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外伝 勇者ガールズ,

レヴィンと勇者ガールズの話


朝日が木の葉を照らし、優しく静かな風が吹いている。静かな世界で鎧を纏った少女が剣を振っていた。

ただの素振りではなく、剣舞の一つだ。腕は剣を振る、止める。その動作に合わせて足は順番通りのステップを踏み、体全体は力を抜く。力を抜くといっても、脱力ではなく必要な力だけを使うというものだ。


軽やかな舞に見えるが、剣と鎧の重さは数キロずつある。剣を振る筋力、姿勢を崩さない背筋や腹筋、バランスを保つ脚力がなければできない。


それを今、行っているのは剣の勇者――レヴィンである。彼女は自分の才能に驕り、鍛錬を積まなかった。そのせいで聖剣――デュランダルを引き抜くことができなかった。


ウィルに試合に勝って負けた。聖剣を引き抜けない勇者となり、レウスに諭されて身分を偽っていたことを仲間に告白した。彼女たちの信頼を裏切り、失望させてしまった。一度パーティを解散したが、レヴィンの仲間を想う心とウィルの優しさのおかげで再度同じ仲間でパーティを組み、旅に出た。


レヴィンは剣舞の最後の一振り、構えを3秒キープすると剣を鞘に納めた。




「きゃー! レヴィン様、素敵ぃ!」



「朝からキラキラの爽やかですっ!!」



剣舞の間は静かに待機していたらしい勇者ガールズが黄色い声をあげて駆け寄ってきた。


白く手触りの良いタオルを持っているのはユラで、水の入った綺麗なコップを持っているのがレベッカだ。彼女たちは各々レヴィンに手渡すと嬉しそうにキャッキャッとはしゃいでいる。



「いつもありがとう。」



「いいんです! 気にしないでください!!」



「そうですよ! 私たちの方が得してますから!」



「……得?」



「得を超えてます! だって、こんなに……」



「キラキラで、格好良くて、爽やかで、強くて、優しい人なんて……」



勇者ガールズは息を揃えて全身全霊を込めてレヴィンに言った。



「レヴィン様しかいません!!!!」



「えっと、あはは……。ありがとう、でいいのかな?」



レヴィンは頬を赤らめる乙女たちに、苦笑と気恥ずかしさを混ぜたような笑顔を見せた。ユラとレベッカはその笑顔にうっとりした。



「近くの湖で水浴びしますか?」



「ああ、ささっと綺麗にしてくるよ」



「わかりました。エイミーとリンクスに朝の鍛錬が終わったことを伝えてきますね!」



ユラとレベッカは笑顔で手を振ると仲間たちのいる野営地に戻っていった。野営地にいるのはエイミー、リンクスの二人だ。エイミーは魔術師だ。知恵もあり、戦闘では魔法で支援してくれる。最近は、安心して背中を預けられるようになった。リンクスは旅の良きお供になっている。初めて出会った頃に、必要のない雑用や嫌がらせのようなことばかりさせていたことを後悔している。


ランとレベッカは新しい旅の仲間であり、レヴィンの昔を知っているのはエイミーとリンクスだけになった。他の仲間や勇者ガールズはそれぞれの場所で戦い、生活している。喧嘩別れではなく、それぞれの進みたい道に歩いていく彼らの背を押してレヴィンは送り出した。



「たまには会いにきてよね!」



「私、美味しい料理作れるように頑張ります! 食べに来てくださいね」



 レヴィンは別れの時に「また会おう」と言われ、お世辞だったとしても嬉しかった。この約束はレヴィンの生きる意味の一つとなった。ウィルという少年に出会わなければ「仲間」というものがわからないまま戦死していたかもしれない。そう思いながら鎧と服を脱いだ。脱いだ衣類を置いて湖に入った。手がすぐに届くところに剣を置くと、彼女はザブンッと水中に潜った。


 男と偽って、家のために、勇者という肩書に拘っていたあの頃を思い出した。レヴィンは恥ずかしさと嫌悪感がこみ上げてきたが、それだけではなかった。


この過去がなければ今はなかった。だから、昔のあたしにも感謝しよう。



「……? ……様? レヴィン様!?」



リンクスの大声に気が付き、水しぶきをあげてレヴィンは立ち上がった。水滴が日差しを反射しレヴィンの四肢を美しく輝かせた。



「リンクス、どうかしたか?」



リンクスはぽかーんと口を開けて驚いた表情から一変し顔を真っ赤にして口をわななかせていた。それをレヴィンは不思議そうに眺めていた。



「あ、あの……」



「魔物……、ではないな。朝食ができたのか?」



 リンクスはくるりと反転してレヴィンに背を向けた。レヴィンは耳まで赤くなっているのを目視した。



「朝食もそうですが! あの、タオルを持ってきたんです……、それで、レヴィン様のお姿がなかったので……す、すみませんでした!」



「そうか。それはすまなかった。湖に潜った方が早いと思ってな」



「ああああ、いえ、謝らないでください。僕の早とちりですからっ!」



リンクスは叫ぶように言うと走り出した。手にタオルを持ったままで。



「リンクス。タオルをもらっていいか?」



「えっ!? あ、は、はいぃ!! あの!」



レヴィンはタオルをもらおうとリンクスを引き留めた。リンクスは止まったが、ちらりと振り向いてレヴィンを見ると慌てて前を向いた。



「なんだ?」



「すすす、すみません! レヴィン様、あ、あの、全部見えてます! 見てしまいました!申し訳ありませんっ!!」



「見えるってなに……が……」



レヴィンは自分が裸であることに気づいた。なめらかな白い肌が徐々に赤くなっていく。レヴィンはジャプンッと音をたてて湖の中で座って、リンクスから背を向けた状態になった。



「……その辺に置いといてくれ」



「は、はい」



レヴィンは体育座りのような姿勢でおとなしくしていると、リンクスのサクサクと草を踏む足音がはっきりと聞こえた。足音は近づいてきた。タオルを置いたと同時に足音は早くなって遠ざかっていった。

 

しばらく経ってからレヴィンはタオルを取った。タオルで顔を覆うと息を吐いた。今の今まで息を止めていたようだった。レヴィンの顔はまだ赤く染まっていた。

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