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ルナマリアの昼寝

第三ラウンド、勇者とその一行が時間を稼いでくれたおかげで僕の骨折は回復に向かう。


無論、応急処置ゆえに完璧ではないが、それでも両足を大地に立たせ、短剣を振るえるくらいになった。


剣が振るえるのならば問題はない。

痛む身体を奮い立たせ、短剣を抜き、サイクロプスに向かう。


僕はレヴィンに後方に下がるように命令しながら、そのまま巨人のもとへ走る。


巨人は僕に一撃を見舞うが、それを颯爽と避けると、巨人の腕に飛び移り、腕を駆け上がる。


腕を攻撃するなどちゃちなことはしない。

そのまま巨人の頭部目掛け、駆け上がる。


その戦いぶりは神話の一説のようだった、とはルナマリアの述懐であるが、僕はただ、無我夢中で巨人に向かっているだけだった。


巨人の弱点だけを冷静に見つめ、今、放つことのできる最強の一撃を見舞うだけであった。


巨人の肩に乗った僕は、ローニンにもらった短剣に力を込める。


ヴァンダルに教えてもらった付与魔法を掛ける。


ミリアに教えてもらった弱きものを守る気持ちを乗せる。


身体中にある力、魔力を込めると、それを刀身に乗せる。


最強の魔法である《陽光》、フレアの魔法を刀身に乗せると、最高の剣技を付加させ、剣閃として放つ。


まばゆい光が短剣から放たれ、辺りを包み込む。


もしもこの一撃が通じなければ僕は死ぬことになるだろう、そのまま巨人に握りつぶされるはずだ。


しかし、後悔はない。それでも仲間を守ることはできた。街の人々を守ることはできた。


きっと父さんたちも喜んでくれるはず。僕を誇りに思ってくれるはず。


そのように思いながら放った一撃。

その一撃は、――正しく報われた。


僕の一撃は巨人の頭部、一つ目の単眼ごと吹き飛ばす。


首から上を失った巨人は、ゆらり、とよろめき、そのまま倒れた。地面に崩れ落ちた。


こうして僕は勝利する。友を救った。街を救ったのだ。


ただ、あまりの激闘、それに先ほどの傷もあり、僕もそのまま崩れ落ちる。その場で意識を失う。


疲労感と痛みが一気に押し寄せるが、僕はそれを受け止めると、大地に倒れ込んだ。


「ウィル様――」


遠くから聞き慣れた声が聞こえてくる。

ルナマリアが僕のところへ走ってくる。

彼女は僕を膝に抱えると、涙を流しながら言った。


「やはりあなたこそ真の勇者です。この世界に福音をもたらすものです」


それはどうか自分には分からなかったが、ルナマリアの膝の上はとても心地よい。


幼い頃、母さんがしてくれた膝枕を思い出しながら、僕は眠りについた。



数日後、僕は意識を取り戻す。

無事だったアナハイム商会の客間で目を覚ます。


目を覚ますと、横にいたカレンが嬉しそうに飛び跳ねる。


「ウィル様が目を覚ましました。しかも私が看病の順番に。これは運命です」


と、はしゃぐと、隣の部屋で控えていたレヴィンがやってくる。


彼女も嬉しそうに僕の手を握る。


「ウィル少年、よく目ざめた。心配したぞ」


彼女は心の底からその台詞を口にする。


その手は柔らかい。改めて女性であることを思い出す。


「――レヴィンさん、無事でよかった。仲間の人たちも大丈夫ですか?」


「ああ、エイミーも、戦士も僧侶も無事だ。勇者ガールズもな。皆、出掛けているが」


「結局、パーティーは解散なんですか?」


「いや、あれから話し合ってまたパーティーを結成することにした。今度は部下と上司ではなく、対等の仲間として一緒に」


「……そうか、それはよかった」


と身体を起こすと、激痛が走る。


「……いて」


「無理をするんじゃない。君は怪我人だぞ」


「そうですけど、いても立ってもいられなくて。ルナマリアは無事ですか?」


見ればルナマリアの姿がいない。それがとても気になった。


「ああ、彼女か。彼女ならばあれから一晩ほど回復魔法を掛けてな。その後、丸二日、水垢離をしながら君の回復を願っていた。昨日、倒れるように崩れてそのまま寝てしまった」


「な!? 水垢離って冷たい水を被るやつですよね。なんてことをさせるんですか!」


「そんなことを強いるわけないだろう。というか止めたが止めなかったんだ」


「くそ、今度は僕が彼女を助けないと」


と言うと立ち上がり、彼女が寝ている客間へ向かう。

そこにはリンクス少年がいた。


彼は涙を流しながらルナマリアの横にいた。


「……なぜ、泣いているんだ。リンクス止めてくれ、そんな表情しないでくれ、それじゃあ、まるで――」


僕はよろめきながらルナマリアのところへ向かう。


やっとの思いでルナマリアの横に向かうと、彼女の顔には白い布が掛けられていた。


「……な、まさか。そんな、ありえない。なぜ、君が死ぬんだ。僕はまだ君に言っていない。旅に連れ出してくれてありがとうと。この世界が素晴らしいと教えてくれてありがとうと。大切な仲間と出会わせてくれてありがとうと」


僕はまだ言っていないんだ……。


最後にそうつぶやくように言おうとしたが、できなかった。声が出なかったのだ。


僕はその場で泣き崩れようとするが、それはできなかった。


男は泣くものじゃない、という父さんの言葉を思い出す。


しかし、泣かなかったのはその言葉を思い出したからではない。泣く必要がなかったからだ。


死んだと思われたルナマリアの胸で泣いていると彼女の胸に気が付く。


その豊満さにではない。胸が上下していることに。


それはつまり、彼女が生きているということであった。


「……ルナマリア、君は生きているの?」


素っ頓狂声を上げると、彼女はぴくりと動く。


ついで、

「ふぁーあ」

と素っ頓狂な声を上げ、その場であくびをしながら目ざめる。


彼女はきょとんと周囲の音を確認しながら、自分の胸の上にいた人物の存在を確かめる。


「その心音はウィル様ですね、というか、もしかして泣いていられるのですか? どうしてですか? は!? もしや激痛が!? 回復魔法を掛けないと」


「い、いや、大丈夫だから」


過保護に僕を抱きしめるルナマリアから慌てて離れるが、僕は非難がましい目でリンクスを見つめる。


彼は申し訳なさそうに謝るが、理由を聞くと納得した。


「ご、ごめんなさい。さっき、窓に大鷲の神がやってきて、泣くように頼まれたから……」


「レウス父さんだな」


僕はこの屋敷の上を飛んでいるだろう父親に批難の念を送るが、それが届いているかは分からない。


しかし、父さんがなんと言っているかは分かる。


「まどろっこしいので余計な世話をやいてやった」


当たりだろうか。大きくは間違っていないだろう。

僕は余計な世話をする父さんに初めて反発する。


「――まったく、余計なことばっかりして」


その口調は本気が少し入っていた。ミリア母さん辺りが聞いたら、


「大切なウィルちゃんが反抗期になった」


と騒ぐかもしれない。そんな感想を持った。

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