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ゾディアックの姦計

 裏で色々な策謀が動いているとは知らない僕たち、本戦出場が決まると、ワイツさんの店に戻って軽い祝勝会をする。


「わーい! 借金がチャラになりました!」


 喜ぶアイナ。

 ワイツも感無量のようだ。


「まさかウィルがこんなにも強いなんて。実は昨晩、心配で寝付けなかったんじゃが」


「ふふふ、ウィル様は見た目は華奢ですからね。でも、最強なんですよ」


「さっきまで嬢ちゃんも心配していたくせに」


 ローニンは茶化すが、ルナマリアは抗弁する。


「心配ではないです。ただ万が一がないかと思っていただけです。結果、万が一などありませんでしたが」


「まあ、ぶっちゃけ、地方の武術大会レベルでウィルが後れを取ることなんてありえねーよ」


「ですね。このまま優勝です。あ、そういえばローニン様の結果は?」


「そういえば扱いか。つーか、俺が落ちるわけねーだろ」


 と自慢げに賞状を出す。


「さすがは剣の神様です」


「父さん、おめでとう」


 と祝福するが、父さんは特に嬉しそうではなかった。

 おそらく、組み合わせが影響しているのだと思われたので、思い切って尋ねる。


「ヒフネさんと同じ組になってしまったね、父さん」


「なんだ、対戦表見たのか」


「うん、ヒフネさんと父さんのしか覚えてないけど」


「そうか。なにをそんなに心配する。少なくとも準優勝は確定したんだぞ」


「決勝でどっちと当たるか、今からヒヤヒヤしている」


「どうせ俺だ」


「……ほんと? 父さんはわざとヒフネさんに負けるためにここにきたんじゃ? 彼女に首を差し出すつもりなんじゃ」


「なんだそりゃ」


「いや、なんかそんな気がして」


「俺の顔にお人好しって書いてあるか?」


「ない」


「じゃあ、そんな馬鹿なことしねーよ」


 ローニンはそう断言すると、懐から日本酒を取り出す。


「ええい、辛気くさい話はやめだやめだ。ウィルの戦勝と借金の帳消しを祝うぞ。朝まで酒だ酒」


 そう言うとワイツさんは秘蔵の酒を持ってくる。借金が消えて嬉しいようだ。それに彼らは僕たちの事情をよく知らない。ならばここは彼らの好意に甘えたほうがいいだろう。彼らを心配させないため、僕は祝勝会を心の底から楽しんだ振りをした。





 翌日、ルナマリアに揺り起こされ、目覚める。父さんにしこたま飲まされた僕は珍しく自分の力で起きることができなかったのだ。一方、ローニン父さんは先に会場入りしていた。父さんの試合は午前中にあるのだ。


 僕たちはゆっくり身支度をして会場に行く。慌てなかったのは父さんが負けるはずがなかったからだ。案の定、一回戦は一秒で終わったという。対戦相手は服『だけ』を切り裂かれて、降参したらしい。


 父さんらしい勝ち方だな、と思いつつ、僕も一回戦を戦う。一回戦の相手は鎖鎌使いだ。鎖鎌使いとは噛ませ犬だな、とはローニン父さんの言だが、事実彼は噛ませだった。ぶんぶんと鎖鎌を振り回す姿は隙だらけだった。


「……これだとゴルドーさんのほうがよほど強いな」


 さすがは前回準優勝者と改めて彼の再評価をするが、その評価が彼に届くことはない。なんでも彼はショックで田舎に帰って神職を目指すのだという。それを聞いて申し訳なく思うが、あるいはそちらのほうが幸せなのかも、とも思う。


 さて、そのような考察をするくらいの余裕があるので、一撃で鎖鎌使いを倒す。これで僕と父さんは一回戦突破。トーナメント方式なので四回勝ち抜けば優勝である。


 僕と父さんは二回戦目も圧勝する。そうなると俄然、優勝候補扱いされるが、もうふたり目立つ人物がいる。ひとりは当然、ヒフネだ。彼女も敵との格の違いを見せつけるような圧勝を繰り返していた。このまま順当に行けば準決勝で父さんと対峙することになるだろう。


 一方、僕の準決勝の相手は拳王ジャバになりそうだ。彼も順当に勝ち上がっている。むしろ僕たちよりもド派手に勝ち、賞賛を受けまくっていた。


「今回も優勝だ!」


 勝つたびにそう宣言をして会場を沸かせる。そのパフォーマンスは見習いたいところだが、彼の動向を注視してばかりもいられなかった。やはり気になるのはヒフネとローニン父さん、このふたりがなにを考えているか、だ。


 いや、ヒフネの考えはある意味分かりやすい。僕を父さんの目の前で殺すことにより、復讐心を満足させようとしている。本人を目の前にしたとき、どうするかは不明だが、少なくとも父さんとの戦いは心躍るものがあるはず。


 問題なのは父さんのほうだ。父さんの考えはいまだに掴めない。ヒフネを返り討ちにするのか、それとも――。深く考察していると審判に呼ばれていることに気が付く。


 どうやら拳王との準決勝の時間が迫っているようだ。


 気持ちを入れ替えないといけないかもしれない。そう思った僕は拳王を瞬殺することにした。


「ごめん、最初、修行になるからあなたの技を見てから倒そうと思ったけど、父さんたちの試合が気になるから一撃で終わらせてもらうね」


 その言葉を聞いた拳王のこめかみがひくつく。


「……こ、この拳王を一撃で倒すだと!?」


 その言葉が拳王の最後の言葉となる。


 試合開始が宣言された瞬間、僕は目にも止まらぬ速さで彼の懐に入り込むと、木剣で彼を斬った。


 がくり、と倒れる拳王。


 常人にはなにが起こったのか分からぬ速さだったが、観衆も審判も拳王が負けたことだけは分かったようだ。歓声が上がった瞬間、僕の勝利も宣言される。


「す、すごいです。ウィルさんは無敵ですか?」


「ウィル様の墓碑銘にはそう記されることでしょう。それに長命だった、とも」


 得意げに胸を張るが、実はそんなに圧勝でもない。


 一瞬で片が付いたから拳王ジャバは弱いように見えるが、かなりの強敵だ。少なくとも先ほど戦ったゴルドーと同じくらいは強い。むしろ、手加減をする余裕がなかったからこそ勝負を一瞬で決めざるを得なかったという面もあるかもしれない。


 余人には分からないものだが、今はジャバについて考察しているときではない。観衆の熱狂に応えている暇もなかった。観衆は勝利のコメントを聞きたかったようだが、無視をし、ルナマリアの横に行く。そこにはワイツさんとアイナもいた。


「ここです。ここ」


 アイナは取っておいてくれた席を僕に勧めると勝利を祝福してくれた。「ありがとう」と返すと僕はルナマリアに尋ねる。


「二人の試合はどうなったの? 同時刻開催って聞いたけど」


「見たままです。先ほどからあのような感じです」


 見ればふたりは微動だにしないまま舞台中央で静観を決め込んでいる。

 互いの出方をうかがっているようだ。ルナマリアが尋ねてくる。


「達人同士の戦いは一瞬で決着が付くと聞きます。ふたりは慎重に相手の出方を探っているのでしょうか」


「おそらくは」


「ならば一瞬も目が離せませんね――」


 そう言った瞬間、僕は言葉を発する。


「――ルナマリア、ふたりが動くよ!」


「え!?」


 その刹那、ふたりは同時に行動を開始する。流水のようにゆらりと動き出すと、そのまま身体を加速させる。気が付いた瞬間、ふたりはつばぜり合いをしていた。


「な、なんて速度!?」


「神速の域に達している。ふたりの速度は人間のそれじゃない」


 それを証明するかのようにふたりは舞台の至る所に現れる。舞台中央でつばぜり合いをしたかと思うと、端で格闘戦を繰り広げ、空中では互いに軽業師のように回転をする。その様は幻想的で観客たちはただただ唖然とする。


「これが神の戦い。それにしてもこの速度に付いてくるあの娘はなんなのでしょうか」


 事情を知らないルナマリア。僕は彼女に話すべきか迷ったが、熟考の末、話すことにする。


「……そのような事情が」


「ルナマリアは父さんがトウシロウさんを殺したと思う?」


「それは分かりませんが、結論はウィル様と同じです」


「というと?」


「どのような過去があれ、ローニン様を信じているということです」


 彼女の真摯な答えに僕も共感する。やはり彼女に話して正解だった。改めてルナマリアの聡明さに感銘を受けると試合に注視する。


 ローニン父さんとヒフネの試合は佳境に入っていた。


 神速で動くふたりだが、やはり人間、体力の限界がある。神域を離れたローニンは無尽蔵の体力を持っていないようだ。速度が落ちていく。


次第にヒフネの手数が多くなっていく。


「…………」


 ルナマリアは表情を曇らせる。彼女にもローニンが劣勢に見えるようだ。その見立ては正しかった。


(ヒフネさんの動き、想像以上だ)


 兄弟子の弟子ということは兄弟子よりは劣るはず、と思っていたが、それは大いなる誤解なのかもしれない。トウシロウさんの実力は知らないが、少なくともヒフネさんの実力は僕を凌駕している。


(……純粋に剣術だけだったら僕よりも上だ)


 魔法を駆使しなければ勝つことはできないだろう。


 ということは下界に降りてきたばかりのローニン父さんには辛いはずだった。ローニン父さんは神々の山の住人、普段は遠慮することなく力を解き放てる。一方、下界ではその力の多くは制限される。父さんは神威が使えないだけと言っていたが、筋力などもかなり落ちているように見える。


 負ける――とは思えないが、容易に勝つことはできないだろう。


 ましてや剣の神ローニンは優しい神、もしかしたら父さんはこの試合の最中にわざと負けてしまうという疑惑もあった。ゆえに僕は父さんの表情や動きを常にチェックしていた。


 トネリコの木剣を握り絞める。


(……もしも父さんが死ぬ気ならば割って入って助けないと)


 それは反則であるし、父さんが最も怒ることであったが、僕としてはこのような場所で父さんの命を散らさせるつもりはなかった。


 緊張の面持ちで見守るが、そんな僕に声を掛けるものがいる。



 ……ウィル、ウィルよ。



 脳内に語りかけるような音声。すぐにそれが誰かの念話だと気が付く。


(この声はレウス父さん?)


 そうだ、と返答すると、大空から一匹の大鷲が舞い降りる。僕の隣に舞い降りると、周囲のものはぎょっとするが、それも一瞬だった。目の前の白熱した試合に目が釘付けとなる。


 大鷲は気にした様子もなく口を開く。


「久しぶりだな、我が息子よ」


「久しぶり、レウス父さん」


「抱きしめてやりたいが、そんな場合ではないな」


「その通りだよ。いつ、助太刀しようか迷っている」


「ほう、ということはローニンは死に場所を求めてここにやってきたと思っているのか」


「違うの?」


「違わない。やつは常に死に場所を求めている。しかし、ここで死ぬ定めではない」


「なにを悠長な、追い詰められているよ?」


「おまえは何年、あの男に剣を習ったんだ。やつのあの顔が追い詰められている顔に見えるか?」


「……見えないね」


 父さんの瞳はぎらぎらとしていた。


「あれは気合いを溜め込んで一撃必殺の一撃を叩き込むつもりだ」


「その通り」


 レウスは肯定する。


「隙をうかがって抜刀術を決め込む気だな、父さんは」


 僕の予想は見事に当たる。無数の手数を誇るヒフネだったが、やがてその手数も減る。彼女は無限の体力を持っているわけではなかった。


 僕たちの会話を聞いていたルナマリアが尋ねてくる。


「ローニン様はあえてヒフネさんに打たせていたのでしょうか?」


「そうみたいだね。ぎりぎりの間合いで避けて体力を温存しつつ、相手の体力を奪っていたんだ」


「……まあ、そんな。まるで自分の命を弄んでいるかのようです」


「実際、あの男にとって自分の命などそんなものだ。賭け事の一材料に過ぎない」


 レウスは首肯する。


 死中に活を求めるのがローニン流剣術の極意である、と伝えようとしたが、それはできなかった。父さんが勝負を決めに掛かったからだ。


 手数が減ったその瞬間、ローニン父さんはヒフネを睨み付ける。するとヒフネはびくりと下がる。目のフェイントを使ったのだ。殺気の籠もった視線はときに普通の斬撃以上に価値を有する、これもローニン流剣術の極意だった。


 父さんの剣術を知り尽くしている僕は父さんの考えが手に取るように分かる。今が抜刀術を咥える最大のチャンスであったが、レウスはそれを否定する。


「いかん! 今打っては!」


「…………」


 なにが駄目なのだろうか。タイミング的にはこれ以上なかったが。レウス父さんは剣術の心得がないのだろうか、そう思ったが、その声はローニン父さんに届かなかった。


 ローニンが抜刀術の構えを取ると、ヒフネも同じように刀を鞘に収める。彼女も抜刀術で迎え撃つつもりのようだ。


地這虎咆哮(ちをはうとらのほうこう)!!」

「瞬絶殺!!」


 互いの流派の必殺技を叫び合うふたり。ほぼ同時に放たれたが、やはりローニン父さんのほうが一枚上手に見えた。――しかし、レウス父さんの不吉な予感は当たる。


 ほぼ同時に放たれた抜刀術であったが、先に剣閃が届いたのはヒフネのほうであった。


 見れば父さんの右肩にはヒフネの剣閃が命中していた。


 ルナマリアは声高に叫ぶ。


「どうして!? ローニン様のほうがわずかに早かったのに……」


 その疑問に答えたのは僕だった。父さんの剣技が遅れた理由を説明する。


「……父さんの右足に呪念が見える」


「呪念!?」


 ルナマリアは戸惑う。たしかに盲しいている彼女に呪いは見えにくいだろう。しかしよく目をこらせば父さんの右足には邪悪なオーラがまとっていた。


 見れば会場の奥に怪しげな男がいた。真っ黒なローブを身にまとい、ぶつぶつとなにかをつぶやいている。その唇から呪詛を漏らしている。


「どうやらあいつが父さんに《鈍足(スロウ)》の呪いを掛けたようだ」


「そんなことができるのですか? 試合中ですよ」


「試合中だからだよ」


「なるほど、逆に試合中だからできたのですね。さすがのローニン様もヒフネさんと対峙しているときは会場の動きまで察知できない」


「それもあるだろうけど……」


 僕は全面的にはルナマリアの考察に同意しなかった。〝あの〟父さんが易々と罠に掛かるとは思えなかったからだ。


 その考えにはレウス父さんも同意らしく、くちばしで大会関係者を指す。


「どうやらあいつが手引きしたようだな」


 そこには黒衣の一団と会話をしている大会関係者がいた。


「武舞台の下に魔力が通りやすいように龍脈もどきを通していたみたいだぞ」


「……そんな姑息な手段を」


「しかもあいつらはゾディアック教団だな」


「そのようだな」


 唇を噛みしめる。まったくどこまで卑怯な連中なのだろうか。先日の国王襲撃のときも思ったが、もはや彼らの卑怯さと卑劣さを許せなくなっていた。


(……世界を旅するには彼らを倒さないと駄目なのかもしれない)


 改めて決意したが、それよりも今、注視しなければいけないのは武舞台だった。一撃を食らったローニンはその場に座り込み、一撃を与えたヒフネは刀を高々と上げていた。ローニン父さんに止めを刺す気のようだ。


そんなことはさせられない! そう思った僕は武舞台に乱入しようとするが、レウス父さんに止められる。


「レウス父さん、どうして!?」


「慌てるな、ウィル。あの娘の表情を見ろ。あれが人を殺すものの目か」


「…………」


 たしかにヒフネの目は惑っていた。まるで生まれたての子鹿のように潤んでいた。

 剣を高々と振り上げたヒフネは、それを下ろすとうなだれながら言った。


「……私はこんな形で仇に勝ちたいわけじゃない」


 そう言うとゾディアック教団のほうへ振り向き、ふつふつと怒りを爆発させる。

「私は剣術家トウシロウの一番弟子にして最高の弟子だ! このような恥ずかしげな勝利などいらない!」


 その言葉に黒衣の男たちは歯ぎしりをする。


「小娘が。我々がここまでお膳立てしてやったというのに」


「そんなもの頼んだ覚えはない」


「今、殺さねばおまえも我らが敵ぞ!」


「なめるな。おまえらなど千人が束になっても蹴散らす」


 それがヒフネとゾディアック教団の決別の合図となった。

 黒衣の男たちは歯ぎしりをしながら立ち去る。

 ヒフネはそれを蔑みながら見つめると、ローニンに振り向き言った。


「いいか、ローニン、ここでおまえを殺さないのは慈悲じゃない。ただの哀れみ。おまえはおまえの息子が殺されるときをその目に焼き付ける義務がある。私は決勝戦で必ず神々に育てられしものを葬り去る」


 次いで視線が僕に向かう。


 怒りと悲しみに満ちた瞳が僕と交差する。彼女との戦闘は避けられそうになかった。


 ローニンはそれをただ物憂げに見つめていた。



 このような結末を迎えたローニン父さんとヒフネの準決勝。


 ヒフネに斬られたローニンはルナマリアの治療を受けると、独りになりたいと会場の裏に向かった。


 ローニンの友人であり、同じ息子を父に持つ神は、ローニンの肩に舞い降りると言った。


「なぜ、ゾディアックの姦計にわざと乗った。あの娘に命をやるつもりだったのか?」


 単刀直入に尋ねるレウス。

 ローニンも単刀直入に返す。


「最初はそのつもりだった」


 しかし、とローニンは続ける。


「剣を交えて分かった。あの娘の悲しい気持ちが、師父を愛する気持ちが。あれは俺を殺しただけじゃ満足しない」


「ウィルも殺さなければあの娘は前に進めないか?」


「そう確信した。だからやつらの姑息な手に乗ってやった」


 傷口を押さえるローニン。ルナマリアの治癒魔法は見事なものであるが、さすがに痛みは消えない。


 ただ、あの娘の心の痛みはこんなものではないだろう、そう思った。


「なるほど、だからすべてをウィルに託すつもりなんだな」


「ああ、俺の剣は剛の剣。それに比べてウィルの剣は柔の剣だ。あの娘の心を氷解させられるかもしれない」


「そうだな。ウィルの剣はまさしく活人剣。その優しき心に触れれば真実を知る切っ掛けになるやもしれない」


 含みを持たせた言い方であった。どうやらレウスはすべての事情を知っているようだ。


「……くそ、これだから鳥野郎は。なんでもお見通しってか」


「まったく、周りに説明をすれば他に道もあったものを、難儀な性格だ」


「弁解と弁明と便秘が嫌いなんだよ、俺は」


「ふ、まあいい。すべてはもうじき終わる。我々の息子があの娘を悪しき誤解から解き放ってくれよう」


 レウスがそう結ぶとローニンも首肯する。


 ただローニンは親として申し訳ないと思った。一番面倒なことを息子に押しつけてしまった自分の狭量さを嘆く。


「……しかし、まあ、ウィルも立派になったよな。俺よりももうずっと大人だぜ」


 ローニンはこの場にいない息子を誇らしげに褒めた。


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