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草原のダンジョンコンプリーツ

 ルナマリアとリアが崖の下に降りると、まず目に入ったのは、岩がめり込んだレギオンだった。


 ぴくぴくと痙攣しているが、それはレギオンの最後の生命活動であった。潰された部分は修復せず、腐り落ちている。


 しかしそんなことはどうでもいい。

 ルナマリアたちが知りたいのはウィルの安否であった。

 ルナマリアたちは手分けをし、ウィルを探すが、周辺に人影はなかった。


「……まさか」


 厭な予感がする。


 もしかしてこの大岩の下に、そう思って大岩を覗き込む、いや、ルナマリアは視覚がないので大岩周辺に集中する。


 するとそこにはなにものかがいた。

 大岩の下から血が流れていることに気がつく。

 それはレギオンの血ではない。レギオンは血を流さないからだ。


「……なにかの間違いだわ」


 ルナマリアはやっとの思いで言葉を選ぶ。


「……あり得ない。ウィル様が死ぬなんて」


 ルナマリアはそう言うと涙腺を崩壊させる。



「……ああ、私はなんて愚かな女なのかしら。こうなると分かっていれば、どんなことがあってもウィル様を止めたのに」


「……私がウィル様を連れ出したから。あの幸せな山から連れ出してしまったから」


「……魔王なんてどうでもいい。この世界を征服されてもいいから、地母神様、どうかウィル様を蘇らせて」



 ルナマリアが嘆いていると、リアがぽんと肩を叩く。

 彼女は憎まれ口を叩かず、傷心のルナマリアに言った。


「……ルナマリア」

 と。


 そのまま抱きしめればふたりの間に友情が生まれるかもしれないが。この場では生まれることはなかった。


 むしろ、確執が深まる。

 なぜならば、リアは大岩の下の死体がウィルではないと知っているからだ。

 悲しみのそぶりを見せたのはリアの悪戯なのだ。

 さすがに悪いと思ったのか、すぐに白状するが。


「てゆうか、あんた、馬鹿ね。ウィルがこんなことで死ぬわけないでしょ。あれはキメラの血よ」


「……え?」


 ルナマリアはリアのほうを振り向く。


「本当ですか?」


「本当よ、てゆうか、黙ってたらどんな顔するかな、と思ったけど、そこに流れているのはキメラの血よ、だって緑色だもの」


 こういうときって目が見えないと不便よね。

 リアはそう漏らすと彼女の肩を掴み、ルナマリアを反転させる。


「あそこに土を掘ったみたいなあとがあるでしょう。見てなさい、いや、聞いていなさい。もうじきあそこが動き出すから」


 すると彼女の宣言通り、もこもこと動き始める。


「ま、まさか」


「秘技、土遁の術! ――なんちて。まあ、ウィルならばとっさに穴を掘って、そこに隠れるくらい余裕よ。たぶんだけど、マタタビを使ってキメラを誘い出して、キメラとレギオンを戦わせ、その隙に穴に潜ったんでしょ」


「……ウィル様」


 リアの説明など、ルナマリアの耳には入っていなかった。


 ぼこぼこと土をかき分ける音に集中した。その数秒後、土の中からにょきっと手が出てくる。ウィルの頭も。


 やはりウィルは穴に潜って岩をやり過ごしたのだ。


 土まみれのウィルは穴から出ると、レギオンの死を確認し、次にルナマリアたちのほうへ振り向いた。


「なんとか死なずに済んだよ」


「ウィル様……」


 ルナマリアは両目に涙を一杯ためると、ウィルの胸の中に飛び込んだ。


 リアは黙ってそれを遠目から眺めた。どうやら悪戯の度が過ぎたことを自覚しているようだ。



 土の中から脱出し、ルナマリアと抱き合う僕。

 しばし、彼女の柔らかさを堪能したが、いつまでもそうしているわけにはいかない。

 守護者を倒したとはいえ、ここはダンジョンのど真ん中だからだ。

 それにリアは木の切り株に腰掛けると、つまらなそうに欠伸をしていた。

 はやし立てたり、茶化されるよりも、くるものがある。


 というわけで彼女の肩をそうっと離すと、このままダンジョンを出よう、という話になった。


 ふたりとしてもダンジョンに長居をする理由はなかったので、その意見は採用される。

 こうして僕たちは「草原のダンジョン」を制覇した。



 コンプリーツ!



 の報酬として手に入れたのは、世にも不思議な戻ってくる盾、しゃべる盾だった。

 彼女はダンジョンを出るとき、もう一度僕に語りかける。



『これからもよろしくね、ウィル。それにそっちのお姉さんたちも』



 無論、その声は僕にしか聞こえないが、それでも聖なる盾は僕たちと仲良くやっていきたいようだ。


 まだまだ旅は続きそうだし、その気持ちはとても嬉しかった。

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