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修行場

 幼き頃から修行に使ってきた修行場に行くと、ローニン父さんは無言で刀を抜いた。


 僕は修行場に置かれていたショート・ソードを取る。

 そのまま無言で斬りかかる。

 カキン、と金属音が木霊する。


「……やるじゃないか、ウィル」


「全部父さんに教えてもらったことだよ」


「いや、太刀筋に野性味と機知が付加されている。数々の実践を経験した男の剣になっているぞ」


「実際、多くのものと戦ってきたからね」


 ひとつひとつ列挙する。


「傭兵崩れ、ゾディアック教団、魔物から悪魔まで、なんでもござれだ」


「いい経験を詰めたんだな。男子三日会わずば刮目してみよ、だな」


 ローニン父さんはそう言うと、つばぜり合いをやめ、蹴りを入れてくる。

 父さんの剣は粗野なものだが、蹴りまで使うのは珍しい。


「それだけお前が強くなったということよ。このままだと抜かれるかもな」


「まさか、そんなのありえない」


「いいや、そうでもないぜ。『神威』を使わなければ遅れを取っちまうかもしれない」


「ならば神威を使ったっていいんだよ」

 軽く挑発すると、剣撃を加える。


「こいつ、一丁前に」


 というがローニン父さんはとても嬉しそうだった。


 父さんの生きがいは僕が強くなっていくこと。見違えるようにたくましくなった僕の剣筋に惚れ惚れしているようだった。


 もしかしたらこれならば『神威』を使ってくれるかもしれない。淡い期待に包まれる。


 ちなみに神威とは神々だけが使える異能のことだった。神々が神威を使えば、天は轟き、大地は割ける。どのような巨竜でも一撃で倒れる。いわば禁断の秘技であった。幼き頃から神威の存在を知っていた僕だが、間近で見たことは一度もない。いつかその技を見せてもらいたいと常日頃から言っていたのだが、ローニン父さんはもちろん、ヴァンダル父さんもミリア母さんもなかなか見せてくれなかった。


「こいつは切り札だし、それにまじでやばい技なんだよ。大事な息子になにかあったら、ミリアがヒステリーで死ぬからな」


 そううそぶくローニン父さん。基本、いい格好しいの父さんがためらうということは相当危険な技なのだと想像できる。しかし、僕はもう大人、それに旅をし、経験を重ねた身。そろそろ子供扱いをするのをやめてほしいところであるが。


 そう思っていると、ローニン父さんは口を開く。攻撃をやめずに言う。


「……この山に来る途中、奇妙な女と遭遇しただろう」


「…………」


 沈黙してしまったのはローニン父さんの顔が思いの外真剣だったのと、僕に心当たりがありすぎるからだった。


「遭遇したよ。父さんのことを仇だって言ってた」


「なるほど仇か。言ってくれるじゃないか」


「……仇なんてありえないよね。父さんが他人に恨まれるようなことをするなんて有り得ない」


「おいおい、おまえの父さんは聖人君子か」


「お酒が大好きで、三度の飯と修行も大好きな剣豪の神様、それがローニン父さんだ」 


 回転しながら剣撃を加えると、ローニンは不敵に肯定する。


「ああ、その通りだ。剣神ローニンは酒と女にめっぽう弱いが、それ以外は最強の神だ」


「ならばあの子の勘違いなんだね。誤解だったんだ」


「いや、誤解でも勘違いでもない。あの娘、ヒフネの師父を殺したのは俺だ」


「……え」


 思わず手に持っていたショートソードを落としてしまう。それを見てローニンは刀を収める。互いの闘志がすうっと消えていく。


「どういうこと? ローニン父さんがあの子の師父を殺したというの?」


「ああ、そうだ。まんまだな」


「なぜ、そんなことを……」


 僕はそう言うが、ローニンの表情から『悲しみ』を感じ取り、言葉を止める。そうだ、ローニン父さんがわけもなく人を殺すわけがないのだ。きっとななにか深い理由があるに違いない。そう思った僕は沈黙する。


「…………」


「…………」


 互いに沈黙すること数分、僕の真剣さを察したローニンは「少し歩こうか」と僕を散歩に誘った。とっくに日が落ちていたが、僕たちは気にすることなく歩いた。

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