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異世界転生は履歴書のどこに書きますか  作者: 打段田弾
「激動のグランツアイク」編
110/369

決意せよ side.マリー

あらすじ

マリーは決意を固める。それは仲間のために、これから進む道を照らすために。

「……あんたはそれでいいのかい?」


 ラブはマリーの降参宣言を受けて、疑念の眼差しを向けた。先ほどまでの喧嘩腰から一変した様子は、さすがに不信に感じるようだ。

 同じくソフィも耳を疑い、マリーへ驚きの視線を送っている。

 マリーは深々と下げた頭を上げ、純朴な眼差しを向ける。


「私は、何としてでも魔法が使えるようにならなきゃいけないの。そのために意地を張っている場合じゃないし、あなたに師事することが必要だと実感した。

 それだけのことだよ」

「そうかい。それくらいの頭の柔らかさはあるんだね。

 ……で、あんたはどうするんだい?」


 ラブはマリーに向けた視線をソフィに移し替える。

 ラブに問われたソフィは、困り果ててしまい視線を泳がせる。しばしの困惑を見せたソフィであるが、その決意はすぐに固まった。


「私もマリーの考えに従います。これ以上の交戦は無意味ですし、何より勝ちの芽が見えないのも事実です。

 悔しいですが、あなたは私たちが教えを請うに相応しい相手であると判断しました」

「おやおや、負け惜しみかい。偉くプライドが高いようだね。

 ……それともエルフが嫌いかい?」

「そんなことはありませんよ。嫌いなのはあなた個人かもしれませんよ。ふふ」

「安心しな。

 わたしゃ、何でも他人に教えてもらおうとする金髪、もしくは銀髪の若い女の娘が嫌いなのさ。特に魔女とハーフエルフがね」


 ラブとソフィがにこやかな(?)会話を交わす。互いに向け合う笑顔には、静かな闘志が垣間見える。


「話はまとまったようですね。ラブ様もお受けくださるようで何よりです」


 傍観していたモニカが手を叩いて話をまとめた。

 モニカの強引な帰結に、ラブは訝しんだ。


「あたしゃまだ受けるとは言ってない――――」

「決まりですね。モコさんはお2人を受け入れる準備をお願いします」

「わかりました。お布団となにがいりますか?」

「待ちなチビスケ。まだあたしゃ何も――――」

「それではわたくしは5日後に様子を見に来ますので、よろしくお願いします」


 モニカは口早に言い放つと、颯爽と踵を返す。ラブの反論には耳を貸さずない。

 モニカは新緑の森を吹き抜けた疾風を身に纏い、大地を捲り上げるほどの脚力で大きく跳んだ。

 モニカは一蹴りで森の木々より高く飛び、空中を蹴った。その動きに呼応するように大気が揺れ、衝撃の余波が地表に届いたころには、モニカの姿は見えなくなっていた。

 一目散に逃げて行ったモニカに、ラブは頭を抱えている。反論の余地なく客人を押し付けられては仕方がないだろう。

 マリーとソフィも同様に、モニカの強引なやり口には唖然としていた。もう少し仲介をしてほしかったのだが、その願いを言い出す前に帰られてはたまらない。


「みなさんをお迎えする準備してきますね! お布団どこにしまっていたかなー!」


 ただ1人だけ、モコは状況を受け入れていた。快活に辺りを跳ね回り、嬉しそうな様子でツリーハウスへ戻っていく。

 残された3人の間には、何とも言えない微妙な空気が漂っていた。

 ついさっきまで真剣勝負をしていたにも関わらず、これから生活を共にする者としてのコミュニケーションが必須である。仲介人のモニカも足早に去ってしまった今、当人たちで状況を打破しなければならない。

 意地を張っていたとはいえ、プライドの高いラブが口火を切ることは決してあり得ない。

 ソフィとてコミュニケーション能力が高いわけでもなく、どこぞのリザードマンよろしく饒舌なわけでもない。むしろ人見知りの部類に入るまである。一言目に何を話すかをずっと考え、結局は何も言い出せずにいた。

 この面々の中で第一声を放つ人物と言えば、最早1人しかいない。


「じゃあ、早速ご教授おなしゃす!」


 先ほどまでの戦いを感じさせず、マリーはフランクにラブのプライベートゾーンに侵入した。

 さすがのラブもマリーの転身の早さに驚き、たじろいで後ずさりする。

 しかしマリーは意に介することなく、持ち前の明るさとアグレッシブさで距離を詰める。


「さっきの魔法も使えるようになるのかな? 属性とかあるの? 「炎属性」とか「風属性」的な!」

「な、何を言っているんだいこの小娘は。魔法は使い方さえ理解してしまえば自由だよ!」


 ぐいぐい顔を寄せて瞳を輝かせるマリーの圧力に、ラブは困惑を隠せない。ひねくれ老婆も、勢いに押し敗け素直に答える。


「本当!? じゃあ早速教えてください!」


 一方のマリーは、爛々とした瞳をラブに向ける。その真っ直ぐな眼差しが、ラブに鋭く突き刺さる。

 根負けしたラブは、致し方なく教授をすることにした。


「だったら、ますその魔道具を貸しな」

「え? このステッキ? はい、どうぞ」


 マリーは、ラブに言われるままにステッキを渡す。大きな掌に収まったステッキを、ラブは両手で丁重に握り締めると、


「ふんっ!」


 バキッ!


「でぇぇぇ!?」


 マリーが愛用していた魔法のステッキは、真ん中で綺麗に2つに割れた。そして地面に転がされた青藍の宝玉を、


「ふんぬっ!」


 ゴリッ――――!


「ぎゃぁぁぁ!!」


 ふくよかなラブの御御脚(おみあし)が粉砕した。

 ステッキの成れの果ては、それはもう素晴らしいほどに木っ端微塵であった。

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