聖なる盾を求めて
テーブル・マウンテンの別名は神々の住む山。
その山に捨てられた僕は、その山に住む神々に拾われ、彼らに育てられた。
まずは僕を拾ってくれた主神のレウス、万能の神、無貌の神の異名を誇る神で、常になにかに変身しているため、誰も本当の顔を知らない。
息子である僕も本当の姿を知らないほどだ。
次に紹介するのは剣の神様、名前をローニンという。
遙か東の国からやってきたサムライで、剣術を極めていたら神様になったという生粋の剣術馬鹿だ。
僕は彼に剣術を習い、その腕を磨いた。あと、子供なのに無理矢理お酒を飲まされ、お酒の味を覚えてしまった。
ちなみにどちらも男性の神であるが、父母、全員が男のわけではない。
僕にはちゃんと母親もいる。
彼女の名前は治癒の女神ミリア。テーブル・マウンテンの神々の紅一点にして僕の母さん。
とても美しい女神だが、過保護なのが玉に瑕。
僕のことを常に甘やかし、その豊満な胸で抱きしめてくる。
口癖は「うちのウィルになにかしたら殺す」である。
過激な母親で、料理はあまり美味くないが、僕は母さんのことが大好きだった。
そして最後に紹介するのは魔術の神ヴァンダル、魔術師特有のつば広帽をかぶった隻眼の魔術師。
大昔から魔術の真理を追究するために山に籠もっていた変わりもの。
僕は彼に文字を習い、教養を習い、魔法を教わった。
彼が偉大な魔術師であったからこそ、今の僕は無詠唱で魔法を唱えられるのだと思う。
ただ、若干、常識知らずになってしまったのも彼のせいだろう。
――いや、それは他の神々にも責任はあるのか。
そんなふうに神々のことを思い出していると、僕をこの世界に連れてきてくれた巫女が微笑む。
彼女の名前はルナマリア。
地母神の女神に仕える巫女だ。
盲目の女性で、幼き頃に光を女神に捧げ、以来、地母神の教えに従って生きてきた。
彼女はその地母神から神託を受け、テーブル・マウンテンまでやってきて、僕を下界に誘ってくれたのだ。
彼女とはミッドニア王国を旅し、色々なことをともに学んだ。
剣の勇者と呼ばれる男装の麗人と友達になったのも、アナハイム商会のご令嬢と仲良くなれたのも、ある意味、すべて彼女のおかげだった。
この世界が広いことを教えてくれた女性に感謝をすると、僕は前を歩く彼女に尋ねた。
「東の方に聖なる盾があると聞いたけど、どの辺にあるの?」
地図を広げる僕。
このミッドニア王国はテーブルマウンテンを中心に東西南北に延びている、北部にはアナハイム商会があるノースウッドの街、それに聖剣がある迷いの森などがある。
東部にはなにがあるのか、地図を確認するが、そこには特にランドマークとなるようなものはなかった。
「ミッドニアの東は平原地帯です。特になにもありません」
「それじゃあ、聖なる盾があるというダンジョンは見つけにくいな」
「聖なる盾は草原の民が祀っているダンジョンにあるそうです。まずは草原の民にコンタクトを取りましょう」
「それは名案だ」
と周囲を見渡すが、どこまでも街道が延びている。地平線が見えない。
「僕は山育ちだから地平線に慣れてないんだよな」
テーブル・マウンテンは台形の形をしているが、緑が豊かなのであまり地平線は見えない。
外周部まで行けば遠くを望めるが、外周部にはあまり行くことがなかったのだ。
「故郷の山が遠ざかるのはなんとなく落ち着かない」
振り返るとテーブルマウンテンはだいぶ小さくなっていた。このまま歩けば完全に見えなくなるだろう。
「途中でいったん、里帰りすればよかったですね」
僕の心境を見抜いたのか、ルナマリアが唐突に尋ねてくる。
魅力的な提案であるが、僕は首を振る。
「父さんと母さんには立派な大人になるまで帰らないと誓ったんだ。一ヶ月もしないうちに帰ったら笑われるよ」
それに、と続けると僕は冗談めかす。
「今、山に帰ったら、絶対母さんに束縛される。物理的に。意識と記憶を失うポーションを飲まされ、一生山に監禁されるよ」
「たしかにそうかもしれません」
治癒の神ミリアの苛烈な性格を思い出したのだろう、ルナマリアは苦笑を浮かべ、同意する。
僕たちはミリア母さんの事柄について話しながら、街道を東に向かった




