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ローニンの昔語り

 辺りは薄暗く、道も険しかったが、僕たちは気にしない。通いなれた道であったし、これくらいでへこたれるような鍛え方はしていなかったからだ。


 倒れた巨木をひょいと超えると、ローニンは昔語りを始めた。


「この世界には新しき神々と古き神々がいるという話は知っているな」


「うん、知っている。ローニン父さんたちが新しき神々なんだよね」


「そうだ。俺、ミリア、ヴァンダルが新しき神々だな。新しき神々と古き神々の違いはわかるか?」


「天地創造に関わっているのが古き神々で、天地が作られたあとに神になったのが新しき神々だっけ」


「正解だ。つまり古き神々は由緒があるってことだ。新しき神々は新参ものなのさ」

「元々人間だった人たちが神々になるという話も聞いたけど」


「そういう輩もいる。つーか、俺やヴァンダルがそうだな」


「ローニン父さんも元々は人間だったのか」


「そうだ。人間界で生まれ、人間として育った。剣を極めていたら神々の領域まで達してしまい神にされちまった類だ」


「神様になることを望んでいたわけじゃなかったの?」


「そうだな。最初は神になる気など毛頭なかった。ヴァンダルの野郎は永遠に研究を続けられるからと望んで神になったようだが、俺は不慮の事故というか、古き神々に選ばれて神になった口だ」


「その口ぶりだと後悔しているの?」


「多少はな。人間として生き、人間として死にたかった。ただ、今は後悔していないが」


「どうして?」


「神になったからこうして息子と剣を交わすことができるようになった。ありがたいことだと思っているよ」


 そう言うとローニンはにこりと微笑み、僕の頭に手を置く。大きく、重たい手のひらだったが、不思議と心地よかった。





 修行場から数理ほど歩く。テーブル・マウンテンの頂上付近に近づく。

 そこから外界を見下ろす。

 どこまでも続く裾野の森、遠くには人間の街が見える。


「俺はこの国のはるか東に有る蓬莱という国からやってきた。そこには俺のように刀を差すサムライと呼ばれる戦士がたくさんいる」


 ローニンは黙々と続ける。


「俺はとある小藩の剣術指南役の家柄に生まれた。しかし、五男坊。家を継ぐこともできないし、いい養子先も見つからない。だから思い切って藩を飛び出し、自分の腕一本で生きることにした」


「そうやって剣術修行をしながら全国を行脚したんだね」


「そうだ。ミッドニアとの間にある大砂漠の国、大平原にある遊牧民の国、様々な国を巡って己を鍛えた。しかし、ある日、自分の力量の限界に気がつく」


「そんなに早く?」


「ああ、我流の限界を感じた。幼い頃から剣に明け暮れてきたが、自分の剣が道場剣の延長線上にしかないと嫌でも気が付かされたよ」


 ローニンは無精髭を持て余しながら当時を述懐する。未熟だった自分を思い出すのは気恥ずかしいらしい。


「というわわけで俺は師を探すことにした。自分を高め、尊敬に値する師を探し出し、そいつを目標にすることにしたんだ」


「探すのは大変だったでしょう」


「まあな。実力の限界に悩んでいたとはいえ、俺は剣術の天才。そんじょそこらの青二才に師など務まるはずがない。俺以上の剣術馬鹿でないと俺の師など務まらない。――というわけで俺は世界中を駆けずり回って道場荒らしを繰り返した」


「……ど、道場荒らし……まあ父さんらしいか」


 苦笑いを浮かべるが、父さんは全く気にした様子もなく続ける。


「北に最強のソードマスターがいると聞けばそこに押しかけ、看板を粉砕。南に最強の剣士がいると聞けばそいつの道場に師弟を整列させ、土下座をさせていた」


「…………」


 当時の地獄絵図が浮かび、乾いた笑いしか漏れないが、ローニンは武勇伝を語りたいわけではないようだ。すぐに本題に入る。


「まあ、当時の俺は有頂天だったんだろうな。限界を感じていたというのはただの勘違いで、自分は強さのてっぺんを超えちまったのかもしれない。そう思うようになっていたのかもしれん。しかし、そんな傲慢な考え、あの方にあったらすぐに消し飛んだよ」


「それがローニン父さんの師匠なんだね」


「そうだ」


 ローニン父さんはにやりと笑うとその師の名を語った。



「剣聖カミイズミ」



 それが後の世で剣の神と呼ばれるようになるローニン父さんの師匠の名前だった。

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