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下界のレベル低すぎない!?

ゴブリンたちとの戦闘に加わる決意をした僕であるが、同時に勇者の自尊心も傷つけないように気を遣う。


間近で見て分かったが、この剣の勇者様はとてもプライドが高いようだ。


女の子の前でいい格好をしたくて堪らないタイプに見える。


そんな人物の前であまり活躍すれば嫌われること必定だった。


だから彼を立てながら戦う決意をする。


勇者の横にふわりと並んだ僕は、

「援護します」

と言う。


勇者は最初、僕のことを胡散臭げな目で見たが、


「あなたが剣の勇者様ですね。リンクスから話は聞いています。聞きしに勝る剣の達人だ」


とお世辞を言うと表情をにこにこさせる。


「ほう、分かっているじゃないか。オレの名はレヴィン、剣の勇者をしている。まあ、足を引っ張らない程度に頑張れ」


と言うと剣を振るうが、やはり呆れるほど遅かった。


それに眼前の敵しかみていないものだから、背後や真横に無頓着だ。


当然、ゴブリンはそれを狙ってくるが、僕はそこを狙うゴブリンを倒す。


なるべく、ゆっくり、少なくともレヴィンよりは活躍しないように注意しながら戦う。


彼の仲間たちも実力は似たり寄ったりだったので、背後から近づく敵の存在を知らせたり、密かに強化魔法を掛けて援護する。


その甲斐あってか、ゴブリンとの戦いは終始、こちらが有利だった。最後まで敵を圧倒する。


そうなるとゴブリンたちも浮き足立つ。


元々、不要な遭遇戦だったのだろう。

彼らは撤退を始める。


「ふう、これで終わりか……」


吐息を漏らし、安心する僕。

ただ、剣の勇者様の行動は斜め上を行く。


「くそ、逃げるつもりか。そうはいかんぞ。オレの正義の剣を最後まで受けよ!」


と、追撃を始める。


「…………」


なんというアホな人なのだろう。

自分の実力も分かっていないのだろうか。


そう思った僕は彼を見放そうと思ったが、勇者を応援するリンクスの姿を見て諦める。


「……まあ、ここまで付き合ったのならば最後までやるか」


吐息を漏らすながら小声で言うと、僕は勇者を諫める。


「勇者様、ここまでです」


と、彼の前に立ちはだかると、大の字で彼を止める。


「なんだ、小僧、邪魔をするな」


「小僧じゃないです。ウィルです」


「じゃあ、ウィル、そこをどけ」


「それはできません。勇者様、深追いをすれば手痛い仕返しを受けます」


「そんなことはない。ゴブリンなどすっぱすっぱと切り裂ける」


と問答をするが、その間にゴブリンは遠くなる。

勇者は「っち……」と漏らすと、剣を鞘に収めた。


「まったく、興が削がれる。これからだというのに」


勇者はそう愚痴るが、その瞬間、木の上から影が振ってきた。


なんとゴブリンの一匹が木の上に潜み、隙をうかがっていたのだ。


まっすぐに伸びるゴブリンの凶刃。ゴブリンのショートソードは勇者の首に迫る。


当然、勇者は反応できない。

というか、あまりのことに腰を抜かしている。

それを確認した僕はとっさに短剣を振るう。

最速の動きで。

剣閃を放つ僕の短剣。


それによってゴブリンは切り裂かれるが、それを呆然とみているのは勇者様。


それに彼女の仲間たち、勇者ガールズたちも気が付く。


「……な、なに、今の速度!? それに短剣から剣閃が出たように見えるけど?」


「ば、馬鹿、剣閃を放てるのはソードマスターだけだ。剣の勇者様でも無理なんだぞ」


「でも、今、剣から剣閃が出たような……」


「錯覚だ。そもそも短剣から剣閃を出すことなど不可能だ」


と会話を繰り広げる勇者の部下たち。


面倒なので錯覚ということにして、さっさとこの場を去ろうとしたが、勇者はこめかみを震わせる。


仲間たちの前で腰を抜かしてしまったことを怒っているようだ。


それに勇者ガールズのひとりが僕の活躍を見て、ぽうっと顔を赤くしているのも気が食わないし、ウィル・ガールズともいえるルナマリアが美少女なのも気にくわないようだ。


「さすがはウィル様です。剣の勇者を上回る剣技、素晴らしいです!」


と声援を上げるルナマリアを苦々しく見ている。


これはこのままでは収まらないな、そう思ったが、その予想は外れない。


勇者はびしりと僕を指さし言った。


「そこの少年、なかなかの剣術を使えるようではないか。だが、やはり先ほどオレの前に飛び出て追撃を制止したのは気にくわない。ちょいとばかり反省してもらおうか」


と剣を突きつけてくる。

僕はルナマリアのほうに振り向き尋ねる。


「これってやっぱり、決闘するってことだよね?」


「おそらくは」


と、うなずくルナマリア。


僕は「ちょっと待って下さい」とルナマリアのもとへ向かうと、彼女に相談をする。


「なるべく彼のプライドを傷つけないように援護をしたのに」


「最後の最後で詰めを誤りました。やはりウィル様の実力はとんでもありません。勇者様など目じゃないくらいです」


「……うーん、下界って想像したよりもレベル低いね」


「違います。ウィル様のレベルが高すぎるのです」


と断言するルナマリア。


ならば仕方ないが、問題はどうやってこの場を収めるか、である。


「旅だったばかりなのに、勇者と喧嘩したくないよ。この先、他の勇者にも会うだろうし」


「たしかにあの勇者様はしつこそうです。では、ここは負けるが勝ち、というのはいかがでしょうか」


かくかくしかじか、と僕に耳打ちをする巫女様。

少しこそばゆい。

ただ、そのアドバイスは的確だった。


「なるほど、わざと負けて相手に花を持たすんだね」


「はい、さすがはウィル様です。聡明です」


「ヴァンダル父さんもよくローニン父さん相手にチェスをわざと負けるからね」


「そんなことをされるんですね、ヴァンダル様は」


「相手をコテンパンにし過ぎると二度とチェスをしてくれなくなるかららしい。山ではチェスの相手探しに困るんだってさ」


と言うとルナマリアは笑みを漏らすが、剣の勇者レヴィンは大声を張り上げる。


「どうした、少年! 怖じ気付いたのか? 女にすがるのか?」


怖じ気付いて女にすがっている、と言っても気が済まないだろう。


そう思った僕は彼の前に立ち、勝負を受け入れることにした。


こうしてこの国一番の剣の勇者と勝負することになったのだが、さて、どのように負ければ彼の自尊心を傷つけず、ことがまるく収まるだろうか、僕は考えた。

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