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<35>骸骨エリアの首領


 城に戻ると、休息もそこそこに次のスケルトンエリアへ向かう。パーティ編成は狼エリア攻略時から、退魔系魔法の使い手の秋月や胡桃谷が主戦に回った程度の微調整で、目立った違いと言えば荷車が導入されたことになる。荷車引きは、第二班の支援隊、四番隊に属するマズールが買って出てくれた。


 歩き始めるとすぐに、第二班側で久我と琴浪が不審そうな表情で何事か言葉を交わしている。


「どうしたんだろ?」


 西川と風音に目線を向けると、どちらも思い当たるところはないようだ。


 すぐに第二班が進みながら寄せてくる形で近づいてきた。胡桃谷のよく通る声が野に響く。


「踏破率が想定より上の数値で、しかも上がっていっている。エストバル陣営が先行しているんじゃないかな。どうする?」


 その言葉の合間にも、両班の距離は近づいていく。


「進みながら話そう。……最もレベルが低い狼エリアでぶつかるのならともかく、下から二番目というのは、ちょっと謎だね。情報が漏れたかな? 城側からかもしれないけど」


 まあ、さほど秘匿に気を使っているわけでもないし、仕方ないところである。


「先に攻略されると無駄足になるから、戻って次に向かうか?」


「戦闘中に追い抜けるかもしれないから、一応は最奥部まで行ってみようか。眼の前で平定されたら、戻って彼らが向かうのと違うエリアへ向かえばいい。……楠木さんはどう思う?」


「あちらの戦闘ぶりを見てみたいから、賛成。少し急ぎましょう」


 そう言えば、エストバル陣営の戦闘を見たことはない。瑠衣奈の戦いぶりを見られると考えると、少し楽しみになってきた。


「じゃあ、早足で行こうか。優斗、伝達を」


 胡桃谷の声で、エストバル陣営の戦闘ぶりを見ることを目的とした早足での進行が指示された。追い抜けたら、平定戦を行うことも告げられる。若干、やれやれという感じの吐息も漏れたが、皆の足が早められた。


 


 先行するエストバル陣営の姿を捕捉したときには、踏破率は九割に達していた。


 小高い丘を目指すような形で、待ち構えるスケルトンの群れとの戦闘が開始されようとしている。


 前方にいるのは、エースパーティの六人のようだ。その後ろには、支援パーティらしき六人の姿が見える。総勢十二名で、全員投入状態ということになる。


 ということは、女子テニス部に所属していた剣士の真島由紀さんと、剣道部男子でこちらも剣士の里見蓮も含まれているはずだ。この二人は、かつてエースパーティの遭難直後に、スケルトンエリアと一つ前の狼エリアで戦死を経験している。


 どちらもだいぶ精神的な深い傷を負っていたようだけれど、七日ほど経過して落ちついただろうか。


 二人とも、とりあえず参戦はできているようだ。


 そして、情報文化部で一緒だったナベくんこと渡辺悠真の姿もある。服装からすると、どうやら黒魔術士のようだ。がんばれ、ナベくん! 


 緩斜面で繰り広げられる戦闘では、前衛の反町樹、柳生塁斗、七瀬瑠衣奈の三人の剣技によって、スケルトンが打ち倒されていく。けれど、丘の上にある祠らしきところから、新たなスケルトンが続々と現れる。その中には、ぼくらが一度も遭遇していないエリートスケルトンらしき姿もあった。


 十二人のうち、神官、白魔術士で退魔系魔法が使えるだけのレベルに達しているのは、エースパーティの一員である、神官の八雲だけだろう。仮に道中でも使ってきたとしたら、そうそう回数はこなせないと思われる。そして、スケルトンはかなりの数が出現していた。


 平定戦ということで、最大八パーティが参戦する可能性があるため、敵方も物量作戦で押してきているということか。二パーティの十二人で会敵してもこうなのだから、挑戦するパーティ数、人数によって敵の陣容が変わってくる、ということはないらしい。そうなると、やはり多人数を育てておいた方がよいだろう。


「将人、楠木さん、状況をどう見る?」


 見解を問うてみると、まずは斥候として周囲に気を配りつつ観戦していた琴浪が、首を傾げて口を開いた。


「飽和攻撃は実現できてるけど、どこまで続けられるかが鍵だよね。後衛にまで手出しできれば、撃退できるんじゃないかな」


 まさかのスケルトン視点ですか。なんとなく、琴浪が魔王的な立場になったら手強いな、なんて想像してしまう。


「飽和攻撃ってなに?」


 楠木さんの問い掛けが淡々としているのは、特に不満の表明というわけではなさそうだ。だんだん、その見分けが付くようになってきている。


「えーと、軍事用語なんだと思うんだけど、防御側の対応能力を越えた手数の攻撃を仕掛けることで、確実にダメージを与える、という概念かな。守備側の迎撃ミサイルの数より、多くのミサイルや軍用機で仕掛けるみたいな。今回の場合なら、単純に対応できないだけの数のスケルトンで攻め立てる、という形だね」


「なるほど。私たちなら、同じ数で来られても、手数が多いから対応できそうね」


「前衛だけでも、新加入勢の二パーティを除いても一番隊、二番隊と人数的には倍いるし、範囲退魔の使い手も秋月、優斗、進藤さんがいて、山本も退魔を唱えられるから、現状までなら余力がありそうかな」


「そう考えると、できるだけ多くの人のレベルを上げるのは、正解なんだと思う。……苦労はするにしても」


 将人が少し声を潜めて、大方針について言及する。そうなんだよね、安全性を考えるとね。


 話している間に、戦況に変化が生じていた。


「あら、前衛で支えきれないと、後衛にも直接攻撃が行くのね」


「初めて見るや。ここまで敵の数が多い戦闘の経験はないので」


「こうなると、退魔の使い手と治癒者が兼任なのはつらいわね。せめて、支援隊の治癒者が、もう少し高レベルならよいのでしょうけど」


 楠木さんが淡々と述べている間にも、だいぶ状況は悪化している。後衛のうち、踊り子の早乙女さんは前衛の経験もあるようだが、黒魔術士の藤ヶ谷雅章、神官の八雲秀人は、身体能力はともかく戦闘経験は少ないのだろう。だいぶ苦戦している。


「春見野、助けに入らなくてよいのか?」


 声をかけてきたのは、那須だった。まあ、昨日までエストバル陣営だったしね。


「さすがに、スケルトン相手に全滅はしないと思うんだけど……。将人、撤退は結局、検証してなかったんだったよね」


「うん、できてない。絶対優位な状態で離脱するのは可能だろうから、撤退が不可能ってことはないと思うんだけど」


 言っている間に、十二人は後退を始めていた。スケルトンは追撃をかけているが、殿軍を務める前衛三人が、退きつつも一体ずつ仕留めていく形で、追撃勢の数を減らしていく。


 一方で、追撃に参加していないスケルトンも数多くいて、追撃組を全滅させたとしても、攻略が容易になるという状態ではなさそうだ。反復攻撃という手段はあるかもしれないが。


「六つ先のトロルと互角に戦えていたのに、攻略に失敗することなんてあるんだな。ちょっとびっくり」


「まあ、さすがにアンデッド相手に、退魔ができる神官が一人だけというのは、構成が悪過ぎるって。支援にいただろう白魔術士や神官を育成できていれば、いけてたんじゃないかな」


 琴浪の言葉に、頷きながら楠木さんが応じる。


「それにしても、撤退検証の手間が省けて助かったわね。前衛が健在でも、後衛に攻撃が及ぶというのは意外だったけど」


「うん。これだけの数の敵との戦闘は、経験がないから参考になったや。もっとも、前衛一人だけのパーティで敵が三体とかだと、普通に突破されるのかも」


 反町たちは、何やら相談をしているようだ。


「あちらは諦めるのかな? ……平定戦で、異なる陣営が共闘ってできるのかしら」


「競い合ってるだけで、同じ勢力に所属しているわけだから、できそうな気がするね。別の国があるのなら、援軍なんてのも考えられるかも」


 ぼくが口にした想定に、琴浪が反応する。


「やっぱり、地図みたいなものは欲しいなあ。姫君が意図的に伏せているのなら、意外とエストバルの方から入手できないかな」


「あちらでは、対話はほとんどなかったみたい。タクロという人物が、一方的に指示を出すだけと聞いているわ。入手はむずかしいでしょう」


「無理か……」


 三人で話しているところに、久我からの声がかかった。


「おーい、あちらは撤退するみたいだぞ。どうするんだ?」


「うん、準備に入ろう。……ところで、撤退しても経験値は得られるのかな? そうだとしたら、スケルトンが湧き出てくるのなら、モンスターの無限増殖なんて考えなくても経験値も討伐報酬も稼ぎたい放題なんじゃないのかな」


「無限増殖って?」


「えーと、倒したモンスターを蘇生させるといった方法で、想定されている以上の経験値を稼ぐみたいな、ゲーム的な概念?」


「なるほど」


「実際には先のエリアに進んだ方が効率としてはいい気がするけど、現象としては試しておきたいな」


「なら、一番隊で試してみようか」


 事情を説明して、一番隊でひと当たりして撤退したところ、スケルトンを倒したことによる経験値は得られなかった。平定戦は、攻略に成功した場合にのみ、一定の経験値が入ると見て間違いないようだ。


 一方で、討伐報酬としての金銭は、通常通りに獲得することができた。金銭だけを考えれば、平定戦を仕掛けて一部を倒したところで撤退、という策はありかもしれない。もっとも、スケルトンの討伐報酬は、決して高いものではないけれど。


 そして、全パーティ参加による本格的な攻略が開始された。




 複数のアンデッドを対象とした範囲退魔が使える術士を三人擁しており、また、前衛もエストバル陣営に比べると量的に充実している。ここでは攻略を急がず、前衛の訓練を行うこととした。


 一番隊、二番隊である程度の敵を引きつけつつ、両翼に位置する新加入組の前衛、一色さん、楠木さんに攻撃を仕掛けてもらう。


 負傷者が出たら治療し、危ない局面が訪れたら、範囲退魔を行うという方針だったが、どちらの対応もないままで攻略を進めていく。


 緩斜面の半ばを越えたところで、祠から新たな影が出てきた。


「あれは……、もしかして生身の人間?」


 後衛にいる胡桃谷が声を上げる。外套を着た人のようには見えるが、スケルトンが生前の服を来たまま、ということも考えらえる。


「優斗、念のためにあの外套の個体には攻撃を控えるように指示を」


 頷いた胡桃谷が、よく通る声で各隊に指示を出す。


「それと、大物が出てきたわよ」


 どこか楽しげな口調で、隣の風音が指をさす。そちらには、人の骨にしては大き過ぎるスケルトンの姿があった。


「そうか、人間ベースとは限らないのか」


 元はジャイアントなのか、サイクロプスなのか、はたまたミノタウルスか。いずれにしても、大きなサイズのスケルトンが三体、こちらに向かってきていた。


 左方で戦っている楠木さんが、少し張った声で問いを投げてくる。


「春見野君、あれが人間だったら、殺すの?」


「いや、平定だから、無力化で行けるんじゃないかな。眠らせてみるとか」


「降参っていう概念はあるのかな?」


「ありうるかも。あちらの魔力が尽きたら、話しかけてみよう」


「でも、もしかすると、祠が魔力を供給しているのかも」


「それなら、出し惜しみせずに初手からジャイアントスケルトンを山程も出す気がするなあ。骨が必要で、そうもいかないのかもしれないけど。……様子を見て、どうにもならなさそうなら、魔法で祠を吹き飛ばすのもありかな」


 頷いた楠木さんは、また戦闘に戻る。動きはかなりよく、どう見てもぼくより戦闘の素質がありそうだった。本来なら、よろこばしいことのはずなのだが。


 戦闘は続けられ、最後にはその外套の個体だけがぼくらの前に立つ形となった。近づくと、明らかに人間で、しかも若い女性であるようだ。


 対峙するのは、一番隊の前衛である高梨風音と、西川大和、それとぼく、春見野睦月の三人ということになる。


 それでも諦めず、手にした棒で攻撃してくるのを、風音があっさりと叩き落とした。その勢いで、頭部があらわになった。


 明るめの栗色の髪は、短めに刈り揃えられており、年の頃はぼくらと同じく、十四、五といったところだろう。


 近寄ったぼくは、ゆっくりと口を開いた。


「改めまして、はじめまして。勝敗は決したと思う。降参してもらえないだろうか。……君らがいたエリアに攻め込んできたこちらに非があるわけだし、被害もないので悪いようにはしないよ。敵対しないでくれれば、身の安全は保証する。どうだろう?」


 栗毛の少女は、どこか信じられないものを見るような目でこちらを見ている。


「あるいは、行く当てがあるのなら、逃げ出してくれれば追撃はしないし。ただ、このエリアの平定ができないと、ちょっと困ってしまうのだけれど。……どうだろうか?」


 そっと手を差し出す。野良猫とはじめてのあいさつをするときよりも慎重に、脅かさないように。


 祠を背にして立つ少女は、明らかな逡巡を瞳に浮かべている。


「いきなり信じてくれというのも、虫のよい話だよね。一点だけ、ぼくらは人を殺したくはない。それだけは信じてほしい。……どうしても降参しないと言われても、ぼくらに君は殺せないと思う」


 エリアボスと思われる少女が、くすりと笑みをこぼした。


「名前を聞いてもいいかな? ぼくは睦月。春見野睦月。シャルラミア姫の配下、という形になる」


「オルリアです」


 ぼくの手を取った彼女が名乗ったとき、空に薄青色の煙の花が打ち上がった。



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