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墳墓のアンデッド

キャンプを無事終えると、僕たちはそのまま第五階層に向かう。


そこが終着点であるが、第五階層は普通のダンジョン形式になっていた。


自然地形とかはなく、全部、岩肌か石畳だった。

壁一面に棺があったり、十字架があったりする。


ルナマリアは棺の紋様に触れると、ぽつりとつぶやく。


「もしかしたらここは墳墓エリアなのかもしれませんね」


「墳墓……古代人のお墓か」


「はい。紋様が神々のものではありませんでした。古代のもののように思われます」


「ますますこのダンジョンが古代魔法文明の遺物だと確信したけど、この階層に聖なる盾はあるんだよね」


「はい、アイーシャの言が正しければ」


「嘘をつくような子じゃないけど、聖なる盾はないみたいねえ」


リアは眉に唾を塗るジェスチャーをする。


「嘘とはいわないけど、すでに誰かが持って行ってしまったあとかも」


「その可能性は高いですね」


と言うと、前方に台座を見つける。

宗教的側面が色濃く出た台座であった。

その上には白銀の盾が置かれている。


「あれは!?」


リアは目を輝かせる。

ルナマリアは耳を澄まし、盾の存在を確認する。


「あれは未知の金属ですね。きっと聖なる盾でしょう」


「材質まで分かるんだね」


「消去法です。木材でも、鉄でも、ミスリルでもない材質でした。剛性と柔軟性を兼ね備えた盾です。きっと素晴らしい力を秘めているでしょう」


ささっ、装備してくださいませ、とルナマリアは肩肘をつくが、リアのほうを見ると「遠慮することはないんじゃない」と言う。


「草原の民の宝だとは言うけどさ。別に彼らが作ったものではないでしょうし。それにその盾を正義のために使うならば、その盾も喜んでくれるでしょ」


なるほど、そういうものか。


まあ、このような地下深くまできて盾を持ち帰らないのもなんである。


僕は盾を手に取ろうとするが、ひとつだけ気になることがある。


きょろきょろと周囲を見渡す。


「そういえば守護者がいない」


「たしかになにもいませんね」


「第五階層には守護者がいると聞いたけど」


そのように逡巡しているとリアは言う。


「伝承が外れていたか、それともすでに守護者は役目を終えたのかもよ。いないならいないでこしたことはないんだから、さっさと盾を装備しなさい」


「分かった」


と盾を持ち上げると、僕は左手に装着する。


聖なる盾は円形タイプの小型の盾で、手に持って構えるものではなく、二の腕に装着するタイプだった。


「小柄なウィルにぴったりね」


とはリアの言葉だが、反論するものもいる。


『体格的にはぴったりだけど、ボクはもっとムキムキな戦士がよかった』


それは申し訳ない、と思ったが、「ん?」ともなる。

「てゆうか、今のなんだろう」


と思って周囲を見渡すが、リアとルナマリアしかいなかった。


一応、彼女たちに問いただす。


「ねえ、リア、ルナマリア、今、なにかしゃべった?」


彼女たちはそれぞれに首を横に振る。

「幻聴かな……?」

と結論づけるが、それは違うと言う。


『幻聴じゃないよ、ウィル』


「わ、また聞こえた!?」


どこからだろう? と周囲を見渡すと、彼女がしゃべるたびに盾が光っていることに気が付く。


『正解、今、しゃべっているのは聖なる盾であるボクだよ』


「君はしゃべれるの?」


『もちろん、色々と話すことができるよ。あ、でもボクの声を聞けるのはボクに選ばれた人だけだから』


「さっき、ムキムキの戦士とか言ってなかった?」

『あれは異性の好みだよ。君だって好みの子以外とも冒険してるでしょ』


「たしかに」


リアのほうを見つめる。


「まあ、いいか、聖なる盾だもんね。話せてもおかしくないか」


『お、分かってるじゃん。察しがいいというか、順応性の高い男の子はモテるぞ』


「どういたしまして」


『いえいえ、てゆうか、君は現実を受け入れる能力が早そうだから、正直に話すけど、今、この周りは敵に囲まれているよ』


その言葉で視線をするどくした僕は周囲を見渡す。

たしかにただならぬ雰囲気を察する。


なにか邪悪なオーラをまとったものが周囲からにじり寄ってくる。


僕はルナマリアとリアを台座に呼び寄せると、臨戦態勢になるようにうながした。


彼女たちも邪悪を感じ取っていたようで、それぞれに背中を預ける。


ルナマリアは言う。


「どうやら守護者は盾に振れると現れる使用だったようですね」


「そうみたいね」


「まったく、狡猾な仕掛けだよ、盾を取って喜んでる隙に囲んでくるんだもんな」


「しかし、オーラを見る限りそんなに強くなさそう」


「……強くはありませんが、その代わり数が多そうです」


耳を澄まし、足を引きずるものたちの数を数えるルナマリア。


彼女の唇からもたらされた数字は軽く絶望を覚える。


「……一〇〇、いえ、二〇〇匹はいるでしょうか」

「全部、アンデッドだよね?」


「そうみたいです」


すでに守護者の第一陣は僕たちを囲んでいた。人間の形はしているが人間ではないものたち。


つまり僕たちはゾンビーに囲まれていた。


皆、足を引き釣り、うめき声を発しながら、生者の肉を求めていた。


「普通、守護者ってゴーレムとかが基本でしょうに」


「このダンジョンを作った人は死霊魔術師だったのかもね」


「ああ、だからキメラもいたのか」


「まあ、あくまで推測だけど、そんなことはどうでもいいか。問題なのはあいつらをどうするか、だよ」


「あのゾンビちゃんたちね」


「倒すのに良心の呵責を覚えないのはいいけど、数が多すぎる。」


「ひとり頭70匹ってところね」


「そんなに私のショートソードの切れ味は持ちません」


「僕も体力のほうが自信ない」


「なにを言っているの。私たちはチーム・ウィルでしょう。私たちに不可能はないの」


と言うとリアは呪文を詠唱し始める。

すると彼女の身体は聖なる力で包まれる。

彼女はその力を解放すると、ゾンビの集団に放つ。


彼らの足下から光の柱が伸びると、次々と浄化されていく。


《死霊除去》、ターンアンデッドの魔法だ。


「ふふん、忘れては困るけど、私は巫女なのよ。聖なる力はアンデッドに強いの」


「…………」


巫女であることをすっかり忘れていた、と口にすることはできない。


僕はルナマリアのほうを見る。無論、彼女のことは常に清らかな巫女と認識していた。


彼女はこくりとうなずくと、《死霊除去》の神聖魔法を唱える。


ルナマリアの魔法のほうが神々しく、効果範囲も広かった。


リアはそれを見て頬袋を膨らませるが、なんとかなだめると、ふたりは白兵戦の準備を始めた。


ターンアンデッドの魔法で敵を半分程減らしたが、奥の方から増援が現れたからである。


今度はスケルトンと包帯男(マミー)の大軍であった。


このダンジョンの守護者を作った人物はアンデッドが大好きなようである。


「きっと陰険できもい死霊魔術師だったのでしょうね」


とはリアの言葉だが、その意見には僕も賛成だった。

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