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外伝 筍

 神々が住まう山の住人は皆仲良しだ。


 神々はよく喧嘩をするが、仲良く喧嘩するの典型例で、互いに関節技を決めることはあってもに組み合うことはない。


 動物たちもとても仲が良く、狼と兎が毛繕いをしたり、熊と鹿が戯れたりもする。


 誰も傷付くことのない理想郷を作り上げているのだ。


 しかし桃源郷のような山にも派閥がある。


 彼らはチョコレートの形状についていつもいがみ合っているのだ。


 本来、気候上の理由により、テーブル・マウンテンでカカオは産出されないが、チョコレートが好きな魔術の神ヴァンダルが、ビニールハウスを作って栽培している。


 カカオ豆を絞ってそこからチョコとミルクを作り、山の住人に配給しているのだ。


 中でも甘くてほろ苦いチョコレートは住人たちに大好評であったが、それゆえに諍いのもとでもあった。


 キノコ派の急進派の治癒の女神ミリアは勇壮に叫ぶ。


「茸の形こそチョコレートの完成形よ。ビスケットの香ばしさと良い塩梅が取れているわ!」


 タケノコ原理主義者の剣の神ローニンは豪胆に言い放つ。


「筍こそ最高のチョコレート菓子だ。あのサクサク感は他に得がたい」


 いつもは仲の良い動物たちも、このときばかりは「むむぅ」と互いを睨み付ける。


 狼のシュルツは茸派、そのガールフレンドのヴァイスは筍派だった。もとから喧嘩ばかりしているふたりは今にも食いかからんばかりの状態になる。


 いつもは仲の良い熊の親子も一触即発の状態だ。


 ちなみに彼らが争っているのは、チョコレート菓子の形状。茸派とは茸の傘部分がチョコレートになっている形状のもの、筍派とは筍の穂先がチョコレートになっているものを指す。どちらもビスケットの先がチョコレートになっているだけなのだが、なぜ、こうも争うのだろうか。


 神々の息子、中立派である僕は、魔術の神ヴァンダルに尋ねる。


「ねえ、ヴァンダル父さん、チョコレートのことで争うなんてやっぱりおかしいよ。なんとかしないと」 


「たしかにそうじゃな」


 立派な髭を持て余しながら同意してくれるヴァンダル父さん。チョコレートを山にもたらしたものとしても責任を感じているようだ。


「わしとしては茸だろうが、筍だろうが、どちらでもいいんだが」


「僕も」


「しかし、宗教戦争とは端から見ていてもくだらないものだが、当人たちには大切なもの。わしらがなにをいっても収まらないかもしれない」


「そんなことはないと思うよ。そうだ! 茸でもない、筍でもない究極のチョコレート菓子を開発すれば争う理由がなくなるんじゃないかな」


「たしかにそうかもしれないが、いったい、どうやって?」


「僕に任せて、いいアイデアがあるんだ」


「任せよう。森の住人はなんだかんだで、おまえを溺愛している。おまえが説得すれば『一旦』は矛を収めよう。


「うん、がんばる」


 そう言うと僕は山で一番可愛らしい動物、カーバンクルに協力を仰ぐ。


 事情を聞いたカーバンクルは「うんうん」と僕の策にしたがってくれた。


 さっそく、僕はそのカーバンクルの姿をもとに、チョコレート菓子を作る。


 ――数日後、松明を持って衝突しようとしている両陣営の間に割って入り、彼らにまったく新しいチョコレート菓子を送る。


 その菓子はカーバンクルをデザインしたビスケットの中に、チョコレートを包み込むというものだ。名前を「カーバンクルのマーチ」という。


 味もデザインも一級品だ。その菓子を食べた両陣営は矛を収め、衝突を回避してくれた。


 ちなみにこの菓子はチョコレートを包み込むことは、愛情で相手を包み込むことと同じ、という意味を込めていた。彼らはそのことを理解してくれたのだ――、と思ったが、違った。後日、なぜ、彼らが争いを止めたか聞く機会を得る。


「いや、あの場はおまえの熱意に押されたんだが、翌日から急に歯が痛くなってきてよ。虫歯になったみたいだ……」


 そう語るローニン。ちなみにその虫歯は菓子の食べ過ぎではなく、とある魔術師が諍いを収めるため、カカオに虫歯になる薬をませ込んでいたようで……。


「やっぱり一番の賢者は魔術師であるヴァンダル父さんなのかもしれないな」


 僕はそう思った。

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