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レギオンの死

出来上がったばかりの屍の道を走る。

無論、最後尾は僕だ。レギオンと呼ばれる死霊の化け物が追ってくる。

時折、嘔吐物のような酸性の液体を吐きかけてきたり、骨の槍のようなものを投げつけてくる。

僕はそれを盾によって防ぐ。


カキン!


という金属音が聞こえる。


盾の表面を軽く覗き込むが、さすがは聖なる盾、傷ひとつなかった。


『へっへーん、ボクは聖なる盾だよ、この程度の攻撃へっちゃらさ』


それは有りがたいことである。


盾を手に入れたことによって仲間を守ることができた。


嬉しくて仕方ないが、喜びを表情に出すのはこいつから逃げ切ってからにすべきか。


というわけで盾を投げつける。

左手の装着具を緩めると同時に盾を投げつける。


盾はものすごい勢いで飛んでいき、レギオンの中心にめり込むが、まったくダメージを受けていないようだった。


慌てて戻ってくる聖なる盾。


『うわー、なにをするのさ、ウィル』


「ごめん、君ならば倒せるかと思って」


『聖なる盾もそこまで万能じゃないよ』


「分かっている。どうやらあいつは知恵で倒さなければいけないようだ」


横やりを入れてきたのはリアだった。


「ウィル、頭がおかしくなったの? さっきから独り言ばかり」


心配そうに顔を覗き込んでくる。

いい機会なので聖なる盾のことを話す。

ルナマリアとリアは得心する。


「なるほど、聖なる盾は意思疎通ができるのですね」


「みたいだね。というわけでなんとかあいつを追い払いたいけど、妙案はないかな、と思って」


「あの化け物を倒すには相当強力な一撃が必要です」


「だろうね」


「ウィル様のフルパワーでも倒すのは難しいかと」

「だと思う。でも、そこをなんとかしないと。てゆうか、今、ひらめいたんだけど、第三階層に大岩があったよね」


「ありました。崖の上に」


「それを利用すればなんとかなるんじゃないか」


「なるかもしれませんが、ひとつだけ問題が」


「というと?」


「ウィル様はその大岩をレギオンに落とそうとしようと思っているのでしょうが、そうそう都合よくは行かないかと」


「たしかにね。レギオンを押しつぶすには、ちょうどいい場所にレギオンを釘付けにしないと」


「はい、それには誰かが囮になってレギオンを引きつけねば。無論、そのものは一緒に圧殺される可能性があります」


「ということは女の子にそれは任せられないね」


「……ウィル様、まさか」


「そのまさかだよ。僕が崖の下であいつを引きつけるから、ルナマリアとリアが大岩を落として」


「それはできません!」


「できるさ。リアは力持ちだから」


そう茶化すと、ルナマリアはさらに声を張り上げる。


「そういう意味ではありません。ウィル様の身を案じているのです。ウィル様はこのような場所で死んでいいお方ではない。レギオンは聖なる盾の守護者、ここで盾を廃棄すれば引き上げていくでしょう。さあ、盾を捨ててください」


「それはできない」


と僕は即答する。


「元々、盾に興味はない。でも、ほんのわずかだけど、この盾と話して愛着のようなものを持ってしまったんだ。だから手放す気はないよ」


「ウィル様……」


『ウィル……』


ルナマリア、それにイージスはつぶやくが、彼女たちの背中を押したのはリアだった。


「ルナマリア! あんた、なに言っているの? 男がやったる! って顔で決意しているんだから、女ができることは笑って見送るだけでしょ」


「……リアさん」


「ウィルがやるといったらやるの。この子は子供の頃からやると決めたら絶対にやるし、すべてを成し遂げてきたんだから」


僕がどうして知っているの? 的な顔をすると、リアは、


「うっさい、風聞よ、風聞。あと骨相学よ、手相にもそう書いてある」


よく分からなかったが、この作戦に賛成し、協力してくれることだけは分かった。


リアの弁を聞いたルナマリアは軽くうなずく。


「分かりました。――ウィル様ならばきっと成し遂げる。それに異論はありません」


彼女は大きくうなずきながら了承すると、作戦に協力してくれることになった。


「それでは私たちふたりは先に大岩に向かいます。ウィル様が合図をしたらそのまま岩を落としますね」


「そうして、魔法で合図する」


と言うとふたりはそのまま駆け出す。


レギオンは彼女たちを狙おうとするが、僕は火球を放ち、レギオンを阻止する。


レギオンの敵意は僕に向かう。


「そうだ、それでいい。このあと岩でぺしゃんこになるまで僕を憎み続けろ」


そう言うと僕も第三階層に向かって走り出した。


二手に分かれたルナマリアとリア。


彼女たちは無言で走るが、ルナマリアは焦燥感に駆られていた。


(……ああはいったものの、ウィル様をひとりにして本当によかったのかしら)


今からでも間に合う。動作にそれがにじみ出ていたのかもしれない。リアは振り向くとその行為を厳しく叱咤した。


「ルナマリア! いい加減しゃんとしなさい。ウィルを信じていないの?」


「もちろん、信じています。しかし、万が一、ウィル様になにかあったらと思うと」


「そのときは一緒に剃髪をして世界の辺境で一生尼さんをやってあげるわよ。つまり、絶対にあり得ないということ」


「…………」


「あのね、さっきも言ったけど、ウィルは最強の力を持っているけど、それは腕っ節ではなく、知恵なのよ」


「知恵?」


「どのような状況でも諦めないこと。どんな不利な状況でも最後まで考え抜くこと。それが神々があの子に与えた最強の武器よ」


「……最強の武器」


「つまり、あの子は勝算のない戦いはしない。絶対、この作戦は上手くいくから」


その言葉を聞いたルナマリアは己の弱い心を叱咤する。

リアの言葉を信じる。

いや、ウィルの力を信じる。


「ウィル様はきっとこの窮地から脱出する!」


そう叫んだ途端、遠くから信号が上がる。


「あれは《信号弾》の魔法」


ふたりは視線を合わせるとうなずく。


「合図みたいね。一気に押すわよ」


「はい!」


と言うが、さすがにルナマリアは非力だった。


ルナマリアだけでは岩はぴくりともしない。しかし、リアは違った。彼女が、


「ふぬぬー!」


と乙女らしからぬ声で岩を押すと、大きな岩が動き出す。


ずずっ、と音を立て、動き始め、崖の縁まで動き、そこから落ちていく。


「やったわ!」


「やりました!」


ふたりは軽くジャンプをしながらハイタッチをするが、すぐに互いが互いのことをあまり好いていなかったことを思い出す。


――それでもちゃんと大岩がどうなったか見送る。

ふたりは崖の下に顔を出すと、岩が下に落下したことを確認した。


残念ながら急に出てきた霧と砂埃によって崖の下がどうなっているかまでは確認できなかったが。


ふたりは互いに顔を見合わせると、急いで崖の下に降りた。


レギオンの死よりもウィルの安否が気になっているという点では、ふたりは共通しているかもしれなかった。

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