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星の痣

 僕がこの国の王子様だったとは……。

 いや、まだ確定ではないけど。

 ただ、その可能性があることだけはたしかなようだ。

 アナスタシアはそれを確かめたいという。


 というわけで最寄りの街の連れ込み宿か、その辺の木陰に入って、互いに全身のほくろの数を数えたい、と主張してくる。


「てゆうか、ミリア母さんみたいな子だな……」


「うふふん、互いに数え合いましょう。わたくしのも見せてあげますから」

 と彼女はスカートをまくし上げると、内股を見せる。

 ルナマリアは「見てはいけません」

 と僕に目隠しをするが、目隠しをされる前に入ってきた視覚的情報を僕は見逃さなかった。


「……その聖痣は。君は勇者なのか?」


 彼女はにやりと笑うと肯定する。


「わたくしは樹の勇者です。エルフ族では数少ない勇者の称号を頂いております」


「だからさっきもあっさりとメテオを唱えたんだね」


「ええ、まあ、あれは余技ですが」


 わたくしの本当の特技は、と続ける。


「これです」


 彼女の足下からにょろにょろと植物のツタが伸びてくる。

 それは樹のツタに代わり、あっという間に簡易的な小屋になる。


 すごい、と見とれていると、彼女は僕の手を引く。中に連れ込んでほくろを数え合う気だろうか。


 まったく、とんでもない破廉恥な女性だ、と思った。

 アナスタシアは僕の表情を見たのか、それは違います、と否定する。


「勇者ではないのですが、殿下には特徴的なほくろがあるそうです。右肩に星の形のほくろが……。それを確認させて頂きたい」


「……なるほどね」


 そういうことならば、今、ここで、白日のもとに晒すべきだと思った。

 僕は持っている荷物をその場に置くと、革の鎧を脱ぐ。そして服を脱ぐ。

 アナスタシアは、「わお、意外と筋肉質、抱かれたいわ」と漏らすが、気にせず脱ぐ。

 露出する僕の右肩。


 そこにあったのは――


 星形のほくろではなく、古傷であった。

 アナスタシアはそれを見て初めて表情を変える。


「そ、そんな、馬鹿な。ウィル様の右肩には星形のほくろがあるはずなのに」


「残念ながらそれは分からない。僕は子供の頃、崖から落ちてしまってね。そのときに傷を負ってしまったんだ。子供の頃の話だから、ほくろがあったかなんて覚えていない」


「そんな事故が……」


「これで僕が王子様でないと証明できたかな?」


 戯けて言うが、彼女は納得しなかった。


「――いえ、分かったのは今現在のウィル様に星形のほくろが確認できないというだけ。わたくしはあなた様こそ、この国の王子だと思っています」


 彼女は改まった態度で言うと、僕に王都にやってくるようにうながす。


「王位に就けとはいいません。今、陛下は病に伏せており、明日をも知れぬ身。最後に生き別れになった息子と再会させてください」


「……でも、僕は」


「振りでいいのです。息子の振りをして頂けるだけでいい。さすれば陛下は安寧の中にみまかることができる」


「…………」


 そのような物言いをされたら、ついて行かないわけにはいかない。

 僕は王都へ行く約束をする。


「さすがは殿下です」


「ウィルだよ」


「さすがはウィル様です」


 そう言い直すと、新しい仲間が加わった。


 エルダー・エルフの妖艶な娘、樹の勇者の称号を持つアナスタシアという少女と一緒に旅することになる。


 さて、このように仲間に加わったアナスタシアであるが、彼女の部下である近衛騎士団は早々に解散した。


「王都まで護衛をしてくれるんじゃないの?」


「いえ、それはやめておいたほうがいいでしょう」


 と首を横に振るアナスタシア。


「先ほど、我々が邪教徒と戦闘になったのも我々が目立つから。我々は王子探索の任を負っていますが、それと同時に救世主探索の任も負っています」


「救世主……」


「そうですわ。やがてこの世界を追う闇を打ち払う存在。彼を一刻も早く見つけ、魔王をこの世界から駆逐せねば」


「そのお方ならばここにいますよ」


 ルナマリアは言う。

 アナスタシアは興味深そうにルナマリアを見つめる。


「この世界を救うのはウィル様です。そういう神託を預かっています」


「……あなたは地母神の巫女ですか。なるほど、ウィル様は王子であると同時に救世主なのね」


 ならば一刻も早く、子種をもらわねば、と言ったような気がするが、気のせいだろう。

 僕は改めて自分が救世主ではないと言う。


「そんなたいそれた存在じゃないよ。僕はテーブル・マウンテンのウィル。神々の息子さ」


 そう言うと先導するように街道に向かった。


 このままここにいたらアナスタシアとルナマリアの「さすウィル」合戦が始まると思ったのだ。


 もしかしたら将来、僕はこの世界を救うかもしれないが、それは僕ひとりだけではない。 きっと多くの人の協力を得てのこと、この世界に住むひとりの人間として悪を討つだけだ。

 だから救世主などというたいそうな呼ばれ方は似合わないような気がした。

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