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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「激動のグランツアイク」編
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襲撃 side.マリー

あらすじ

マリーの修行は順調に進んでいた。次のステップに進むために踏み出したとき、予想外の敵が襲来する。

 マリーの魔法の修行が始まってから5日が経過した。

 5日目の修行は、4日目の修行と様相が少々異なっていた。

 マリーの修行に側付いていたソフィに加えて、ラブが直接マリーの魔法を行うようになった。


「魔法の最後を見届けるまで気を抜くんじゃないよ。そういうのは手慣れたやつがやることさね。あんたみたいな小娘が、粋がってやることじゃないよ」


「得意なイメージだけ繰り返すのは練習じゃないね。苦手なことを繰り返してこその修行だよ。何のためにあたしが見てやっていると思うの」


「駄目だね、全く駄目。そんな程度じゃあ、実戦練習は程遠いね!」


 ラブに手厳しい言葉攻めに、マリーも負けじと修練を繰り返した。

 日が浅い間から始まった修行は、日が天辺に登っても休みは短かった。そして傾いた太陽が茜色に変わったとき、やっと修行は終わった。

 夜の帳が降りたとき、マリーは疲れにふらつく足取りでハウスに戻って横になる。するとすぐに眠りに落ちて寝息を立てたとき、ラブたちの元に来客が現れた。


「どうも、修行の調子はいかがですか?」


 灰色の毛並みと三角の耳をヒョコンと立てて、モニカが顔を覗かせた。ツリーハウスの中では、マリーの寝顔を見守るソフィと、疲労を癒すラブが座していた。

 しかし、モニカの辛気臭い顔を見るや否や、ラブは嫌味たっぷりに悪態を吐き捨てる。


「あんたは暇なのかい。小娘1人の成長に気を揉んでいる時間があるのなら、もっと政をしてくれないかねぇ」

「わたくしは「5日後に再び来る」と申し上げました。それをもうお忘れですか? 耄碌ですか?」


 ラブの辛辣な物言いに、モニカもついついひっぱられて口が悪くなる。

 間に挟まれる形となったソフィは、我関せずと口を閉ざして静観する。


「それで、実際はどうですか?」

「どうもこうもありゃしないよ。これは正真正銘の魔女さね。魔法の到達度で言えば、予想以上に早い。その分、粗が目立つから、そこさえ押さえれば実践練習の段階に入れるだろうね」

(日中の修行では手厳しく言っていたのに、実力は認めているんですね。本当に面倒くさい性格です……)


 マリーを褒めるラブに他意はない。その素直な口ぶりと行動のギャップに、近くで見ていたソフィは言葉もない。

 ラブからの所感を受け取ったモニカは、満足気に笑みを湛えて眠るマリーに眼差しを送った。


「ラブ様がそう仰るのであれば喜ばしい限りです。また5日後に様子を伺いに来ますので、修行をお願いします」

「モニカさんはもう帰るのですか?」

「はい。またもバルボーが姿を消してしまいましたので、さっさと取っ捕まえてお仕置仕事をしてもらわないといけませんので」


 モニカは涼し気な顔でさらりと言うが、表情の奥には拭えない心労が窺える。察してソフィは、何とも言えない苦笑いで労いの言葉をかける。


「大変そうですね」

「それに、ミチチカたちもそろそろナジュラに到着する頃合いです。彼らからの進捗報告も届くころ合いですので、人手は何人いても足りないくらいですよ」


 モニカはミチチカたちの報告に期待感を示しながら、可愛げのある笑みを湛える。

 モニカが足早に去ろうと反転したとき、ちょうど入室してきたモコと鉢合わせた。

 モコは用意した夕食を盆に乗せてよちよちと運んできたところで、モニカを目前にすると驚いた顔をする。すぐに表情を一変させると、喜色に満ちた様相で瞳を輝かせた。


「モニカさんもいらしていたんですね! すぐにモニカさんの晩ごはんもご用意します!」

「いえモコさん、わたくしはもう帰りますので、お気遣いは結構――――」


 押し気味のモコに、モニカは戸惑いながらも丁重な断わりを入れる。ものの、モコにその手は通用しない。


「モニカさん、帰っちゃうんですか……」


 モコは両手で握り締めた盆を戦慄かせながら、必死に涙を堪える。震える身体を必死に抑え付け、唇を噛み締めて瞳を赤らめる。


「分かりました! 夕食をいただいたら帰ります。なので、泣くのはどうか!」

「はい! そうとなればすぐにご用意します。みなさん、少しお待ちください!」


 モコは返事を受けるとケロッとして愛想を振りまいた。運んできた盆を投げるように降ろすと、跳ねるような足取りで来た道を戻る。身の丈にも及ぶ大きな尻尾は、モコの気分を現すようにルンルンと浮かれていた。

 嫌な汗をかいたモニカは安堵に息を吐いた。


「モニカさんも、子供の純真には敵いませんなー」

「起きていたのですかマリー」

「今さっきね。起きたらモコちゃんがごねてたから見てた」


 マリーはいつも凛々しいモニカのたじろぐ姿を観察して楽しんでいた。モニカもいいように遊ばれていることを重々理解しているので、額に手を当てて困惑する。


「だったら止めてくださいよ……。わたくしも仕事があるのですが―――――」

「ごはんできました!」

「早っ!」


 マリーとモニカの会話を絶ち切ったモコが夕食を運んで入室する。モニカの突っ込みにも、モコは気分上々で食卓を広げる。

 5人が慎ましやかに食卓を囲んだ。

 定着し始めた「いただきます」の掛け声を、マリーが音頭を取って合唱する。音を鳴らして掌を合わせ、呼吸を整える。


「いただき――――」

「「「Burrrbbb!!」」」


 奇々怪々な奇声が森に降り注ぐ。切り裂くような奇声は木々に反響し、獣たちですら震え上がるほどの奇妙な恐怖を刻み込む。


「何事だい!?」


 自らの領地を脅かす猛威に、ラブは不機嫌に顔を歪めた。憤りを露わに外へ飛び出して空を仰ぐと、往年の賢者であるラブでさえ目を疑った。

 空を覆いつくすのは、見たこともない奇形な怪物の群れだ。

 既存の生物で形容しようのない異形のフォルムで、美しさとは縁の遠い乱れた軌跡を描いて飛行する。そんな個々が群れになり、心を掻き乱すおぞましさを与える。

 そんな異形の群れの1個体の瞳がラブを捉える。赤々と血に染まる瞳に理性などなく、視界に写った敵を殺戮するDNAに従順になるまでだ。


「Burrr!」


 声とは言い難い奇声を皮切りに、群れの一部が降下を始める。数えきれないほどの怪物たちが、マリーたちの団欒の時を破壊して襲い掛かる。

次回から「side.道周」です。

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