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ウィルの趣味

このように強力なキメラとの戦闘を回避することに成功した僕たち。


ごろごろと喉を鳴らし、お腹を見せているキメラを横目にすると、そのまま横を通り抜ける。


「さすがはウィル様です。戦闘をせずに通り抜けました」


「マタタビがすべての動物に有効だったら戦闘をしなくていいのに」


「そうですね。私は酔うという感覚がよく分かりませんが、きっと心地よいものなのでしょう」


と在り来たりな感想を述べていると、第四階層が見えてくる。


「ふう、これで半分以上進んだわね。あとは第五階層にいる守護者を倒すだけだけど」


「第四階層にもキメラクラスのモンスターがいるかも」


「怖いこと言わないでよ。そういうのは口にすると実現しちゃうでしょ」


「すみません」


「まあ、怒ってないけど。ところで第四階層はどんなところ?」


ルナマリアは「待ってください」と耳を澄ます。


「――音が聞こえます。これは川のせせらぎですね」


「ということはここには川があるのか」


「はい。水が溜っているような箇所もあるようですね。おそらく、湖でしょう」


「なるほど」


湖、川、と聞くと僕の気分は高揚する。


「水遊びが好きなのですか?」


ルナマリアが尋ねてくる。


「嫌いではないけど、それ以上に釣りが好きなんだ」


「まあ、釣りが趣味なんですか」


「趣味じゃないわよ。生きがいよ」


とはリアの言葉だが、その通りだった。


「山では本を読むか、剣を振るうしかすることがなかったんだけど、釣りができる場所もあったからよくいったんだ。山中の釣りポイントを熟知しているよ」


一度、朝から晩まで釣りをしていてミリア母さんに怒られたことを話す。


「それはすごいですね。そうですわ。今からキャンプを張りますから、魚を釣ってきてくれませんか?」


「いいの?」


僕は顔を紅潮させる。


「いいの? ってすでにリュックサックの釣り竿に手を伸ばしているじゃない」


「あ、本当だ」


「まったく、本当に釣りバカなんだから。まあ、いいわ。私とルナマリアでキャンプを設置しているから、その間に立派な晩ご飯を釣ってきてちょうだい」


「うん!」


と元気よくその場を立つ。


その光景を見たルナマリアとリアはお互いの表情を観察する。


両者の顔、どちらも男の子はこれだから、という表情をしていた。


「まったく、男って趣味になると俄然張り切るわね」

「そうですね。いつも生き生きとしていますが、釣りと聞いたときのウィルさんは格別です」


「昔からそうなのよね。まったく、さて、夕食の準備をしましょうか」


「無論、しますが、ウィルさんがなにを釣ってくるか分からないとなにもできません」


「どうせ坊主よ」


「ウィルさんは釣りが下手なんですか?」


「そういうわけじゃないわ。釣りっていうのはほぼ運でそこに魚がいるか、魚がお腹を空かせているか、なのよ。この釣り場の情報はないし、釣れない確率のほうが高そう」


「そんなことはありません。きっとウィル様ならば立派な型の鱒を釣り上げると思います」


「賭ける?」


「いいですよ」


「じゃあ、ルナマリアの予言が当たったら今夜、ウィルの隣を独占できる、で」


「承知しました。今宵は風邪を引かないように気をつけてくださいね」


「言うじゃない、小娘」


と言うとふたりは姉妹のように穏やかに笑った。


巫女ふたりがそのようなやりとりをしているとは露知らず、僕は嬉しそうに釣り場を探す。


「いや、その前に餌かな」


伸縮する竿と糸と針は常備しているが、餌は常備していない。


まずは餌を探す。


第四階層は第三階層と同じく自然タイプのフィールド、土がある。


ということはそこを掘り返せばミミズがいると踏んだ僕は大地を掘る。


するとやはりいた。腐葉土を掘り返すとミミズがうねうねといる。


女性が見れば悲鳴を上げる量いたが、僕からすればすべてお宝だ。魚をゲットする引換券のように見える。


というわけで適量、捕まえると、それを持ってフィールドを歩く。


僕は川を観察する。テーブル・マウンテンでは釣りに明け暮れていたが、釣りのコツは場所選びと言っても過言ではない。


それがすべてなのであるが、さて、ここは釣れるだろうか。


僕は針に餌をつけて釣り糸をたらす。

ちゃぽんと音がすると浮きが浮く。

川のせせらぎを聞きながら浮きが沈むのを待つ。

何分経っても浮きは反応しない。

僕は気長に待つ。

じいっと待つ。


というか僕は釣りが好きと言うよりもこの時間が好きだった。


なにも考えずにただ釣り糸をたらすだけ。


極論を言えば水たまりに釣り糸をたらしてもいいのだ。


僕が求めているのは自然との対話、自然との融和なのかもしれない。


そんなふうに自己分析をしているが、首を横に振る。

「いけない、いけない」


今日の釣りは趣味の釣りではない。


仲間たちの夕飯が掛かった釣りなのだ。真剣にやらねば。


このまま一時間でも二時間でもここでぼうっとしていても苦ではなかったが、僕は竿を引くと、そのままポイントを変えることにした。


ふやけたミミズはその場にぽいっと投げるが、そのミミズを魚が跳びはねながら食べたのは納得いかなかった。


「……まあ、これも釣りあるあるだな」


そんなことを漏らしながら、僕はポイントを変える。

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