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謎の神官

ここより北はマルサ平原と書かれた看板を見つける。


街道はまだ東に続くが、マルサ平原に行くには街道を横にそれないといけないようだ。


「街道ならば治安は安定しているんだけど、不安だなあ」


「大丈夫ですよ、早々、盗賊に出くわすようなことはありません」


自信満々のルナマリア。


なんでも昨日は盗賊に襲われる神託を見なかったのだそうだ。


それに地母神に毎日祈りを捧げる自分には幸運が味方する、とも。


それは心強いが、彼女はひとつだけ勘違いをしている。


たしかにルナマリア自身は幸運なのかもしれない。


先ほど寄った宿場町で食べたフォーチュン・クッキーもひとりだけ当たりだった。


しかし、彼女の横に控える僕は不幸なことで有名だった、ことあるごとにトラブルに巻き込まれる体質なのだ。


そのことを話すと、「毎回、盗賊に襲われるようなことはありません。三文小説ではありませんし」と元気づけてくれたが、彼女の笑顔はすぐに凍り付く。


街道を外れるとすぐにトラブルと遭遇したからだ。


さすがに盗賊とは遭遇しなかったが、似たようなものと遭遇した。ゴブリンの集団だ。


緑色の小鬼の集団。ぼろい衣服に錆びた短剣を装備している。


明らかに殺気立っているのは、どうやら戦闘のあとだったからのようだ。傷ついたものもいる。


「ウィリー!」


とゴブリン語で威嚇してくる。


人間と戦闘したあとなのか、魔物と戦ったあとなのか、それは分からないが、戦闘は避けられそうにない。


こちらには戦う意思はなくても向こうにはあるのだ。少なくとも10匹分は。


「ルナマリア、戦闘になるけど、後方から援護して」


「分かりました!」


後方に下がり、神聖魔法を唱えるが、結論から言えば戦闘にならなかった。


正確に言えば僕らが戦わずに済んだ。


見ればいつの間にか後方にひとりの戦士が立っていた。


年の頃は14、5だろうか。

僕と同じ歳くらいに見える。

女の子であり、綺麗に髪をまとめ上げている。


彼女はフレイルと呼ばれる棍棒を操り、次々とゴブリンを倒していく。


器用にフレイルを振り回す。


ときには力強く、ときには相手の弱点に的確に、剛柔を使い分ける。


「器用な戦士だな」


というのが僕の第一印象だった。

それにとても綺麗な子だと思った。

ルナマリアとはタイプが違う。


ルナマリアはおしとやかで慎ましいタイプだが、この娘は活発で可憐なタイプだった。


僕の身の回りの女性では――

と想像していると、彼女は叫ぶ。


「神々に育てられし子、ウィル、あなたは女性が戦っているのに手助けしてくれないの?」


フレイルを持った女の子は声高に言う。

たしかにその通りなので、短剣を抜いて援護する。


「ごめん、君に見とれていた」


「うふふ、それは当然ね、私は美人だもの」


自分で言う? と思ったが、反論はせずに自己紹介をする。


「僕の名前はウィル、君は知っているようだけど」


「私の名はリア、とある神に仕える神官」


「ルナマリアと同じだ」


「そこの小娘の仕える神よりも上等な神よ」


さすがにそのものいいに腹を立てるルナマリア。


しかし、それでも援護魔法を掛けてくれるのは彼女の優しさだった。


「そのとある神の神託で神々の子がこの地にやってくると知ったの」


「それで僕らを助けてくれるのか」


「ええ、そうよ、聖なる盾を探しているのでしょう」


「そんなことも知っているの?」


「巫女を舐めないの。なんでもお見通しなんだから」


と言いながらゴブリンを倒すリア。僕も一匹、斬り捨てる。


「君は聖なる盾のありかを知っているの?」


「それは知らないけど、私を仲間にするといいことあるわよ」


「たとえば?」


「そうね、ママが恋しくなったときにおっぱいを触らせてあげる」


「…………」


僕が沈黙していると、ルナマリアの聖なる気が高ぶる。


「間に合っています!!」


と彼女の聖なる一撃がゴブリンの集団に襲いかかる。


集団の中心で破裂した《聖柱》の魔法は一気にゴブリンを駆逐する。


それを見たリアはくすりと笑う。


「あらあら、一丁前に焼き餅」


「これは焼き餅ではありません。神聖なウィル様を悪の道に引き込まないでください」


「まあ、母親みたいなことを」


「私はウィル様のお母様にウィル様を託されたのです」


その言葉を聞くとリアは「ふーん……」と妖艶な笑みを浮かべ、己の唇に人差し指を添える。


「あの、女神ミリア様の言葉を忠実に守る点だけは見所あるわね」


「当然です。ウィル様のお母様なのですから」


「まあいいわ。私も治癒神と対立したいわけじゃないから。仲間になってもあまり過度な誘惑はしない」


「仲間になること前提なの?」


僕は呆れながら尋ねる

「もちのろん、ウィルは剣神とかいう小汚い神様に女の子の願いは断ってはいけない、って育てられたのでしょう?」


「よく知っているね」


「ウィルのことならば全身のほくろの数も知っている」


彼女はそう笑うと続ける。


「あなたみたいな優しい子は、女の子をひとり旅させないということも」


「女の子……ね……」


フレイルの直撃を受け、頭蓋骨を破壊されたゴブリンたちを見る。


ローニンだってこんな手荒な真似はしないが、と思わなくもないが、フレイルを納め、女の子のように「きゅぴん」とポーズを取っていると、たしかにか弱き女性に見えた。


このような可憐な女性にひとり旅など、たしかにむごい。


そう思った僕は彼女に手を伸ばす。

すると彼女はそれを握り返してくれる。


「よろしくね、ウィル」


「よろしくね、リア」


このようにして僕にふたりめの仲間ができた。ふたりめの仲間も女性でさらに神官だった。


ルナマリアは少し頬を膨らませながら、


「世界中の巫女を仲間にする気ですか」


と言った。


まさかそんなハーレムのような真似はしないよ、というが、リアはそんなルナマリアを挑発するかのように僕に抱きついてくる。


「そこの盲目の巫女さんもよろしく。ええと、名前は二号さんだったかしら?」


「ルナマリアです!」


と主張する彼女は、いつもより幼く見えて可愛らしかった。

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