女顔のウィル
準決勝を終えると、決勝参加者はふたりとなる。
当たり前であるが、そうなれば僕以外のもうひとりが「悪魔」である可能性は高い。その懸念を口にすると、レヴィンがその根拠を尋ねてくる。
「ルナマリアが大地母神から託宣を受け取ったんだ。それにうなじの辺りがぞわぞわする」
レヴィンは僕のうなじをじっと見つめると、「色っぽい……」と見当違いなことを言ってくる。恥ずかしいのでうなじを両手で隠すと、話を続ける。
「ルナマリアの託宣は確実に当たる。それに僕の勘も捨てたもんじゃない。ミリア母さん譲りなんだ」
「なるほど、信じるよ。少年の勘を」
「ありがとう」
そのようなやりとりをしながら、空を見上げる。この同じ空の下に悪魔がいるかと思うと戦慄を覚える。ただ恐れはしない。早くその悪魔が誰か確認し、問題を解決したかった。
それは思わぬ形で叶えられることになる。
準決勝が終わると、控え室に衣装箱が届けられる。
箱を空けるとそこにはパーティー用のドレスが。
「ほえ……」
きょとんとしていると、それがこの館の主のプレゼントだと分かる。ドレスに添えられていた手紙を読む。
「まさか、ウィルヘミナ嬢が大会に参加してくるとは思わなかった。さすがはシーサーペントと戦おうとする女傑、その実力は申し分なし。ただ、決勝の相手、グランド商会のケイオーンは生半可ではないぞ。お主でも勝てないかもしれない」
「決勝の相手は商人なのか。珍しいな」
まあ、商人と言っても海商などは自分の船に乗り込み、船長も務める。戦士や傭兵のように荒事になれているものも多い。
「問題なのはこのあとの文章だな」
手紙の続きに目を通す。
「グランド商会のケイオーンは人間的にも卑劣。試合の最中、なにをするか分からん。十分に気をつけられよ」
つまりケニーさんは僕を心配してくれているようだ。有り難くはあったが、ならばそのあとにこんな文章は入れないでほしい。
「今日は戦いで疲れているだろうが、明日への英気を養ってほしい。今日の英雄的な活躍を褒め称えたいので、今夜開かれる舞踏会に出席してくれ。準決勝に参加したものはすべて呼んである。楽しまれよ」
「つまり慰労のパーティーにご招待ということですね」
ルナマリアがまとめる。彼女の分のドレスもあった。
「うーん、困ったな。こんなドレス着られないよ」
「身体があれば誰でも着られるのがドレスのいいところですよ。寸法も合っているようですが」
「そうじゃなくて、僕は男の子だよ?」
「今はウィルヘミナ嬢です。ケニーさんに怪しまれたら元も子もありません。パーティーに参加しましょう」
「たしかに男だとばれたら計画が台無しだ」
そういう論法で参加することにする。それに準決勝出場者は皆、参加するようだ。先ほどの女戦士とも再会できるし、決勝で戦うことになるケイオーンも見ることができる。敵を知り、己を知れば百戦危うからず、偵察をするのは悪いことではない。
そう自分を納得させながらドレスに袖を通すと、アナハイム家のメイドに化粧をして貰った。
鏡の前に立つ。
「…………」
悔しいのやら、恥ずかしいのかは分からないが、とても可愛らしい女の子がそこにいた。
まったく、女顔になど生まれるものではない。心の底からそう思った。




