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ローニンの試練

見事、魔術の神ヴァンダルの試練に打ち勝った僕たち。


ルナマリアとハイタッチをして喜ぶ。

ルナマリアは僕の機転を最大限に賞賛する。


「まさか、水を氷にして運ぶとは夢にも思っていませんでした。もしかしたらウィル様は智恵の勇者なのかもしれませんね」


「智恵の勇者?」


「はい、勇者にはいくつも種類があって、その特徴によって二つ名が付きます。剣が得意ならば剣の勇者、人を守るのが得意ならば盾の勇者などです」


「へえ、そうなんだ。でも、何度も言うけど、僕は勇者じゃないよ。勇者の印がないんだ」


ね、ローニン、と話を振ると、答えたのはミリアだった。


「たしかにうちのウィルには印がないわ。昔、お互いに体中のホクロの数を数えあったけど、聖痕はなかった」


「……いつそんな遊びを」


ジト目でミリア母さんを見つめると、僕が乳児のときという。


「それは数え合いではなく、一方的に数えられただけのような」


「まあ、そうともいうわね」


と茶目っ気たっぷりに舌を出すと、ローニンが介入してくる。


「たしかにウィルには聖痕はないが、聖痕などなくてもウィルは最強の男だ。勇者など片手で倒せる。それくらい俺が鍛えたからな」


というわけで、とローニンは第二の試練を発表する。


「第二の試練はこの俺、剣神ローニンの試練だ」


僕とルナマリアはごくりと生唾を飲む。

第一の試練でさえかなりハードだったのだ。


体育会系のローニンが提示する試練はヴァンダルよりも数段上だと予想できる。


固唾を飲んで見守る僕たちに、ローニンは大仰に試練を発表する。


ローニンが大声で言い放った試練、それはとてもローニンらしい試練だった。


「いいか、お前たちにはこれから剣を使って魔物と戦ってもらう」


「剣で魔物と。……シンプルな試練ですね」


「ローニンはまどろっこしいのが嫌いなんだ」


「聞こえてるぞ」


とローニンが言ったので無駄口を止めると、彼は続ける。


「これからヴァンダルに作ってもらった訓練用ゴーレムと戦ってもらう。剣のみでだ。攻撃魔法や強化魔法は禁止」


横から口を出してきたのはミリアだった。


「でも、それって簡単すぎない? ウィルならレベル5のゴーレムでも素手で倒しちゃうけど」


「そうだ。だから今回はウィルは戦っては駄目だ」


「え? 僕が戦っちゃ駄目なの?」


「そうだ。これはお前たちふたりの覚悟と相性を見る試練だ。ウィルはその嬢ちゃんを指導し、ゴーレムを破壊するんだ」


「でも、ルナマリアは剣を握ったこともなさそうだ」

と言うとルナマリアは外套の中からショートソードを取り出す。


「地母神は刃物を持つことを戒めていますが、盲目の巫女は旅をするため、武器の携帯を認められています。幼き頃から鍛錬もしてきました」


「ならばなんとかなるな」


とローニンは言う。


「はい。この試練は納得がいくものです。たしかにウィル様はお強いですが、私はウィル様を守る従者です。その従者が弱くては話になりません。是非、この試練を受けさせてください」


「良い返事だ、お嬢ちゃん。じゃあ、レベル2のゴーレムを使うがいいか?」


「構いません。ウィル様は倒されたことがあるんですよね?」


「あるさ。たしか5歳の時にはもうレベル2に移行していた」


「ならば余裕ですね」


ルナマリアはそう言うと剣を鞘から出し、空を切る。肩慣らしをしているようだ。


僕はそんな彼女にアドバイスをしたいが、なかなか言葉がでない。


そもそも他人にアドバイスをしたことはない。


それにレベル2のゴーレムなど当時から雑魚扱いだったので苦戦するポイントが分からないのだ。


(まあ、これもサービス問題かな。ルナマリアがあっという間に倒してしまうかも)


そう思って悠然と観戦することにしたが、試合が始まると思ってもみなかった展開になる。


ルナマリアが押され始めたのだ。


最初、目が見えないことがハンデになっているのかと思ったが、それは違うようだ。


彼女は目が見えない代わりに人一倍聴覚がよく、ゴーレムの作動音を聞き分け、的確に敵の攻撃を避け、敵の隙を突く。


まるで舞踏を踊るかのように優雅に攻撃を始める。


しかし、一方的に攻撃を加えてはいるが、優勢なのはゴーレムのほうであった。


実力的には名人クラスであったが、ルナマリアの攻撃がまったく通らないのだ。


彼女は的確にゴーレムの関節などに剣を見舞うが、ゴーレムは傷付く様子はない。


「もしかしてこれってレベル2じゃないんじゃ?」


とヴァンダルのほうを見るが、彼はゆっくりと首を横に振る。


「まごうことなきレベル2のマッドゴーレムじゃよ。――ただし、これはウィル仕様だが」


「ウィル仕様?」


「お前は幼き頃からゴーレムを破壊しまくったからな。だからわしはお前の修行になるようにとゴーレムを強くしてきた。わしにとってはレベル2のゴーレムじゃが、これを魔術師協会に持って行けば最低でもレベル10として扱われるんじゃないかの」


な、なんだってー!? というやつである。


「…………」


呆れて声も出ないが、その仕様を産んでしまったのは自分であるからして、あまり声高に文句はいえない。


「それにあの嬢ちゃんのショートソードは神聖魔法が付与してある。アンデッドや邪悪な存在には効果てきめんだが、魔法生物に特に有効というわけではないようだな」


「そうか。じゃあ……」


と魔法を付与しようと詠唱を始めるが、それはローニンに止められる。


「おっと、付与魔法は禁止だ。お前が出していいのは口だけ。指示だけであの嬢ちゃんを勝たせてみせな」


「指示だけって……」


ルナマリアは明らかに劣勢で壁際に追い詰められている。


その劣勢も攻撃力不足からきていることは明白だったので、攻撃力を増加する以外に活路はないと思えた。


それには付与魔法で剣の攻撃力を上げるのが最適なのだが、今回の試練は魔法禁止である。


なにか別の方法を考えなければならないが、その方法がなかなか思い浮かばない。


だが、思い浮かばなければルナマリアは負ける。

僕たちは敗北する。

そうすれば外の世界にはいけないのだ。


そう思った僕はルナマリアとゴーレムを観察する。


昔、ヴァンダルに教えてもらったゴーレムの特性を思い出す。


「ゴーレムとは泥をこねて作った魔法生物。鉄でできたゴーレムなどは破壊が困難であるが、そんな厄介なのと出くわしたら、ゴーレムの弱点を突け。ゴーレムの弱点とは身体のどこかに書かれている魔法文字じゃ。その一文字を消せば命令が自己破壊に切り替わり、すぐに死ぬ。それがゴーレムという生き物」


そんなことを教わったことを思い出す。


その後、アイアンゴーレムを出されようが、ミスリルゴーレムを出されようが、なんなく破壊し、弱点を突かなくてもなんとかなったので、忘れかけていたが、その知識は無駄にならなかった。


僕は《解析》の魔法でゴーレムを丸裸にすると、文字が書かれている場所を見つける。


マッドゴーレムの魔法文字は背中にあった。


「ルナマリア! やつの背中にある文字、頭文字を消すんだ。そうすればやつは倒れる!」


その言葉を聞いたルナマリアは軽くうなずくと、ひらりと敵の一撃をかわし、宙に舞う。


大道芸人のような身軽さでマッドゴーレムの背中に飛び乗ると、指をさすり、文字が書かれている部分を探す。


目が見えなくても人一倍敏感な触覚によって文字の位置を探し終えたルナマリアは、僕に言われた通り、文字を削る。


ショートソードによって頭文字を削られたゴーレムの命令系統は破壊される。その身体も。


鋼鉄のように固かったゴーレムの身体は土器になったかのようにもろくなり、自重を支えられなくなる。


そのままゴーレムは崩れ落ちると、もとの土の塊へと戻る。


つまりルナマリアが勝利したのである。

彼女はその場で軽く飛び跳ね、耳を澄ませて僕の位置を確認すると、僕の胸に飛び込んできた。


「さすがはウィル様です! まるで天才軍師のようです!」


僕よりもお姉さんで身長が少し大きいので、彼女が僕を抱きしめるとちょうど胸に顔が埋まる。


しかも年齢の割には豊満だから息ができないくらいである。


ミリア母さんにもよく同じことをやられるが、ルナマリアに同じことをやられるとどうも顔が真っ赤になる。


嬉しいという感情と恥ずかしいという感情が同時に生まれるのだ。


それが思春期というやつだ、とローニンから説明を受けるのだが、ともかく、僕たちはローニンの試験に打ち勝った。


ローニンはよくやった! と僕たちふたりの背中を叩いてくれた。


ただ、おじさんぽいことも言う。


「ふたり旅は許すが、俺はまだおじいちゃんになりたくない。ちゃんと避妊するんだぞ」


と言うと豪快に笑った。


ルナマリアは顔を真っ赤にしているが、僕も似たようなものだった。


ヴァンダルは「やれやれ、デリカシーのない男じゃ」と漏らすが、彼も笑っているので同罪だと思った。

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