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カボチャ料理

カボチャの名産地ククリコ村はテーブルマウンテンの裾野にある村である。


人口は200人くらいだろうか。

街道から少し離れたところにある小さな村である。

名産品は上記の通りカボチャである。


また、街道からそこそこ近いため、宿場町の機能もあるようだ。宿屋が何軒かあった。


どの宿に泊まろうか悩む。


僕とカレンは、「このご休憩40シルと書かれた宿屋はどうかな?」


と派手目の宿を指さすが、ルナマリアは首を横に振る。


「ウィル様、それは駄目です」


と断固とした口調だ。なんでもあとで聞いたが、ここは連れ込み宿らしい。


僕は小説でその意味を知っていたので顔を赤く染める。


というわけで僕たちは無難に、一晩60シル、夕食朝食付きの宿を選んだ。


宿に入ると宿の女将さんが湯桶を持ってきてくれる。これで足を洗って疲れを癒やすらしい。


素直にそれに従うとたしかに疲れが抜ける。


「もっと湯が必要な場合は、2シルね。お風呂に入りたい場合は8シルだ」


お風呂に入りたいですわ! とカレンが主張するので、お風呂も借りる。


ルナマリアは贅沢を戒めたいようだが、スポンサーが払うというものを拒否する気はないようだ。


お風呂場に向かうとき、「……久しぶりに髪を洗えます」とつぶやき、嬉しそうにしていた。


こういうところは彼女も女の子である。


ただ僕もお風呂は好きなので、ふたりが入ったあとに有り難く頂戴すると、そのまま食堂に向かう。

夕食を食べるためだ。


宿が用意してくれた夕食は豪勢なもので、カボチャを中心に作ったものだった。


カボチャと豚肉のシチュー。

カボチャの揚げ物。


カボチャプリン、パンにもカボチャが練り込まれていてほんのり甘い。


カボチャは山でも食べていたが、さすがに名産地で食べるカボチャはひと味違った。


カレンも満足しているようで、プリンのお代わりまでしている、


一方、ルナマリアは小食というかとてもゆっくり食べている。


食事の前のお祈りも長かった。


なんでも地母神の神殿では食べ物に感謝する習慣はあっても美味い料理を作る習慣はなかったそうだ。


毎日、マッシュポテトとグリンピースばかり食べていたらしい。


カレンは「可哀想……」と同情するが、彼女は気にした様子もなく、黙々と食事を食べる。


ただ、美味いという味覚はあるようで、時折、「美味しいですね」と微笑む。


それを眺めながら食事していると、すべてを食べ終える。


あとは部屋に帰って寝るだけである。

お金は潤沢なので、男女別々に部屋を取ってある。


ただ、そのことを告げるとカレンは「つまらないですわ」と嘆く。ウィル様の横で寝たいです、とも。


過激な発言であるが、ルナマリアに「……カレンさん」と睨まれると、彼女は撤退し、ひとり部屋に向かう。


彼女がいなくなると、ルナマリアは「ふう……」と吐息を漏らす。


「神殿には絶対いないタイプの女性なので、扱いに困ります」


「下界には詳しくないけど、彼女が特殊だとは分かる」


「その通りです」


と言うルナマリアだが、彼女も変わりものである事実は変わらない。


食事の前どころか食事のあとも長時間お祈りするのは変わりもの部類に入るだろう。


もっとも地母神の巫女である彼女には当然のことなのかもしれないが。


「うちには女神様そのものがいたけど、食事の前のお祈りとかはしなかったなあ」


と漏らす。


「ミリア様は治癒の女神様ですからね。地母神は大地の豊穣を願う神。大地の恵みに感謝を捧げる決まりなのです」


「なるほど。ところで地母神の教団なのだけど、どこにあるの?」


「テーブル・マウンテンの南側にあります」


「じゃあ、正反対の方向だね」


「そうなりますね。もしも向かうのならば山を突っ切ったほうが早いかもしれません」


「用があったらそうしよう。山ならば抜け道をいくつも知っている」


「さすがはウィル様です」


と言う彼女に質問を続ける。


「君が僕の従者になるのは教団の偉い人の命令なの?」


「いえ、大司祭であらせられるフローラ様は私が旅立つのを反対しました。フローラ様は私を娘のように可愛がってくださっています」


「じゃあ、なんで旅だったの?」


「地母神の神託があったからです」


「神託か。それは夢で見るものなの?」


「色々な形があります。夢で告げられることもありますし、白昼、突然脳内に響くこともあります」


「神託は他の巫女も授かるの?」


「稀に授かるようですが、私のように頻繁に神の声を聞けるものは珍しいようですね」


なので神殿内では「盲目の聖女」というあだ名で呼ばれているらしい。一目置かれているようだ。


「しかし、目が見えないのにひとりで旅をするなんて大変だろうに」


「そんなことはありません。目は見えませんが、その代わり耳は良いのです。それで十分、補えます。また、目が見えないことでより一層神に近づけるのです。いつも地母神が側にいて息吹を感じるような気がします」


と言うと彼女は両手を握り、祈りを捧げる。

聖女様独特のオーラが出ている。


その神々しさは特筆のもので、ミリア母さんに爪の垢を飲ませたいところであるが、心の内に留めていると、ルナマリアは「それに――」と続ける。


「今はウィル様という勇者が一緒にいてくれます。これほど心強いことはないです」


「側にいる限り、全力で護るけど、僕は勇者じゃないよ」


「ならば大英雄様が側にいるだけで安心です」


と微笑む少女。

全面的に僕を信頼しているようだ。

その笑顔を見ると騎士道精神に駆られる。


「まあ、大英雄になれるかは別にして、英雄と呼ばれるくらいにはなりたいかな」


ローニン父さんも常日頃から言っている。


自分のためでなく、他人のために「120パーセントの力を出せる男になれ」と。


ルナマリアという少女のためならば「123パーセント」くらいの力が出せそうであった。


そのことを伝えると、ルナマリアは花が咲いたかのような笑顔を浮かべてくれた。

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