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優勝商品

 二四将と呼ばれる悪魔を倒す。


 すると会場の四方から観客を束縛していた柱が崩れ去り、結界が消える。


 観客は安堵の溜め息を漏らす。


 その後、会場の運営責任者が、観客の安否を確認しながら退出させる。なかにはブライエン家の責任を糾弾するものもいたが、観戦料の返却と迷惑金を支払うことを明言することで、ブライエン家の度量を示していた。


「これでは興業事業は撤退かな」


 レヴィンは皮肉気味にそう漏らすと、舞台の上に上がり、僕の活躍を賞賛してくれた。


「まったく、ウィル少年はすごいな。こんな化け物を一刀で斬り伏せるなんて」


「逆ですよ。化け物だから一刀に懸けた。全魔力を攻撃に使ったんです。もしもあれで倒せなければ僕がやられていました」


「見事な戦力配分が出来ていた、ということだな」


「ですね。連戦になっていたらきつかった。いつか、二四将と複数まみえる日がくるかもしれないと思うと戦慄します」


「そのときはルナマリアと一緒に一匹担当できるくらいの実力を養っておきたいところだが、その前にウィル少年、連戦をしてもらわないといけないのだが」


 レヴィンが言う連戦とは敵との戦いを指しているのではない。貴賓室にいる商人との戦いを指しているのだ。


「優勝してくれたのは有り難いが、さすがにちゃんとおじ上に事情を説明しないと、へそを曲げて艦隊を貸してくれなくなるかもしれないぞ」


「たしかにその通りだ。ゾディアック教団のことも話しておいたほうがよさそうだね」


 レヴィンの機転に感謝しながら、僕は貴賓席にいるケニー・ブライエンのもとへ向かった。


 ケニー・ブラインエンは大会運営者たちに指示をしている。賠償金や今回の顛末をどう評議会に報告するかのやりとりをしている。忙しそうなので出直そうと思ったが、僕の姿を見ると人払いをする。


「これは英雄のウィルヘミナ嬢、優勝、お見事であった」


 声が弾んでいるので僕が優勝したことは怒っていないようだ。


 僕の杞憂を話すと彼は、

「当然だ」

 と言い放つ。


「わしはたしかに君に一杯食わされた。優勝した『男』ではなく、優勝した『もの』としてしまったのは一生に不覚だ。しかし、だからといって約束を反故にするような狭量な男ではない」


「たしかに立派なお方です」


 観客のことを心から心配しているその様、先ほど不幸になくなった観客の家族には多額の見舞金も予定しているらしい。


「わしの管轄する催しで不幸があったのだからな。当然だ」


「ご立派です」


「話を戻すが、君が優勝したのはとてもめでたいことだと思っている。もしも君があの場にいなければ大変なことになっていたからな」


「それなのですが、おそらく、ゾディアックの狙いは僕……いえ、わたしです。だから自分の功績を誇るわけにもいきません」


「なんと……」


「――」


 ケニーさんに事情を話す。ゾディアックとの因縁、これまでのやつらとの戦いを話すと、ケニーさんは「ふうむ……」と言った。彼は聡明な言葉を発する。


「ならばやはりウィルヘミナ嬢に非は一切ない。もし嬢を殺そうとやつがしゃしゃり出てこなくても、どのみちケイオーンのやつは評議会を蝕んでいた。ウィルヘミナ嬢がいたからこそ、最小限の被害で済んだのだ」


「そう言って頂けると嬉しいです」


「当然の結論に至ったまでだ。これくらい想定できなければ商人などできない。ウィルヘミナ嬢は我が街の、我が家の恩人だ。艦隊を派遣する約束はより強固になったと思ってくれ」


「有り難い。――あの、レヴィンさんの件なのですが……」


「ああ、レヴィンの件か。分かっておる。しばらくは無理に結婚させようなどとは思わない。ウィルヘミナ嬢の勇気とレヴィンの人を見る目に免じてな」


「本当か!? おじ上?」


 横にいたレヴィンは宝くじが当たったかのように喜ぶ。


「ああ、本当だ。それにゾディアックがいかに危険な連中か分かった。もしも魔王が蘇ればこの世界は大変なことになる。そうなれば商売すら出来ない世界となるだろう」


「その物言いということは、あたしが『勇者』として活動することも許してくれるのだな」


「ああ、認めよう。ただし、あまり無理はするなよ。――少なくともわしよりも先に死なないでくれ」


「分かっている。あたしは死なない。アレンハイマー家の娘であること。おじ上の姪であることを後世に伝える」


 その言葉にケニーさんは心底嬉しそうに微笑む。


 立派になった姪をひしりと抱きしめる。その姿は敏腕な商人というよりもただただ家族を愛する好々爺に見えた。


 さて、このように一挙に問題を解決したかに見えたが、解決したのはブライエン家の問題だけだった。新たな問題が発生したのだ。


 それはこの街に行く末やゾディアック教団の問題に比べればささやかなものであったが、当人――というか僕には大きな問題だった。


 すべての問題が解決したと思った僕は、ケニーさんに感謝の意を伝えて立ち去ろうとしたが、そんな僕の背中にケニーさんは声を掛けてくる。



「艦隊も派遣するし、今後は評議会一丸となって君を支援するが、その代わり武術大会優勝者としての責務も果たしてもらうぞ」



 最初、その言葉は武術大会優勝者としての武力を期待している、という意味かと思われたが違った。


 ……どうやらケニーさんは僕の正体に気がついていたようで。


「ウィルヘミナ――ではなく、ウィルよ、優勝商品、しかと受け取ってもらうぞ」


 ケニーさんはレヴィンに聞こえないようにそう言い、片目までつぶってみせる。


 評議会の一員として、“性別”を偽り生贄になることは見過ごすが、生贄騒動が終わったら、きっちり責任を果たしてもらうぞ、と言っているのだ。


 要はレヴィンを嫁にもらえ、ということだった。

 まったく、なんという眼力、そして抜け目のなさ。さすがはこの街一番の商人と呼ばれるだけはある。僕は呆れながら初老の紳士を見つめた。

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