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悪巧み

僕とルナマリア、それに剣の勇者一行が森に入る数日前、ノースウッドの街のとある屋敷で謀議が行われていた。


ここは目抜き通りにある立派な建物であったが、妙に陰気なのは室内が暗いのと参加者のせいだろう。


皆が悪人顔で、小説の挿絵が描きやすそうな人物で固められていた。


この建物はガルド商会の本部、そしてここはその会議室、集まっているのはガルド商会の長と幹部たちだった。


部下のひとりがカレン誘拐の失敗とヴィクトール暗殺の失敗を告げる。


肥え太った男は歯ぎしりをしながらワイングラスを床に叩き付ける。


ガシャンという音がした。メイドが顔色を変えて片付けを始めるが、肥え太った男は「そんなのはあとでいい!」とメイドを下がらせる。


彼の名はボナン・ガルド。ガルド商会の長であるが、見た目通り短気で粗野であった。


アナハイム商会壊滅の作戦が失敗続きなことに腹を立てているようだ。


「いったい、お前達はどこまで無能なんだ。娘ひとり誘拐できないのか。凄腕の傭兵を雇ったんだぞ」


「そのものたちは皆、川に突き落とされてしまいました」


「では、千狐族の娘はどうした。三ヶ月前から入念に仕込ませたんだぞ」


「それも看破されました。娘を救ったのもその父親を救ったのも同じ少年です」


「まったく余計なことをしてくれる。そのガキの名前はなんというのだ?」


「ウィルというらしいです」


「ウィルか。あの傭兵を倒すとはもしかして勇者なのか?」


「それは定かではありませんが、その少年は今、迷いの森に向かっています」


「迷いの森だと?」


その地名で聖剣の存在を思い出したガルドは軽く表情を歪める。


「……ならばやはり勇者か。今でも厄介な存在なのに、聖剣を手にすればどうしようもなくなるかもしれん。手を打たなければ」


というとガルドは傭兵を派遣するように部下に命じる。


「ははっ」とすぐに手配するが、彼は先日の命令を思い出す。


「そういえばカレン・アナハイムの所在地ですが、彼女は今、ノースウッドの郊外にある別荘にいるようです。重武装の兵士に守られています」


「自分の屋敷が安全地帯ではないと気が付き、疎開させたか。ヴィクトールめ、小賢しい」


と言うとなにか思いついたようで悪党じみた笑みを漏らす。


「しかし、郊外にいるというのは都合が良いかもな」


「警備は厳重ですが」


「どんなに警備が厳重だろうと、人間が守っている限り、限界がある。それに俺には先日手に入れたこれがある」


と言うとガルドは自分の考えを披瀝する。


その考えを聞いた部下たちは、賞賛の溜め息と同時に恐怖を覚える。


このお方はなんと残忍で狡猾なんだろう、と思ったのだ。そのような策、常人には思いつかない。


さすがは一代でガルド商会を築き上げた男である。


改めて主の豪腕に敬意を表すと、部下たちは彼の悪巧みが成功するように動き始めた。



街でそのような謀略が練られているとも知らずに森を進む僕たち。


この森の通称は迷いの森、当然のように複雑怪奇な形をしている。まるで迷路のように入り組んでいる。


方位磁石を出すが、当然のようにくるくると回る。


「厄介だね。聖剣を探し出せるか難しいかも」


「弱気なことをいわないでください」


ルナマリアは僕を叱咤する。


「頑張って探すけどね。しかし、剣の勇者たちはどうやって中心部に向かうのだろう」


別々の道を歩いているので彼らの戦略は不明である。


「なにも考えていなそうなのでまっすぐ進む気でしょう。案外、そっちのほうが早く中心部にたどり着けるかも」


とルナマリアが皮肉を漏らす。


僕らは考えすぎて逆にどつぼにはまっているような気がする。


先ほどから同じ光景ばかり目にする。

このままでは遭難してしまいそうだった。

いや、すでに遭難しているのか。


僕たちは現在、どこにいて、どこに進んでいるかも分からなかった。


このままでは遭難し、白骨死体になってしまいそうだったが、そんな不吉な想像をしていると前方から音がする。


なにものかが走っている音だ。しかも彼らは鎧を装着している。


「……勇者たちではなさそうだ。彼らより乱暴な歩き方をしてる」


僕がそう言うとルナマリアもうなずく。


「誰かを追いかけているようですね」


ルナマリアの聴覚は僕以上だ。

その推察に間違いはないだろう。

僕は彼女のほうを振り向くと言う。


「下界に降りてきて分かったことはふたつある」


「どのようなことですか?」


「ひとつは神様たちの常識は世間の非常識ということ」


実感がありますね、くすくすと笑うルナマリア。


「もうひとつは追いかけられている人がいたら、その人は間違いなく善人で、追いかけているほうが悪党ということだ」


その言葉を聞き、苦笑を漏らすルナマリア。


たしかに今のところ毎回そのパターンだったからだ。


お約束こそがこの世界の真実かもしれない。


そう思った僕は走り出し、前方にいるはずの悪党を懲らしめることにした。


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