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テーブル・マウンテンの勇者

剣術の才能があると分かったウィルだが、ヒーラーとしての才能も豊かだった。


5歳の春、僕は山を駆け巡る。


狼や熊の友達とともに、外敵であるモンスターと戦う。


先頭に立ち、仲間を守るために戦闘を繰り広げる。



僕はこのテーブル・マウンテンに侵入した魔物、グリーン・オーガと対峙する。


グリーン・オーガは全身緑色の魔物で、山に侵入しては、森の動物を食い荒らす化け物だった。


いや、食べるだけでは飽き足らず、か弱き動物を虐殺する。必要以上に動物を殺し、嗜虐心を満たすのだ。


そのような化け物を許すわけにはいかない。


僕はローニンからもらったミスリル・ダガーを構えると、グリーン・オーガを駆逐する。


まずはすばしっこい狼のシュルツがオーガを牽制、隙を作ると、僕が懐に飛び込み、横なぎの一撃を加える。


一撃で相手の錆びた剣を吹き飛ばすが、それだけでは終らない。オーガには化け物じみた膂力があるのだ。


丸太のような腕を振り回すが、それは熊のハチによって受け止められる。


熊のハチは山一番の力持ちなのだ。


僕はハチが相手を抑えていてくれている間に、後ろに回り込む。


そして真銀製の短刀を相手の首に突き立てる。


遠慮はない。このオーガからは血の臭いがぷんぷんしたからだ。多くの生物を殺してきた証拠だった。


うめき声を上げながら倒れるオーガ。


こうして僕は戦闘に勝利するが、見れば最初に牽制をし、オーガの視線を釘付けにしてくれたシュルツの背中から血が流れていた。


オーガの一撃をもらってしまったようだ。


僕は傷付いた狼の背中に手を当て治癒魔法を掛ける。


狼のシュルツの身体が緑色に輝き、傷が塞がっていく。


「すごい!」


と動物たちは賞賛をする。


「これはミリア母さんから習ったんだ。ミリア母さんは僕を治癒師にしたいみたい」


動物たちはそれがいい、治癒師になって、自分たちを守ってほしいと口々に言う。


「うん、それはいいね。でも、ローニン父さんは僕を剣士にしたいみたいなんだ」


「治癒師兼剣士になればいいじゃないか」


「そうだね。そういうのを聖騎士(パラディン)というらしい」


「ならば将来は聖騎士(パラディン)だな」


狼のシュルツは微笑むが、僕は苦笑いをする。


「ヴァンダル父さんは僕を魔術師にしたいみたいだけどね。毎日、分厚い教科書や歴史書を読まされる」


「勉強は嫌いなのか?」


「まさか、剣を振るうのと同じくらい好きだよ」


「ならば悩ましいな。剣と魔法と治癒、みっつを極めるしかないか」


「そうだね」


「ちなみにそのみっつを極めたものをなんと呼ぶのだ?」


僕は困った顔をすると、分からない、とポーズをする。


「剣と魔法だけならば魔法剣士という呼称があるけど、剣と魔法と治癒、みっつを極めたものの呼称はないんだ」


「ふむ、ならば新たに作るしかないな」


「自分で作るか、その発想はなかった」


「そうだ、『勇者』という呼称はどうだ? 格好いいではないか」


「勇者か。……うん、格好いいな。でも、勇者ってのは生まれつき決まるってヴァンダル父さんが言っていた。生まれついたときに身体のどこかに痣があるんだって」


自分の身体を見回すが、どこにも痣はない。

しかし、シュルツは気にすることなく言う。


「勇者とは職業ではなく、尊称だ。俺の父が言っていた。自分よりもか弱きものの前に立ち、身を挺して弱者を守るその心意気が勇者なのだと。つまり、ウィル、お前はもう勇者だ。我らテーブル・マウンテンの勇者だ」


「そうか……、そうなのか。うん、じゃあ、僕はテーブル・マウンテンの勇者だ」


改めて勇者という言葉を噛みしめる。


そして肺の中に目一杯刻み込むと、


「僕はテーブル・マウンテンの勇者だー!」


と叫んだ。


その言葉は山の隅々まで響き渡った。



治癒の女神ミリアはその姿を目に焼き付けると、ほろりと涙を漏らす。


立派に成長したウィルに感慨を抱いたのだ。


先日まで赤子だったウィルが立派に成長したものである。


しかも立派な治癒の使い手になっていた。


ウィルは上級魔法である《即回復》の魔法まで習得している。


無論、それを教えたのはミリアであるが、この歳で使いこなせるようになるとは思っていなかった。


ウィルの治癒師としての才能は、かつてミリアが治癒魔法を伝授した伝説の聖女と同等かもしれない。


いや、彼女ですら、この歳で《即回復》は使えなかったであろう。


それくらいウィルの才能はずば抜けていた。


将来が楽しみであるが、ミリアにはひとつだけ心配があった。


ミリアの瞳に可愛いウィルが映る。


「てゆうか、ウィル可愛すぎ。このままだと世界中のお姫様から求婚されちゃうかも」


ウィルの容姿は少女のように可愛らしかった。


それだけでなく、誰よりも強く、優しい少年は、ミリアの自慢の種であった。


ミリアは印画紙にウィルの姿を転写させると、神々の寄り合いで自慢することを誓った。


近く、治癒系神々の集会があるのである。

そこで思う存分、親馬鹿になるつもりであった。

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