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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「激動のグランツアイク」編
115/369

夕凪 side.マリー

あらすじ

茜色に染まる帰り道、モコが語った出会いの話に心を砕く一行。そして近付く激動の事件へ向け、時間は刻々と突き進む。

「――――と、こんな感じのなれそめです!」


 モコは一頻り語り終えると、飄々とした顔で話を締めた。その表情には己の生い立ちに関する後ろめたさも物暗さもない。すでに断ち切った出来事なのか、意に介する様子は全くない。

 しかしそれは本人の話だ。

 モコの昔話を聞いたマリーは、感極まって涙を浮かべていた。


「そっか。モコちゃんも大変だったんだね……!」


 堪え性のないマリーは、頬を涙が伝う中でモコを抱き寄せた。愛おしさを体現するように、赤らめた頬をモコに摺り寄せる。

 マリーの熱い抱擁に、さすがのモコも恥ずかしいようで顔を赤くする。


「もう、昔の話ですよ。私は今は何とも思っていませんし、何より師匠への感謝しかありません!」

「うぅ……! もう、たまらん愛いのぉ!」

「きゃー」


 マリーとモコはわちゃわちゃとじゃれ合って異いろい声を上げる。

 ソフィは微笑ましく2人の様子を見守りながらも、進む森の道の警戒を怠らない。


「そろそろツリーハウスに到着しますよ」

「「はーい」」


 ソフィの言葉に、無邪気な2人は行儀よく返事する。


「そういえば――――」


 木々の開けた土地が遠目に見えたとき、思い出したようにマリーが声を上げた。


「ラブさんのことを「ダークエルフ」とか言っていたけど、普通のエルフとはどう違うの?」


 マリーの純真無垢な疑問には、ソフィが反応を示した。


「それはですね」

「何でもいいから早く帰りな。家を前にして足踏みするとは、あたしの飯を遅らせるつもりかい?」

「っ!」


 ソフィの柔和な切り口から、突然しゃがれた声に切り替わる。予想外の声音の変化にマリーは飛び退くほど驚きてしまい、咄嗟に振り向くとラブがいた。

 渦中の人物であるラブは、見るに明らかな苛立ちを醸し出している。

 ラブに睨まれたモコは血相を変え、勇み足で地を蹴る。


「ごめんなさい師匠。すぐに晩ごはんを準備しますね!」


 モコの表情には焦りもあったが、どこか照れ臭そうな熱もあった。昔日と積日の感謝から、今は合わせる顔がないのだろう。言葉を残すとそそくさと発破をかける。

 最後に言い残しがあったモコは、短く振り返ってマリーたちに視線を向ける。


「またマリーさんとソフィさんのお話も聞かせてくださいね!」

「あ、私もソフィの昔の話とか聞いてみたいなー、なんて……」


 マリーは柄にもなく言葉尻を濁してソフィに視線を送る。ソフィに昔の話を尋ねたことがないわけではないが、その度に有耶無耶に話を濁されている。その手の会話はソフィへはタブーなのであろうと察してはいても、やはり気になってしまう。

 マリーは何とも言えない微妙な作り笑いでソフィの様子を伺った。


「お話する機会が来れば……、私からお話しますね」


 ソフィの返答は何とも歯切れの悪いものだった。

 マリーは返答の予想がついていたものの、やはりかと寂しい気持ちで内心肩を落とす。

 一方のモコは気に留める様子もなく、満足気な顔で去っていった。

 モコの後ろ姿を見送り、ラブはソフィに振り返った。


「銀子、あたしに「一応仲間」って言われたときは反発したが、隠し事かい?」

「分かっています」


 ラブは単刀直入にソフィの確信を突いた。

 罰の悪いソフィは、相変わらずラブには冷ややかに答える。ラブにそっぽを向いて、足早にモコの後を追った。


「本当に、いつか打ち明けますから、待っていてください……」

「うん。もちろんだよ」


 ソフィはマリーに向けて言葉を残す。その視線は地面をなぞり、一行に持ち上げらる気配はない。

 マリーの答えに満足したのか、ソフィは微笑を浮かべて颯爽とその場を去った。

 残されたマリーは、先ほどの疑問を忌憚なくラブにぶつけた。


「ねぇラブさん」

「何だい金子。魔法の使い方なら、練習量あるのみだよ。イメージを身体に定着させて、」

「そうじゃなくて、ラブさんが「ダークエルフ」って言うのはどういうこと?」

「何だい、そのことかい」


 ラブは呆れたように溜息を吐いた。誤魔化したところでマリーは満足はしないだろと察しているが故に、説明の面倒くささが勝ってしまう。


「これだから何も知らない小娘は嫌いなんだよ……。

 いいかい、「ダークエルフ」っていうのは、仲間を裏切ったエルフに俗称だよ。誇り高いプライドの塊であるエルフが、こともあろうか仲間に裏切られるんだ。その怒りと憎しみを一身に込めた蔑称こそが「ダークエルフ」だよ。見た目とか性質じゃなくて、個人の歴史の問題さ」


 ラブは一息に説明を終えると、これ以上の質問は受け付けないと言わんばかりに踵を返した。

 マリーは早い説明に混乱しながらも、一つ一つを噛み砕いてゆっくりと理解を深めた。


「さ、あんたもはやく戻りな。自覚はないかもしれないけど、精神も体力も損耗しているんだよ」

「はーい」


 ラブに促されたマリーは、思考をしながらも脚を進めた。考えることと進むことを同時に進行し、ツリーハウスを目指した。

 太陽が沈み星が瞬きを始めた夕と夜の狭間で、マリーたちは憩いの時を得る。


 明日の夜が、命運を分かつ日とは露知らず――――。

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