外伝 プリン
テーブルマウンテンに住まいし神々、剣の神、魔術の神、治癒の神、万能の神はそれぞれにパーソナルスペースを持っている。
普段はあまり干渉し合わず日常生活を送っているのだ。
干渉するのは僕に対するときくらい。それ以外は、家族のように寄り添ったりはしない。
治癒の女神ミリアいわく、
「老人介護も、酒乱の世話もしたくない」
とのことだったが、残りふたりも似たような感想を持っていると思う。
言葉にしてそのことを指摘したりはしないけど、僕はさっきから父さんと母さんたちのことをじっと見つめる。
剣の神ローニンと、魔術の神ヴァンダル、治癒の女神ミリアが言い争いをしていた。
一触即発、神々の最終戦争一歩手前の形相をしていた。
「ちょっと、あんたたちの誰か、私のプリン食べたでしょう」
「…………」
一瞬、脱力してしまったのは、そんなことでハルマゲドンを起こそうとしていたからだ。
まったく、この人たちは本当に神々か。まるで人間のようだ。
呆れまくるが、このまま放置しておくわけにはいかない。
特に闘争心が燃え上がっているローニンとミリアの間に割って入ると、喧嘩を仲裁する。
「父さん母さん、そんなことのために喧嘩をするなんて駄目だよ」
幼き僕は彼女をなだめるように言う。
一瞬、僕の顔を見て彼女は微笑み帰そうとしたが、ローニンのデリカシーのない物言いに再び腹を立てる。
「そうだぞ、ウィルの言うとおりだ。プリン一個で騒ぐなんて馬鹿馬鹿しい」
その言葉にきっとなるミリア。
「馬鹿馬鹿しくないわよ、下界じゃ、ものを盗めば即腕を切り落とす国もあるのだから」
「失礼なアマだな。俺はプリンなど食わねえよ。甘い物は嫌いだからな」
「嘘よ、あれは特製パンプキンプリン、甘さ控えめでちょー美味いやつなの。酒の肴として飲んだでしょ」
「酒の肴はあぶったイカがいいんだよ」
とやっているとヴァンダル老人はやれやれ、と懐から金貨を取り出す。
「醜い連中だ。たった一個のプリンで喧嘩などしおって。わしが代金を払ってやるから、仲直りしろ」
その尊大な言い方にミリアはむすっとしたのだろうか、矛先が変わる。
「てゆーか、わたしはあんたも容疑者扱いしているんだけどね。しれっと犯人候補が第三者を装って金で解決しようとするな」
このようにして神々の大戦は混迷を極めるが、僕は家長である万能の神レウスのところへ向かった。
「レウス父さん、大変だ。父さんと母さんが喧嘩をしている」
「よくあることではないか」
と烏の姿の神は言うが、そんなことはない、ここまでひどいのは久しぶりだ。
このままでは父さんと母さんたちが喧嘩になってしまう、と思った僕は決意をする。
庭にあるカボチャを収穫してそれでプリンを作ることにしたのだ。4っつ作ればきっと父さんたちも仲直りするだろうと、庭に向かう。
幼い僕はせっせとカボチャを収穫すると、それを持って調理場に行き、《風刃》の魔法で切り裂く。包丁を使わなかったのは子供が包丁を使うと怒られるからだ。着火剤も同じだから、《着火》の魔法で火を付けると、カボチャをコトコトと煮込む。
その後、卵を加えたり、砂糖を入れたり、氷魔法で冷やしたりして出来上がったのが特製カボチャプリン。
子供である僕が作ったにしては完璧だったけど、作ったあとに気が付いた。
「あ、4つ分しか作らなかった」
神々の数は4柱。つまり僕の分はないということだ。
名残惜しげに見るが、僕は決意するとそれを父さん母さんのところへ持ち帰った。
喧嘩をしている彼らにそれを渡すと、鬼のような表情をしていた彼らはすうっと憑き物が落ちたような顔をする。
どうやら僕がプリンを作ったことが相当嬉しかったみたいだ。こうして彼らは喧嘩をやめるのだが、彼らはそれぞれにプリンをスプーン一杯ずつすくうとそれを僕に分け与える。彼ら彼女らのくれたカボチャのプリンは、この山で一番甘い食べ物のように思われた。




