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神々に育てられしもの、最強となる

 ――半年後。


「はわわー、勇者様、それにウィルさん、助けてください~」

 一角兎ホーン・ラビットに追い立てられているのは従者のリンクス少年。

 僕と旅するようになって半年、時折、剣の稽古を付けてあげているが、彼には才能がなく、最弱と呼ばれている一角兎にも苦戦する有様であった。

 まあ、その分、彼は炊事洗濯が得意で、僕たちパーティーに欠かせない人物であったが。

 半ズボンの一部を一角兎に破られてしまったリンクス少年、艶めかしい足が露わになる。

(……女の子じゃないよね?)

 一瞬、そのような考えを持ってしまったが、彼が女の子だろうと構いはしなかった。

 僕は彼を救い出す。

「一角兎に必殺技は勿体ないけど……」

 僕は腰の剣に触れる。

 久しぶりに必殺の抜刀術、天息吹活人剣を繰り出す。

 神速の抜刀術を喰らった一角兎はあっという間に粉砕されるが、それを見てレヴィンは「あちゃあ」と頭を抱ええる。

「ウィル少年、駄目じゃないか」

 お叱りのお言葉。

 彼女の言葉は正しい。

「一角兎は今夜の夕食になるはずだったのに」

「ごめんごめん」

 と頭を掻く。

「ついうっかり」

「少年のうっかりは強すぎるんだ。自分が最強だという自覚がない」

「かもしれないね。そうだ。お詫びに僕は森の奥に行ってなにかを捕まえてこようか」

「少年が?」

「そう。レヴィンもリンクスも、勇者ガールズたちも疲れているだろう? ここは元気いっぱいの僕が」

「……そうか、分かった。じゃあ、お願いしようか」

 レヴィンはあっさり了承すると、リンクスを連れ、キャンプに戻っていった。

 途中、珍しくウィルに同行しなかった主に疑問の言葉を発するリンクス少年。

「あの、勇者様、どうしてウィルさんと一緒に行かなかったのです」

「変かな?」

「はい。いつもは片時も離れないのに」

「そうだな。そうだった。しかし、今日はウィルをひとりにしてやろうと思ってな」

「――もしかして、先日きた手紙に関係するんですか?」

「おまえはなんでも見ているなあ」

 レヴィンは呆れながら吐息すると、素直に認める。

「先日、ルナマリアさんから手紙が来ましたものね」

「うむ、彼女の手紙を一日千秋の思いで待ち続けるウィル、そしてそれを心の底から嬉しそうに読むウィル、それらを見ていればいくら鈍感なあたしでも察するさ」

「ふたりの間に付けいる隙がないと?」

「そうだな。ふたりの絆は久遠の絆、比翼の鳥のようなものさ」

「ふたりでひとつ、苔むすまで」

「そういうこと。あたしはとんだお邪魔キャラってこと」

「諦めがいいですね」

「誰が諦めると言った。引くべきときは引くだけさ」

「なるほど、剣の勇者様は知謀も身に付けられましたね」

「こいつ、言ったな!」

 レヴィンは少年の額に楽しそうに指弾を加える。 

 少年は「うふふ」と楽しそうに受ける。

 小鳥が戯れるかのような時間が流れるが、そんなふたりに向かって走ってくるは女魔術師。

 彼女は息を切らしながらやってくる。

 危機を察したふたりは真面目な表情を作ると女魔術師と合流した。



 ――一方、その頃、テーブル・マウンテンでは。

 いつものように朝食を食べ終えると、水晶玉前の特等席を巡って争いが起きる。

 ローニンがミリアの髪を掴み、ミリアがローニンの髷を掴むと、ヴァンダルがやれやれと仲裁する。いつもの光景であるが、今日はひとつだけ違うところが。

 水晶玉の近くに置かれた〝灰〟が蠢きだしたのだ。

 それを見たヴァンダルはふたりを無視し、灰に注目する。

「ついにこのときがきたか」

「このときってまさかレウスが復活するの?」

「そうじゃ」

「でも、レウスは死んだんじゃ?」

『古き神々がそう簡単に死ぬか。万の貌を持つ神じゃぞ。当然、アレにも化身出来る』

「アレってなんだよ」

「アレはアレじゃ。灰の中より何度も生まれ変わる存在、不老不死の鳥じゃ」

「だから名前はなんだよ」

「馬鹿ねえ。そんなのも分からないの? バジリスクに決まっているでしょう」

「…………」

 精神的によろめき掛けるヴァンダル。しかし、天然ミリアと馬鹿ローニンを無視すると、灰に近寄る。灰をより分けるとその中には小さな卵が。

 卵の中には鳥の雛と思われる影が見える。

 その影は必死に殻を破ろうと奮戦していた。

 三人の神々はその光景を固唾を飲んで見守る。

「がんばれ……」

 治癒の女神がそう吐息したとき、炎に包まれた鳥の雛がこの世に誕生した。

 不死鳥と呼ばれる幻獣は大きく羽ばたくと、天高く舞い上がった。




 テーブル・マウンテンでそのようなイベントが発生しているとは知らない僕、今夜の夕飯の材料を探すため、森の奥深くに向かうが、そこで出会ったのはゾディアックが二四将のひとりである。

 腐った雄牛の化け物は鼻息も荒く言った。

「貴様が神々に育てられしものか」

「そうだよ」

「我が名は二四将がひとり、プロセミナである。ウィルよ、貴様がひとりになる瞬間、待ちわびたぞ」

「そうか。さっきから森が忙しないと思ったけど、正体はおまえか」

 やれやれと剣を抜き放つ。

「そうだ。二四将のうち、半数はおまえによって殺された。もはや勘弁ならぬ」

「それはこちらの台詞だ。ゾディアックの眷属であるおまえたちは絶対に許さない」

 そう言い放つと、僕は剣閃を加えるが、プロセピナはその一撃に耐える。

「――へえ、やるじゃないか」

「我は二四将でも最強の体力を誇るのだ」

 高笑いをあげる悪魔であったが、僕は気にせず二撃目を放とうとした。

「ふはは、無駄だ。我にはどのような魔法剣も通じぬ」

「かもね。でも、大司祭様の聖なる魔力が付与された魔法剣だったら?」

「なんだと?」

 プロセピナの問いに答えたのは僕ではなく、後方からやってきた声だった。

 強く凜とした声はこう言い放つ。

 颯爽と現れたのは今、僕がもっとも逢いたかった人物、盲目の巫女にして大地母神の聖女ルナマリアだった。

「ウィル様、ダマスカスの剣に聖なる力を付与します」

 僕はダマスカスの剣をピンと伸ばすと、彼女はひざまずき、剣に接吻をする。彼女の体内にあった聖なる力が流れ込む。その量は膨大にして莫大であった。

 〝以前〟一緒に旅をしていた頃よりも遙かに魔力の量が増えていた。

「さすがは大司祭様だね」

 軽く茶化すように言うとルナマリアはにこりと訂正をした。

「もう、大司祭ではありません。大司祭の位は三賢母のアニエスさんに譲位しました」

「そうか、じゃあ、今はただの巫女さんなんだね」

 ルナマリアはそれにも首を横に振る。

「いえ、巫女の位も手放してきました。今の私は神々に育てられしものの従者です」

「僕が雇わないという考えはなかったの?」

「微塵も――」

「そうか。ルナマリアは案外、強気なんだね」

 そのようにやりとりしていると、横から鼻息の荒い言葉が。

 プロセピナは無視されたことを怒っているようだ。

 戦闘の最中によそ見をしていることをなじられるが、それもそうであった。

 僕は意識を悪魔に集中すると、聖なる一撃を込めた剣閃を解き放つ。

 まばゆい光に包まれた剣閃は腐った巨体に突き刺さると、そのまま彼を浄化させた。

「く、くそう! おのれー! 俺が雑魚扱いだと!?」

 悪魔の捨て台詞を横目に僕はルナマリアのほうへ振り向く。

 今度は僕のほうがひざまずき、彼女に願った。

「残念ながら君を従者にすることは出来ない」

 ルナマリアは「まあ、困りましたわね」と口を押さえる。

 しかし、それほど困っていないようだ。僕が発する次の言葉を予期しているようで。

「その代わり僕は君を正式な〝仲間〟として迎え入れたいと思っている」

「仲間――」

「そう。共に戦う仲間、共にシチューを食べる仲間、共に美しい景色を見る仲間――」

「素敵ですね」

「うん、とても素敵だと思う。そして君をいつか〝パートナー〟にしたいと思っている」

「パートナーと仲間は違うのですか?」

「そうだね。結構違うかも……」

 ぼりぼりと頬を指で掻く。今の僕の顔は真っ赤かも知れないが、それでも勇気を振り絞っていった。

「僕はルナマリアのことが好きなんだ」

 勇気を振り絞って言い放った言葉、ルナマリアは即座に返事をくれた。

「私もウィル様のことが大好きです」

 その言葉を聞いた僕はルナマリアの腰を抱きしめるが、上空に気配を感じる。

 なにか神聖なものが近づいているような気がするのだ。

 見れば東の空に明けの明星のような星が高速で移動していた。

 よくよく目をこらせばそれはフェニックスだった。

 そのことをルナマリアに話すと、フェニックスは瑞鳥であると言った。

「そうだね。とてもめでたい鳥だ。――まるで僕たちのことを祝福してくれているようだ」

「そうですね。いえ、きっとそうですよ」

 ルナマリアはそう断言すると、がら空きになっていた僕の唇に唇を重ねた。


 第一部完結 

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