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探し求めていた星

 草原のダンジョンを制覇した僕たちはそのままジュガチ村に向かう。

 聖なる盾を手に入れたことを報告しに行くのだ。


 リアは「そんな義務はないし、気が変わって盾を寄越せと言われるかもよ」と言ったが、そんなことはないだろう、と僕とルナマリアは反論する。


「草原の民はいい人ばかりだったよ。今さらそんなことは言わないさ」


「そうかしら。私は悪い予感がするのだけど」


「根拠はあるの?」


 と言う問いには、女の勘、と言い返すリア。


「…………」


 そう言うのを当てずっぽうというのだろううが、とりあえず沈黙しておく。


「私の枝毛占いが悪運を告げているのよね。ランダムに一〇本髪を選んで二本以上に枝毛があると悪いことが起こるの」


 髪の手入れを怠っているだけじゃ……、と思わなくもないが、それでもやはり、ジュガチ村に寄らない、という選択肢はない。


 そう思った僕たちはジュガチ村に向かう。

 丸一日掛けてジュガチ村に向かうと、村の人々は温かく迎え入れてくれた。

 僕が聖なる盾を手に入れたと知ると、村人たちは諸手を挙げて喜んでくれる。



「おお、ついに聖なる盾の正当な持ち主が現れたぞ」

「何百年も村の勇者が挑み、挫折した盾を手に入れるとは」

「すごい少年だ、もしかしてこの少年はやがてこの世界を救うのではないか」



 その歓迎ぶりを見て、ルナマリアは、「ふふん」と鼻高々に言う。


「リアさんの女の勘も当てになりませんね。盾を奪われるどころか大歓迎ではありませんか」


「ぐぬぬ」


「枝毛占いは廃業し、キューティクル・ケアに励むべきです」


 とルナマリアは言うが、リアも平和にことが運ぶことを喜んではいるようだ。


「まあ、誰にでも勘違いはあるわ」


 と村人からウェルカム・馬乳酒を受け取っていた。

 僕たちはロカ茶をもらう。

 それぞれ一杯ずつ飲み干すと、村長の家に向かう。

 村長は相変わらずぷるぷると震えていた。

 ただ、彼もやはり僕たちの帰還を喜んでくれた。


「さすがはわしが見込んだ勇者だ」


 今宵も宴を開く旨を教えてくれた。


 毎回、歓待されるのは悪いような気もするが、聖なる盾を持つものをおろそかにするなど、村の恥、と言われれば断るわけにも行かなかった。


 村長はひ孫のアイーシャに村中の女に宴の準備をするように伝えよ、と言うと、アイーシャは喜んでそれを伝えにいった。


 このようにして僕たちは歓待を受ける。

 数時間後に始まった宴は、前回に負けないほど盛大であった。



 宴も佳境に迫り宴もたけなわになった頃――

 僕はそうっと宴の席を抜け出す。


 村の青年フラグなどは「主賓がいなくなっては困る」と赤ら顔で言ったが、ちょっとトイレです、と言うと解放してくれた。


「すぐに戻ってきてくださいよ。もっと英雄謳を聞かせてください」


 そうせがむフラグを背にすると、僕は草むらに向かった。

 そこで用を足す。

 ――わけではなく、ちょこんと座っている少女に話しかける。

 ルナマリアだ。

 彼女はひとり、宴を抜け出すと、空を見上げていた。

 無論、彼女は盲目、星空など見えないはずだが。

 と思っていると彼女からネタばらしをしてくれる。


「……私は生まれたときから目が見えないわけではありません。幼き頃は目が見えました」


「そのときの記憶を頼りに空を見ているの?」


「そうです。星空は数万年経たないと変わらないと聞きます」


「らしいね。数万年生きた人はいないから推測らしいけどね」


 魔術の神ヴァンダルいわく、この世界は球形で太陽を中心に回っているらしい。

 その太陽も銀河と呼ばれる宇宙を回っているとのこと。

 そのことを話すとルナマリアはたおやかに微笑む。


「壮大な話ですね。宇宙は何億年も前から存在するとは本当でしょうか」


「そういう話も聞く」


「何億年も前はこの星空とは違った光景だったのでしょうか」


 僕は星空を見上げる。

 ルナマリアがどの星を見ているか。いや、見ていたかは分からない。

 尋ねれば教えてくれるだろうが、あえて僕は尋ねなかった。

 魔術の神ヴァンダルの言葉を思い出す。


「……誰しもが同じ星を見上げる必要はない。それぞれに自分の星を持てばいいのだ」


 それを宿星という。


 ルナマリアのことだから、その宿星は綺麗なことだろうが、きっと小さくて可憐な輝きだろうと思った。


 一方、僕の宿星はどうだろうか。

 広大な星空の中から探したが、なかなか見つからない。

 仕方ないので諦めるが、諦め掛けた途端、僕だけの星が見える。

 仮面を取って夜空を眺めていたルナマリア、ふとこちらの方を向くと、その瞳に光が映る。

 月の光を反射したものであるが、その光はどのような一等星よりも光り輝いて見えた。



(……これが僕が探し求めていた星なのかもしれない)



 心の中でそうつぶやくとその後、しばらくルナマリアと星を眺めていた。

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