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<41>さまざまな志願


 余韻に浸っていると、声をかけてきたのは有馬だった。


「春見野、この演物は志願制なのか?」


 コンビを組んでいる源も一緒である。


「進藤さんは、ぼくから推薦してみたんだけど、特に決まりはないよ」


「それなら……」


 話が進みかけたところで、ジルドが興奮気味にやってきた。


「ムツキ、素晴らしい歌だった。他には歌える者はいないのか?」


 応じたのは、有馬だった。


「歌じゃないけど、お笑いなんてどうだろう」


「お笑い、ってなんだ?」


「二人で掛け合いして、笑いを取る芸なんだけど。舞台が埋まっていないようなら、試させてくれないかな」


「どんなものか、ちょっと教えてくれるか」


 三人は相談をしながら歩いていく。


「歌はともかく、お笑いはどうかしらね。日本のお笑いは、外国の人には通じづらいという話を聞いたことがあるけど。アリナはどう?」


「そうですね……。ちょっと、笑いのつぼがわかりづらいというのは正直あります。ただ、この世界では言葉がニュアンスまで含めて変換されるようですから、どうでしょう。もっとも、母国語の制約はあるようですけれど」


 自動翻訳が行われている感じなので、逆に言葉遊び的なものに通じづらさが感じられる場合があるようだ。もっとも、あの二人がいわゆるオヤジギャクを連呼するとも思えないけれど。


「源と有馬が積極的に何かをしようというのはめずらしいし、成功してくれるといいんだけれど。……シャリー、あのお姉さんの歌はどうだったかな?」


「うん、とっても心地よかった。また聞きたいな」


「それはよかった。できたら、あとで直接感想を言ってあげてくれるかな」


「わかった」


 微笑ましい交流が展開されるとよいのだけれど。


「見て。空に緑の花が」


 風音が指さした先の空には、煙状の緑の花が浮かんでいた。これまでは、頭上のものしか見たことがなかったけれど、エリア平定の徴で間違いはなさそうだった。色が緑なのは、プレイヤーの髪色に依存しているのだろうか。


 エストバル陣営の面々も、ミイアさん経由でこのバーベキューに誘ってもらっていたのだけれど、参加の連絡はなかった。帰還後の一日は休んでいたようだが、また連続勤務が重なっていくのだろうか。


 あちらは、次は別エリアの平定に向かうのだろうか。それとも、トロルの次のエリアへ進むか。


 いっそ、聞いてみるのもありかもしれない。行かない方に行くから、と。


 考えていると、少し離れたところで、サーニャが領民の同年代の子らに囲まれつつあるのが目に入った。冒険者としての活動の話をせがまれているのだろうか。ただ、ちょっと困り顔のようでもある。


 場合によっては、介入した方がいいのかな、なんて思ったところに、楠木さんが直進的な早歩きでやってきた。


「春見野くん、ちょっといいかしら?」


 なにごとだろうか。なにか、大発見でもあったのだろうか。


「うん、もちろん。なにかな」


「このバーベキューは、ちょっとどうかと思うの」


 ちょっと興奮気味で、語調もどこか違っている。


「えーと、どうかと思う、というのは?」


「拙い、とまでは言い過ぎかもしれないけど、日本のバーベキュー概念に引きずられてしまっている」


 いや、日本のバーベキューをやっているつもりなので、引きずられるも何も……。ぼくの沈黙をよそに、活性化している様子の楠木さんが続ける。


「世界でのバーベキューの潮流は、手の混んだおもてなし料理を供するものとなっているし、そもそもが素人によるアウトドア焼き肉ではないの。現状がまったくだめとは言わないけれど、改善の余地が大いにある。献立でも、調理についても、配膳についても」


 声に熱量がこもっていて、いつもの淡々とした感じとのギャップが激しい。


「変えたい部分があるってこと?」


「そう、わりと全般的に」


「……一存ではなんとも。どう変えたいかをまとめて教えてもらえるかな。料理部だった人たちや、城方面にも関わることだから」


「ええ。せっかくだから、いいものにしてみるわ」


 宣言して、また調理場に向けて直進的に戻っていく。


「世界のバーベキューか……。楠木さんは、海外経験があるのかな?」


「確か、アメリカで暮らしていた、いわゆる帰国子女だと聞いた気がします」


 応じたのはアリナだった。印象でしかないが、アメリカは確かにバーベキューが盛んそうだ。


「ポーランドではバーベキューってあるの?」


「川原や庭先でやる、グリルというのがあります。ソーセージや串焼きなどが中心で、日本のものとさほど違いません。アメリカンバーベキューについては、聞いたことはありますが、どこか異常発達した感じのように思います。素朴なアウトドア料理とは分けて考えるのがよいかと」


「そうなると、だいぶ方向性が違いそうだな。手作りのくつろげる日本風バーベキューも心地よいように思うけど、おもてなし料理と言われると、それも捨てがたい気も」


「そうね、提案内容を聞いてから考えればいいんじゃないかしら。今後、野営とかするようになれば、わたしたちの食事がそれこそ日本風バーベキューになる可能性もあるわけだし」


「そうだね。ダンジョンまでの距離がわからないしね」


 風音の言葉の通り、今後も毎度城に戻れるかどうかははっきりしない。


 話しているうちに、源と有馬が舞台に立ち、漫才的なやりとりを始めていた。くすりと笑ってしまいそうないい出来に思えるが、領民の人たちはどう鑑賞していいのかわからないようで、戸惑いの空気が広がっている。


「焦ってるみたいね」


「ぼくらだけ笑ってみせる、というのもどうかと思うし、援護のしようがないな」


 その間にも舞台上の二人は、反応を探る形で方向性を次々と変えている。やがて、体を使った一発芸的なものを始めたところで、ようやく子どもたちが笑声を上げた。


「身体を使った芸は、文化が違っても通じる場合が多いみたいですね」


 アリナの言葉通り、元世界での一発ギャグを重ねていくと、大人たちの間からも笑いが起きてきた。まだ大成功とは言えないまでも、ある程度はつかめたというところだろうか。


 さすがに燃料切れという感じで二人が退くと、温かい拍手が送られた。


 ジルドが演者たちの肩を叩いているのは、ねぎらいを示しているようだ。そして、こちらへと歩いてこようとしたのだが、途中のサーニャのところの人だかりで立ち止まり、声を掛けている。何か揉めているのだろうか。


「ちょっと、行ってくるよ」


 風音たちに言い置いて、ジルドとサーニャがいる辺りに向かう。


「なにかあったのかい?」


「よお、ムツキ。サーニャやリックルのところに、冒険者志願が押しかけていてな」


 見回すと、期待を込めた表情で七、八人の十代くらいの男女が見つめてきている。


「そうなのか。ひとまず三人で様子を見ようという話になっているので、追加はむずかしそうなんだよな」


「なぜです。この女なんかより、俺の方が……」


 人差し指を突きつけられたサーニャが、悲しげな表情を浮かべている。看過する訳にはいかない。


「きみがどれだけ優れた資質を持っていても、サーニャを貶める必要はないんじゃないかな。現状で人数を増やさないというのは、シャルラミア様の判断なので、独断で覆すことはできないんだ。悪いね」


「ふん、城主は一人だけじゃないんだからな」


 低声での悪態が聞こえてきた。穏やかに収めるつもりだったのだけれど。


「ああ、確かに。エストバル陣営で募集があるといいね」


 声のした方を向いて応じると、それ以上の反応はなかった。幾人かは白けたように、他の幾人かは残念そうにその場を離れていく。


「ムツキさん、ありがとうございます」


「いや、こういう状況もあり得たのに、事前に防御策を取れなくてすまないね。ぼくの言動で、集落の人たちとの人間関係がやりづらくなったりしたら、そちらも申し訳ない」


「いえ、それはいいんです。ありがとうございます」


 風音たちの方へと送り出すと、ジルドがやや困ったような顔をしていた。この人なつっこさとふてぶてしさを併せ持つ人物にしては、めずらしいことである。


「欲得ずくの者もいれば、純粋に憧れからの者もいるんだが、とにかく年若のものに冒険者志願が多くてな。ちょっと、抑えきれない部分があってすまん」


「いやいや、報酬もなしで整理をしてもらう形になっていて申し訳ない。実際には、人手があって悪いこともないんだけど、姫の意向に沿って人物本位で選ぶとなると、なかなかむずかしいだろうしね」


「ああ。まずは三人で様子を見る、というのがいいと思う。ずば抜けた資質の持ち主が希望してくれば、相談させてもらうかもしれないがな。……それとは別の話で、ちょっと相談があるんだが」


「なにかな? ここででも、酒場ででも」


「酒場の方が助かるな。内容としては、今後の宴での演物や、舞台づくりについてなんだが」


「うん、わかった。興味のありそうな人と一緒でよいかな? 今晩にでも、別の日でも」


 そういった方向性だと、ゾンビ受け入れ対応でも動いてくれた服部さんが得意そうだろうか。昨日のやり取りからすぐでなんだが久我と、あとは当事者である進藤さんに声をかけるのもいいかもしれない。


「ああ、もちろん。日取りも、今晩だと助かる。……リックルも、捕まってるみたいだな。ちょっと行ってくる」


 そう言って、ジルドは足早に離れていった。


 領民出身者は三人いる。残る一人のマズールも、料理の追加を取りに行ったところで、囲まれてしまったようだ。


 近寄ってみると、自分にはどうにもできないからと、朗らかにきっぱり受け流している。ある意味で、とても頼もしい。


「マズール。楽しめているかい?」


「ムツキさん、いいところに。ちょっと相談があるのですが」


 ぼくなら対応できるという形で紹介されてしまうのだろうか。ちょっと予想外の展開となったかと危惧したが、明るい声で説明された内容は、周囲の人たちとは関係のない、一色さんのように槍を使いたい、という話だった。


 武具防具などの装備は、いいものを入手することで不要になるものが出る。商店の引取価格は安いので、他の誰かが引き継ぐことが多いのだけれど、槍については今のところ一色さんしか遣い手がいない。そのため、いいものがお下がりとしてくるのではないか、というのが狙いらしい。


 関わりのない話が始まったことで、囲んでいた年若の冒険志願者たちは諦めたように離れていく。これがマズールの策だったのかどうかは、やや判然としないが。


 いろいろなことを考えているんだと感心しつつ、一色さんに相談してみるものの、ほぼ問題ないだろう、と応じる。相談と言っても、槍使いとしての資質を確認してもらえないか、という程度となる。槍についての希望なども聞いて、ぼくは執行部の面々が多くいる辺りへと戻った。



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