか!?」

「罠でもしかけるか?」

「そんな時間も道具もないわ! 足止めをするなら、いっそ森に火を放つか?」

「「いいわけないだろ!」」


 ガンジョー・バンジョーは、質の悪いリュージーンの冗談に激しい突っ込みを入れた。

 中々の妙案だと思っていただけに、リュージーンは萎れてしまう。

 そのやり取りの間にも、ガーランドロフは刻々と接近している。薙ぎ倒される木々は徐々に近付き、同時にが―ランドルフの覇気が肌を刺す。


「おら! もっと逃げ惑えよ三下共がぁ!」


 遂にガーランドロフの怒声が届いた。その言い振りから分かるように、ガーランドロフはリュージーンたちの場所を把握しているようだ。


「爆弾を投げるのは駄目か?」

「却下! と言いたいが……」

「そうは言ってられない状況だよな」


 兄弟は渋々と承諾する。その同意を得た瞬間、ウービーが手際よくリュックから爆弾を取り出す。


「ほら、思いっきり使えよ」

「任せな。こういうときは……、こうだ!」


 そう言ったリュージーンは、気合を入れて爆弾を叩き付けた。着火され、勢いよく地を跳ねた手投げ爆弾は合計3個。

 立ち昇った煙幕と炎、火薬の臭いがリュージーンたち4人の身を包んだ。


「熱っ!」

「何するんだよ?」


 リュージーンの奇行に、獣人兄弟は険しい顔をした。視界を塞ぐ煙幕の中で目を凝らし、鼻を塞いで火薬の臭いから身を守る。

 獣人ならではの苦行とも言える環境の中、リュージーンは構わずに次の爆弾を転がした。


「いいか、ここから先は早さが鍵だ。ガーランドロフの嗅覚を妨害できている間に距離を付けるぞ」

「なるほど! 臭いで追いかけられているなら、もっと強い臭いで攪乱するのか!」


 リュージーンの作戦の意図を理解すると、バンジョーは掌を返して賞賛を送る。

 ガンジョーは手早く爆弾に火を着けると、周囲へ拡散するように投擲した。


「こうすれば、もっと効果的だってな!」

「そうだ。できるだけ範囲は広く、時間差をつけて爆発するようにすれば尚効果的だ」


 リュージーンの指示に従い、3人の獣人たちは爆弾を四方八方に拡散する。森林地帯では局所的に爆炎が上り、鼻孔を刺す強い臭いが周囲を包んだ。

 リュージーンたちを追跡していたガーランドロフは、抵抗を受け鼻を曲げる。苛立ちを隠さずに大きな舌打ちを鳴らし、力任せに周囲の木々を薙ぎ倒す。


「ちょこまかと猪口才な! 一掃してくれる!」


 吼えたガーランドロフは、両腕に巨木を抱えた。巨木を棍のように容易く振り回す、2本の回転力で淀んだ空気を払う。

 巨木の回転を止めることなく、ガーランドロフは次手を打る。


「おらぁ!」


 ガーランドロフは両手に掴んだ巨木を天へ向けて放り投げた。葉の生い茂る枝を揺らし、2本の巨木は弧を描いて落下する。

 巨木の切っ先が狙いを定めたのは、リュージーンたちが進む先の道であった。


「仲間の元へ向かっているのだろう。分かるぞ。その道を阻むように放てばいつか当たる。そうでなくとも、時間をかけるほど有利なのはオレの方だからな」


 己の優勢を疑わないガーランドロフは、じわじわとリュージーンたちを追い詰める。一体を覆う森林はガーランドロフの投擲武器へと変貌し、雨あられのように次々と道を塞いでいく。


「くそ! 手あたり次第かよ。無茶苦茶しやがる……が、これが一番効果的なのも腹が立つ!」


 リュージーンは爆炎の中に身を潜ませながら怒りを叫ぶ。着々と前進しているものの、逃走のペースは明らかに落ちている。

 慣れない森の疾走を繰り返し、獣人兄弟の顔色も悪化している。心身共に疲弊し、冷静な判断を下すことが難しくなっていた。


(見るからに追い詰められている……。フィールドを森に移したことが悪手だったか? いいや、最短距離を取ることが最善のはず……!)


 リュージーンは窮地の中で作戦を練り直す。反省は後回し、今から取れる手をシミュレーションし、挽回の好機を探る。

 が、ガーランドロフの猛攻が思考を掻き乱す。


「鬱陶しい! これだから怪力馬鹿は嫌いなんだよ!」

「どうする? もう爆弾がないぞ!」

「どうにかガーランドロフを足止めできないか!?」

「無理だ。膂力・走力・五感、全てのスペックで負けている。それにガーランドロフの権能を突破するには、俺たちじゃ力不足だ」


 リュージーンは悔しさを滲ませて吐き出した。その言葉に嘘偽りはなく、まっとうな評価である。

 諦観がその場を包んだとき、リュージーンの言葉にひっかりを覚える。


「「権能の突破は不可能」ってことは、権能の正体は分かっているんだな?」


 言葉尻を捕まえたのはウービーだった。真剣な声音で、重ねてリュージーンに確認を取る。


「どの程度分かっている?」

「権能の能力と弱点まで、ほぼ間違いなく看破した」

「足止めだけでいいのなら、(ここ)はオレの領分だ」


 そう言い残したウービーは、余裕を持った表情で矢を番える。リュージーンから権能の詳細を聞き取ると、決意を固めて踵を返す。

 リュージーンは、ウービーの背中へ向けて短く言葉を紡いだ。


「大丈夫か? さっきの俺の言葉を変に捉えていないだろうな?」

「心配いらない。オレは元々森林地帯を狩場にしている狩人だ。総合力で劣っていても、経験値でカバーができる」


 それだけを言い残すと、ウービーは来た道を戻っていく。樹上の枝を器用に飛び移り、地を奔るよりも早く煙に紛れる。

 ウービーの背中を見送ったリュージーンたちは、言いようのない不安を覚えた。


 それから少し後、ガーランドロフがリュージーンたちに追い付いた。

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