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図書館で息抜き

 そのまま宿屋に帰ることなく、王都の散策をする。

 道案内はもちろん、アナスタシア。

 彼女は好奇心の塊である僕を満たしてくれる。

 まずはクロノス時計台に連れて行かれ、そこから街の全景を見る。

 街の端が霞むほどに広い。どこまでも町並みが続く。

 もしも一軒一軒見回ったら、数年は掛かるだろう。それほど王都は広かった。

 アナスタシアはその中でも有名な観光スポットを案内してくれる。

 まずは有名なフライドチキンの店に。

 店の前になぜか老人の蝋人形がある店で、スパイシーなフライドチキンを出してくれる。

 ひとつ食べてみるが、この世のものとは思えない旨さだった。


「すごい!」


 と連呼するが、アナスタシアはその秘訣を教えてくれる。


「この店は異世界からやってきた男が作ったものです。秘伝のレシピ、一八の香辛料を使っているらしいです」


「そんなに。だからこんなにも香ばしいのか」


「ええ、食欲を引き立てる味です」


 アナスタシアは身を食べ終えると、官能的に骨までしゃぶる。

 ルナマリアも美味しそうに食べていた。


「身も美味しいですが、この皮が美味しいですね」


「そうだね。カリッとしていて、スパイシーだ。皮だけ売ってほしいくらい」


「ふふふ、ですわね」


 と油でまみれた指を舐めると三人は席を立つ。



 そのまま王都を観光。

 コインを投げると幸せになる噴水広場。

 広場で行われている大道芸。

 ペットショップなどを覗き込むと、最後は本命に向かう。


「本命……ですか?」


 きょとんと首をかしげるルナマリア。


「うん、僕は魔術の神の息子だからね。何万冊も蔵書がある施設があるなんて聞いたら、うずうずしてしまうんだ」


「ああ、図書館に向かうんですね」


「そう。――あ、ルナマリアは退屈かな?」


 その気遣いに呼応するようにアナスタシアは言う。


「王立図書館には点字の蔵書もありますわ」


「それは嬉しいですね」


 声が弾むルナマリア。

 王立図書館に向かう僕ら。やはり図書館の建物は立派だった。


「たとえ国民が凍えても本を焼いて暖を取ることはなかれ」


「それは?」


 と尋ねたのはルナマリアだが、答えたのは僕だった。


「この国の二代目の国王の言葉だね。たとえその世代が飢えても、知性さえ伝承されれば、その次の世代、子孫たちは飢えないから、という意味の言葉だ」


「さすがはウィル様です」


「たしかに知識は大事だ。大昔は知識が少なくて、麦の収穫量も少なかった。今よりももっと飢えていたんだ。しかし、効率的な開墾の仕方、収穫量が上がる品種の作成、人類は叡智を結晶して農耕工業生産高を上げてきたんだ」


「その通りですわ、博識ですね」


「全部、父さんの受け売りだよ」


「他者から素直に知識を学べるものを賢者というのですわ」


 と言うと僕たちは図書館に入った。

 むせかえるような本の匂いが僕たちを包む。

 軽く――いや、盛大にテンションを上げながら、僕たちは図書館の蔵書を見て回った。


 一日の半分以上、滞在したが、本の山というのはいつまで見ていても飽きないものだった。


 僕は一日中、お気に入りの小説の新刊、あるいはお気に入りの作者の新シリーズがないか探していた。


 山では歯抜けになっていることが多かったのだ。



 アナスタシアは魔術に関する小難しい本を読んでいた。房中術に関する本をしのばせるのも彼女らしい。



 ルナマリアはというと点字コーナーに行くと表情を緩ませる。背表紙の展示に触れ、嬉しそうにしていた。


 あとは開くと立体的な仕掛けが飛び出てくる絵本などにも興味を示す。


 やはり本は素晴らしい。三者三様、それぞれまったく違う性格の男女がともに楽しめるのだから。



 ――もしも魔王復活を阻止できたら、本を作る仕事がしたいな。

 そんなことを思いながら僕は閉館まで図書館を堪能した。



 その後、ホテルに戻ると、ホテルの中にあるレストランで豪華な夕食を取る。

 明日に備えて英気を養うのだ。


「明日は王宮に向かって、そこで大臣と会ってもらいます。そこでウィル様が王の落胤だと確認できればそのまま国王と面会です」


 アナスタシアは予定を事細かに教えてくれるが、さてはて、そう上手くいくかどうか、自分のことながら見物だと思った。

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