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ウィリアム・アルフレード

 このようにして妖艶な美女エルフと出逢ったはいいが、今現在は戦闘中であった。

 それは敵の魔法が思い出させてくれる。


《風刃》と呼ばれるエアカッターが僕たちを襲う。それを防御したのはアナスタシアの防御陣であった。


「そういえば今は戦闘中でしたね。ウィル様とむつみ合うのは戦闘のあとにしましょうか」


「ウィル様はそんなことしません!」


 とルナマリアは聖なる一撃を加える。

 僕も聖なる盾で敵をひとりぶん殴り、もうひとりには投げつけて対処する。


『ひゃっほー!』


 聖なる盾は元気よく飛んでいき、元気よく敵をぶん殴ってくる。


『いぇーい! 乙女だからって体術が弱いと思わないことだね』


 正論であるが、彼女のことを乙女だと認識しているのは僕くらいではなかろうか。

 敵にとってはただただ堅い金属の盾である。

 そのように思っていると、魔法を放ちながらアナスタシアが近づいてくる。


「素晴らしい盾ですね。それが噂のイージスの盾ですか」


「名前まで知ってるとはすごいね」


「うふふ、言いましたでしょう。わたくしはウィル様のことならばなんでも知っています」


「というか君は宮廷魔術師と言っていたけど、どうして僕のことを?」


「実はウィル様を探して旅をしていたのですが、その途中、こいつらと遭遇しまして」


「なるほど」


 敵の矢が飛んでくる。アナスタシアはそれを燃やす。


「――まったく、五月蠅い連中ですわ。話すらできない。ここは一気にやっつけてしまったほうが良さそうですね」


 というと彼女は魔法を詠唱する。

 その間、彼女のお付きの近衛騎士団の騎士たちががっつりスクラムを作り、彼女を守る。



「ひとりはアナスタシア様のために! 皆もアナスタシア様のために!」



 という合い言葉とともに陣形を組み、彼女を守る。

 その間、アナスタシアは古代魔法言語を詠唱する。



「たゆたう星海の力よ、我に力を貸せ。石の雨で敵を駆逐せよ!」



 美しい旋律によって完成された古代魔法言語は、そのまま『力』となって発現する。

 雲を切り裂くように宇宙から燃え上がった石が降りてくると、それが地表にぶつかる。

 いわゆるメテオという魔法だが、これを使えるのは上級の魔術師だけだった。


「ウィル様には遠く及びませんが、これくらいはできましてよ」


 にこりと笑うアナスタシアだが、彼女が放ったメテオの威力は凄まじかった。

 轟音とともに地表に落ちると、邪教徒どもが吹っ飛ぶ。いや、消し飛ぶ。

 ほとんどが痛いと思う前に死ねたことだろうが、少し残忍に思えた。


「まあ、ゴミくずどもにも慈悲をかけるとはウィル様はお優しい。あとでアイスの棒であいつらのお墓を作るので、心を穏やかにしてくださいまし」


 と言うが、その言葉を放った瞬間、土煙の中がキラリと光る。

 どうやら生き残りがひとりいたようだ。

 やつらのリーダー格と思われる男は防御陣を張り、難を免れたのである。


 彼は白刃をかざすとアナスタシアに襲いかかってくるが、僕はそれを聖なる盾で防ぐと、ミスリルダガーの柄で後頭部を殴る。


「まあ、素晴らしい。やはりウィル様は素敵」


 ときめいてしまいますわ、と自身の胸を押さえる。

 ありがとう、というべきなのだろうか。分からないが、僕は彼女に握手を求める。

 近衛騎士団とやらと敵対する気がないことを示す。


「まあ、わたくしごときに握手を――」


  アナスタシアは右手を差し出してくる。

 僕たちは握手をすると彼女から事情を聞くことにした。



 まずは「ありがとうございます」スカートの裾を持ってぺこりと挨拶をする様は、貴婦人のようであった。


 軽く見とれてしまうが、ルナマリアがむっとしていることに気がつき、本題に入る。


「ところでアナスタシア、僕のことを知っていたみたいだけど、僕ってそんなに有名人なの?」


「神々に育てられた最強の子、聖剣を岩ごと引き抜いた子、ノースウッドの街の巨人を倒した子、有名でございます」


「そんなに名が知れ渡っているのか」


「我々第三近衛師団の間では、ですが」


「ローカルだね」


「ええ、ローカルです。実は我々は国王陛下よりとある人物の探索を仰せつかっています」


「そうなんだ。どんな人?」


「一五年ほど前に行方不明になった子供です」


「一五年前――」


「ええ、そうです。彼は国王陛下の嫡男だったのですが、政争に巻き込まれてしまいました。とある侍女が彼の命を救うために中立地帯であるテーブル・マウンテンに向かったのです」


「へえ、神々の庇護を受けに行ったんだね」


「そうです。しかし、その侍女は途中で刺客に襲われ、命を失いました」


「……可哀想に」


「その子供はどうなったのですか?」


 そう尋ねたのは神妙な面持ちのルナマリアだった。

 アナスタシアは残念そうに首を横に振る。


「……その後の殿下の行方は誰も知りません。しかし、わたくしたちが掴んだ情報に寄りますと、同時期、テーブル・マウンテンの川に流された赤子を拾った神がいるとか」


「へえ、奇遇だね」


 他人事のように言う僕、それを見てアナスタシアは可笑しくて堪らないようだ。くすくすと笑い出す。


 なぜ、笑うんだろう? とルナマリアのほうを向くと、彼女も呆れていた。


「ウィル様は頭はいいですが、自分のこととなると、ときおり、抜けておられますね」


 きょとんとするが、その答えはアナスタシアが教えてくれる。


「ふふふ、つまり、こういうことですわ」


 アナスタシア、それに近衛騎士団の騎士たちは、僕の前にかしづく。


「ウィリアム・アルフレード・フォン・ミッドニア殿下、この一五年間、ひたすらお探ししました。是非、我らとともに王都にやってきてください。この国の王位を継ぎ、是非ともこの国をお導きください」


「…………」


 一応、僕は後方を見るが、そこには誰もいない。

 ウィリアム・アルフレード・フォン・ミッドニア殿下とは僕のことなのだろう。


「……ええ!?」


 と思わなくもないが、彼らの表情は皆、真剣だった。

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