潜入任務 side.道周
あらすじ
道周の悪知恵が本領を発揮する。潜入任務を課されたリュージーンとウービーは、渋々と極彩色の宮殿に脚を向けるのであった。
「ほ、本当にこれで行くのか……?」
道周とリュージーンの悪巧みに乗せられ、ウービーは目に見えて困惑していた。十分な説明を受けないまま、何重にも胴に縄を回され、腕ごと括りつけられていた。
そして隣には仏頂面のリュージーンも縄に括られている。
この意味不明な光景は、道周たちの悪巧みに起因する。
「じゃあ、改めておさらいする。この潜入作戦の!」
「お、おう……」
「おー」
道周の号令に、ウービーは困惑し、リュージーンは息の抜けた返事をする。
獣人の兄弟は3人の異邦人のノリに取り残されていた。とりあえずで道周に渡された縄の先を握り、流れ着く先まで静観するしかない。
「リュージーンとウービーは捕まったんだ。この兄弟に連行され、宮殿の中に侵入する」
「そして内情を探る、だろ。
それは俺も考え付いたことだ。なのにどうして俺が縄に括られているんだよ」
「それより先に、オレは確定なのな……。知ってた」
縄に括られた2人の訴えを、道周は余裕の表情で受け流す。3人で唯一自由に動き回れる道周は、強気に振る舞う。
「俺には、ここに残って人質を見守るって役割がある。
それに、ウービーは戦闘面で、リュージーンは潜入面で活躍できる。ベストな組み合わせじゃないか?」
「異議あり……、と言いたいが、反論もないほどのバランスだ。我ながら自分の諜報能力が悔やまれる」
「だからオレは決定稿なんだな……」
ウービーが聞く耳を持たない2人に踏ん切りをつける。自分の能力を見込まれているのなら、それを発揮するまでだ。
道周は仲間の不満を解消すると、すっきりとした顔で捕らえた獣人たちに振り返る。
取り残されていた獣人たちは、自分たちに話の矛先が向いたことに気が付く。ハッと我に返り、リュージーンたちを縛る縄の先を握り直す。
「君たち2人は、作戦通りこの2人を宮殿内部まで送り届けてもらう。可能な限り安全を確保して、内部での活動の補助をする。いいな?」
「できる限りのことはやる。けど、おれたちはガーランドロフの兵士ではない。宮殿内部の深くまでは行けないんじゃないかな」
兄の獣人が反論をする。その言葉に偽りはなく、至極まともな言い分である。
「もちろん無理をして怪しまれることは避けてもらって構わない。というかそうしてほしい。
要は、この2人に必要以上の警戒をされないように立ち回ること」
「力は尽くそう」
道周と兄の獣人の間で話が決着する。
しかし、弟のバンジョーは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「おれたちは全力を尽くす。その代わり、ちゃんと爺さまの身の安全を保障しろよ」
バンジョーの心配は、自らのミッションに対するものではない。このミッションに獣人の兄弟を狩りだす上で取り押さえた、人質である爺さまが心配で仕方ない。岩に括りつけられたままの爺さまを、不安に満ちた視線でひっきりなしに見詰めている。
狸寝入りをしている爺さま本人は、一言も文句を上げることなく瞑目したままだ。呼吸のリズムで肩を上下させているものの、驚いたり憤った様子は微塵も見せないのは年の功であろうか。
道周はバンジョーの不安の種を理解している。不安を取り除くように大仰に魔剣を振りかざし、己の実力を誇張して見せつつけて言葉を紡ぐ。
「安心しろ。ちゃんと刻限の2日後の日暮れまでに仲間が返ってきたら開放する。守ってくれるのなら傷一つ付けないさ。
ただ、裏切ったりしたなら……」
「分かっている。決して救援も呼ばないし、仲間は送り届ける」
「なら交渉成立だろ? 何も問題はない」
道周とバンジョーの間でも話は決着した。
リュージーンとウービーの縄を強く持ち、獣人の兄弟はさっそく出発した。背筋を伸ばして岩場の影から出ると、強い日差しが降り注ぐ。
後ろめたさを一身に背負った兄弟は、真意を悟られないように気丈に歩を進める。
その後ろを引き連れられる2人は、おずおずと足並みを揃えた。この2人を縛る縄は一見堅牢に見える。しかし、その結び目は容易に解けるようになる。このことをリュージーンたちも、もちろん兄弟も知っている。
この潜入任務が今後の動向を左右する。
そのことを身に染みて理解しているリュージーンとウービーは、乾いた唾を飲み込んで極彩色の宮殿に向かうのであった。




