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巨人討伐

僕はノースウッドの街まで馬を飛ばすと、巨人の足下に潜り込んだ。


友人を救うためである。

ルナマリアは当然のように制止する。


「ウィル様、駄目です! いくらウィル様でもサイクロプスの重みには耐えられません」


「そうだね。君の言うとおりだよ」


と言うと僕は彼女の意見を無視し、サイクロプスの足下に走り込んでいた。


「なぜ、そのようなことをするのですか?」


ルナマリアは尋ねるが、そんなものは僕にも分からない。


ただ、目の前で友人が潰されるのを見たくない。

理由はそれだけであった。


僕は巨人の足に潜り込むと、友人を守るため、巨人の足を両手で持つ。


「……っぐ、重い」


圧倒的な重さだった。


巨人の全長は10メートルほど。その体重は測定不可能である。


ちょっとした貴族の館くらいの質量があるかもしれない。


そんな化け物が振り下ろした足を支えるなど、常識の範疇の外だった。


理外の行為だ。


しかし、僕はその足を止める。

支える。踏ん張る。

友人を守るため、彼女の命を救うため。

魔力を全開にし、支える。

巨人はそんな僕を見て、愉悦を浮かべていた。

笑っていた。

無駄な行為を、と思っているのかもしれない。


神代の時代に神々に敵対した邪悪な巨人の末裔は、足に体重を軽く乗せる。


徐々に押しつぶす気のようだ。僕とレヴィンの命を弄ぶ気のようだ。


まったく、性格が悪いが、僕は気にしない。

今は全部の力を振り絞るだけだった。


その姿を見て、剣の勇者は言う。


「もうやめてくれ! それ以上は少年の身体が持たない!」


僕の骨はきしんでいる。

否、折れている。ボキボキと音が鳴る。


このままだと確実にふたりとも圧し殺されることだろう。


しかし、僕は止めない。


「どうしてそこまでするんだ? 少年はどうしてそこまで優しいんだ? あたしなんかのためになんでそこまで」


「――友達を助けるのは当然だ」


「怖くはないのか? なぜ、そんな勇気を持てるんだ?」


「それはレヴィンさんだって同じだ。絶対に勝てないと分かっているのに、レヴィンさんは巨人に立ち向かった。誰かを守ろうとした。この街を守った。僕はレヴィンさんを見習っただけだ」


「違う、あたしの勇気は少年からもらったものだ。

本当のあたしは弱いんだ。


他人の目ばかり気にしてしまう、弱い女なんだ」


「ならば僕も弱い男だよ。他人の目は気にしないけど、自分の目を気にしてしまう男だ」


「自分の目?」


「そうだよ。鏡に映った自分だ。レウス父さんはいつも言っていた。朝、鏡を見て自分の目をまっすぐに見られる人間になれって。相手の刀身に自分の顔が映ったとき、醜く歪んでいないか常に確認しろって」


僕はそこで一呼吸置くと続ける。


「僕は誰かのために120パーセントの力を出せる人間になりたいんだ。父さんと母さんが自慢してくれるような人間になりたいんだ。だから君を助ける!」


と言うと僕は力を強める。

出力を上げる。限界を超える!


「僕は神々の子、剣神ローニン、治癒の女神ミリア、魔術の神ヴァンダルの息子なんだー!!」


そう叫ぶと、身体の底から力が湧く、かつてないほどの力が湧く。


そして絶対によろめくことのない巨人の足がよろめいた。


「そ、そんな馬鹿な!?」


レヴィンは驚愕する。


「これがウィル様の真の力……」


ルナマリアが感涙に震える。


僕はこうして一つ目の巨人サイクロプスの足を押しのけ、やつの足から大切な友人を守った。


それを見ていたふたりの女性は呆然とその光景を見つめるが、巨人との戦いはまだ終っていない。


第二ラウンドはこれからだった。



巨人の足を払い除けた僕。

巨人はよろめき、尻餅をつく。


まさか蟻のように矮小な人間に力負けするとは思っていなかったようだ。きょとんとしている。


今が反撃のチャンスであるが、僕は動けない。

なぜならば両手両足の骨が折れていたからだ。


それを見てレヴィンは申し訳なさそうに涙を流すが、ルナマリアは冷静だった。


素早く僕のもとにやってくると、回復魔法を掛けてくれる。


緑色の魔力が彼女の手のひらから放たれる。

とても心地よい感触であった。


「ありがとう。命の差し入れだ」


「どういたしまして」


と微笑むが、お叱りも受ける。


「ウィル様は無茶をしすぎです。さすがに巨人に圧殺されれば地母神とて蘇生は不可能です」


「結果、圧殺はされなかったよ」


「結果論です。しばらくは自重してください」


「分かった」


と言うと舌の根も乾かないうちに立ち上がろうとする。


「無茶です、なにをされるのですか」


「サイクロプスを倒さないと。やつはまだ僕たちを狙っている」


「骨が治るのにはあと五分は掛かります。それまでは安静にしてください」


「それは無理だ。やつは立ち上がった」


と言うとレヴィンは決意に満ちた表情をする。


「あと五分だな。あたしに任せろ。剣の勇者であることを証明する! 父上の娘であることを証明する!」


そう言って剣を持ち、巨人に挑む。


無茶だ、先ほど返り討ちに遭ったではないか! 


と止めたいところであるが、それはできない。


彼女の両目は決意で満ちていたし、さしあたり彼女の剣術に頼るしかないのだ。


しかし、案の定、怒りに燃えた巨人に彼女の剣は効かない。


巨人はレヴィンを握りつぶそうと、巨木のような腕を振り回す。


「危ない!」


やられる、そう思った瞬間、遠くから魔法が飛んでくる。


小さな火球であったが、サイクロプスの大きな単眼に当たったので、巨人の動きは一瞬、止まる。


視線を魔法が飛んできた方向にやると、そこにいたのはかつての勇者の仲間だった。


レヴィンは叫ぶ。


「エイミー!」


エイミーと呼ばれた魔法使いは、「ふんっ」と鼻を向ける。


「別に勘違いしないでよ。あんたのためにこんな化け物と戦うんじゃないんだから。ただ、ちょっと魔法の練習をしたかっただけ」


ツンデレ風に言うが、明らかにそれは言い訳であった。


「良い仲間を持っているみたいですね、剣の勇者は」


ルナマリアは事実を口にする。

僕はルナマリアに返す。


「そうだね、いい仲間『たち』を持っているようだ」


「仲間たち?」


不思議な顔をするルナマリアに僕は説明する。

後方から勇者の仲間たちがやってきたことを。


「女戦士に女僧侶もいる。従者のリンクスは街の壁にのぼってバリスタを撃ってくれるみたいだ」


見れば勇者ガールズたちも遠くから応援してくれていた。


それを見たレヴィンは感動に打ち震えている。


やはり彼は勇者なのかもしれない。

その行動によって多くの人を動かすのだから。

そう口にするとルナマリアはこう漏らす。


「すべての源流はウィル様ですよ。きっとあなたはこの先、より多くの人と出逢い、より多くの人を感化させていくでしょう」


願わくは、その光景を間近で見れますように、と続けると、彼女はさらに回復魔法に注力した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 治癒の女神の息子なのに、ピンチのはずの場面にもかかわらず、自分で自分の怪我を治さない。なんとも不自然な気がします。
[気になる点] 治癒師なら自分で回復魔法使えるのでは?
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