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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「激動のグランツアイク」編
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下衆の怪物 side.リュージーン

あらすじ

ガーランドロフの元にいたのは、魔王軍幹部の「大魔女」ことアイリーンであった。

その邪悪な魔法を使って、アイリーンとガーランドロフが行っていたこととは――――。

 リュージーンは、本当に他の魔王軍幹部との面識はない。

 かつて父の威厳を高めるために謀略を張り巡らせたとは言え、その全てが裏方である。表舞台にいる者たちの名を人伝に聞く程度であり、能力や実力は持っての他、容貌さえ不確かであった。

 そんな影の中にいたリュージーンでさえ、大魔女アイリーンについては知ってる。

 魔王の秘蔵っ子とも噂される彼女の姿は、他の幹部たちも知らない。顔や出で立ちは、垣間見た者たちの噂によって美化されていく。


 「そんな絶世の美女なわけがない」

 「期待しすぎれば、本当のご尊顔を見たときにがっかりする」


 などと魔王軍中の男たちは言いながら、心では見目麗しい美女を連想する。リュージーンも漏れなくその中の1人であり、大魔女の空想を膨らませていた。

 そして目の前にいる紫髪の美女こそがアイリーンだという。想像通り、いや、想像を超えた美女に、リュージーンは高揚感ではなく不信感を募らせていた。

 アイリーンの容姿が美化されたのは、「秘蔵っ子」であるからこそだ。魔王しか直接会えないと言われるほどの引きこもり体質の魔女が、魔王城から遠く離れた土地にいるなど誰が考えられようか。

 リュージーンが道周たちにアイリーンのころを喋らなかったのも、最終決戦でしか敵対しないだろうと踏んでいたからである。道周たちに過大な不安を与えることなく、敵の全容が掴めてから打ち明ければいい程度に思っていた。

 そんな強敵が、壁を一枚隔てた場所にいる。


(落ち着け、呼吸を整えて、ばれないように潜むんだ……)


 背中に滝のような汗を掻くリュージーンは冷静だった。自らの動揺を理解した上でそれを受け入れる。急な行動は決して起こさず、呼吸を整えることで隠密を継続した。

 平穏で静寂な息遣いで、リュージーンは視線を室内に戻した。

 丁度そのとき、ガーランドロフが苛立ちを隠さずに口を開けた。


「おい、次のやつ」

「……」


 ガーランドロフは、リュージーンの視界の片隅にいた獣人に言葉を投げ掛けた。語り掛けられた猫目の獣人は返答することなく、虚ろな眼差しのまま覚束ない一歩を踏み出す。

 おかしな様子を感じながらも、リュージーンは猫目の獣人の挙動を注視する。

 一歩、また一歩とたどたどしい足取りで、猫目の獣人は歩みを進める。ガーランドロフとアイリーンの対角線上にまで進み、紫色の絨毯に乗ると脚を止めた。

 すると紫色の絨毯に、幾何学模様が浮かび上がる。種々多様な多角形をを傾け移動させ、重ね合わせて描かれた模様は白色に輝きを放ち、絨毯に乗った獣人を包み込む。

 刹那、光の中からどす黒い煙が噴き出した。


「っ!?」


 思わず叫びそうになったリュージーンだったが、両手で口を塞いで堪える。それほどに唐突で衝撃的な黒煙は、遠近感を狂わせるほど高く噴き上がる。天井にまで届くそれは、獣人を中心に渦を巻いてうねり始めた。


「…………っっ! っっっ!!」


 とぐろを巻く黒煙の中から声が漏れる。明確な言葉や叫びはなくとも、それが悲痛と苦悶から来るものであることは容易に分かる。


(あの獣人を、どうするつもりだ……?)


 見守ることしかできないリュージーンは、生唾を飲んで行く末を見守る。

 黒煙は形を目まぐるしく変え、渦巻いた柱の形状から、球体に変異する。その球体は中にいる獣人の上背よりも明らかに小さく、膝くらいの高さまでしかない。

 膨張から収縮をした黒煙は球形のまま煙を循環させる。乱気流のように激しく渦巻く煙の中で、獣人は声にならない叫びを上げ続けている。


「っっ……! ……――――」


 黒煙は球体の形を保ったまま、悲痛な呻きが止んだ。それと同時に黒煙は収束し、花火のように弾け飛ぶ。

 内部で苦痛を叫んでいた獣人の姿が露わになる。

 静観していたリュージーンは、煙に取り巻かれた獣人の行方に興味を示した。一体、煙の内部で何が行われたのか、その答えが、今明らかにな


「……何だ、あれは?」


 そこには猫目の獣人の姿はなく、先ほどまで獣人であった「何か」がうずくまっている。

 未知の「何か」は全部で3頭、生まれたてのそれは、赤黒い身体を上下させながら絨毯に伏している。


「Buur]

「Burbbb」

「Buruuub」


 リュージーンが見たこともない生き物が呻き声を漏らす。その生物が喉に奥から漏らす声は、深いなほどに甲高く奇妙である。

 ずんぐりと太い胴から伸びる長い首は、頭の自重に負けているのか地に伏している。その長首の先には魚類の頭が付いており、見開いた眼と艶のある薄い鱗が詰まっている。鋭利な大爪は絨毯をなぞり、徐々に身体を稼働させ始めた。


「Bu……、urrRRR」


 1頭が背中で広げた皮膜は、左右一対の翼のようだ。しかし本当に飛行ができるのか疑わしいほどに歪で、左右で形が異なっている。


「「「Bu……Burrrbleee!」」」


 そして、3頭が同時に奇声を上げた。耳を塞ぎたくなるような奇声にリュージーンは顔を歪め、その印象を改めた。


(あれは生物じゃない、怪物だ。

 それも、()()()()()()()()……!)


 これこそが、怪物「ジャバウォック」生産の真相であった。

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