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<14>バーベキュー、からの個人面談

【Day 15】


 バーベキューの準備に関して、前日の報告会の段階からミイアさんに気合がみなぎっていた。


 第一エリアの平定によって、シャルラミア姫と共に領民配置計画などで多忙なようだが、それとは別腹ということだろうか。思っていたよりもさらに優秀な人材なのかもしれない。


 厨房の者たちにも手伝いを頼むから、基本的な準備は任せてくれ。ただ、同行する者たちは近くで別に食事をする形にしてほしい、というのが彼女からの要望だった。どうやら、厨房の人たちの慰安も兼ねる気のようだ。ぼくらもいつも世話になっている人たちなので、それはそれで大歓迎だった。


 夕食の席で伝達したところ、興味の無さそうな人もいるが、それならいろいろと追加を考えよう、という声もいくつか上がった。


 中でも、料理部の西川、高梨の両名は、どちらも外見からはわかりづらいが、張り切ってくれたようだ。前夜から商店で買い求めたうさぎ肉その他への仕込みをして、それにはなんとエストバル陣営の柊さんとアリナも手伝ってくれたらしい。うさぎ肉については、商店で一度売却してから購入すると、処理済みの肉が出てくる仕組みのようだ。


 手伝ってくれた柊さんとアリナには、招待しようかという話はしたようなのだが、競争相手なだけに差し障りがあるといけないということで、断りがあったという。


 下ごしらえを手伝ってもらって食べさせないなんて、ひどい話のようにも思えるが、本人たちは楽しんでいたらしい。まあ、かれこれ二週間も先が見えない城内待機が続いているだけに、無理もないかもしれない。せめてお土産対応を、という話にはなったようだ。




 戦いに倦んでいた面々の不満が解消されたわけではないだろうが、戦闘の心配のない、パーティ編成ではない外出は初めてで、それはそれで浮き立つものはあるようだ。


 転移がなければ、今頃は夏休みのまっただなかのはずである。イベント設定の意味合いは大きいのかもしれない。いや、水着イベントとかそういう方面ではなく。


 やや浮かれ気味ではあるが、念のため一番隊の面々を中心に、最低限の武具防具は備えている。ただ、朝から領民の人たちの一部が移動を始めているので、危険はあまりないのかもしれない。


 食材のメインは、うさぎ肉と商店で買った牛肉で、火を起こして焼いて食べる予定となっている。また、飲み物やその他の食べ物も準備されている。天気もよさそうで何よりだった




 朝食を軽めに済ませて、城の外に出る。普段の出撃はプレイヤーによる指示によって、胸の中に行かなくては、という想いが浮かぶ形での出発なので、完全な自由意志で城外に出るのは初めてということになる。


 荷物は多いが、服装は支給されている着やすい服の人もいれば、戦闘時の服の人もいる。また、制服姿もあって、多彩な形となっている。


 談笑しながら歩いて行くと、すぐに集落が見えてきた。家だけでなく、共同トイレや家畜向けの施設などもあるようだ。一夜城ならぬ一夜集落という形で、エリア平定を受けてシステムによって生成された、ということなのだろう。やはり、想像もできないような高度な技術に裏打ちされた世界のようだ。


 集落には既に人が入っていて、先導してくれているミイアさんが広場の借用交渉に入る。集落の人たちにも、参加してもらう形となるようだ。


 あっさりと話が成立すると、交渉相手となっていた領民の一人が近づいてきた。にこやかに声を掛けてきたのは、顔なじみのジルドだった。


「やあ、平定をありがとうな。しかも、宴に招いてもらえるとは」


「いやいや、遅くなりまして。宴は、提案したのはぼくらですが、実際にはシャルラミア姫とミイアさんが主導した形となっています」


 ジルドはそのままにこやかに、昨日からの流れを話してくれた。夜半に集落ができるという話は伝承として聞いていたので、指名された面々の一部は日が変わってから先に各集落に向かい、子どもも含めた残りは早朝に移動してきて、落ちついたばかりだという。


「そんな多忙な時に押しかける形になって、すみません」


「なぁに、めでたいときに宴があるのは、よいことだからな。じゃ、俺らも準備があるので、また」


 呼ばれたようで、にこやかに立ち去る。広間にいるときとは、雰囲気がだいぶ違って見えた。滞在が長くなり、不穏な空気もあったそうなので、開放感に浸っているのだろうか。


 ただ、広間に残る人たちはまだ多い。できるだけ早く、エリアを平定していった方がよさそうだった。




 焚き火で肉を焼く、くらいのことを想定していたのだが、ミイアさんが指揮する厨房要員は手際よく煉瓦を積んで、即席の調理場を作っていく。仮設の机なども用意され、並行して食材の準備が進んでいた。どうやら、すべてお任せしてしまって問題ないようだ。


 すっかり外歩きに慣れてきているので、近場への外出だとわかっていても、背嚢を持ってきているメンバーがほとんどで、各自が敷布を取り出して座っている。今のところは、楽しんでくれているようだ。


 ぼく自身、本来はインドアな方なのだけれど、この環境ではそう言ってもいられない。日差しがさほど強くないとは言え、連日の外歩きによる日焼けに苦心していた女子の何人かも、すっかり諦めの境地に至ったようだ。申し訳ない話ではある。


 薪に火が付けられ、焼きの準備が整った頃には、前菜的な位置づけなのか果物が配られる。何人かが手伝いに立ち、ぼくも続こうかとすると音海さんが声をかけてきた。


「では、今日のどこかで女子の幾人かの話を聞く、ということでよいでしょうか」


「はい、承知しています。ある程度食べてからのほうがよいかな?」


「そう思います。今のうちに、ゆっくり過ごしておいてください」


 にこやかに言われて、気が重くなる。ホントに、だれか代わってくれないだろうか。


 肉の焼けるいい匂いが漂ってきたことで、場はさらに朗らかになる。久我や胡桃谷と談笑していると、準備が一段落したらしいジルドがやってきた。


 手招きをして隣を指し示すと、にこやかに腰を下ろす。


「それにしても、あんたたちは紳士的だな。俺らへの対応はもちろん、子どもたちに菓子を振る舞ってくれたり、治療までしてくださったりと」


 胡桃谷は、やや恥ずかしそうである。魔法の熟練度が上がるのでは、という思惑もありつつとはいえ、なかなかできることではないと思う。


「エストバルさまの方からは、ルイナさまがとても親身になってくれてるなあ。他は、まったく見かけないけれど」


 瑠衣奈はさま付けなのか、とおどろきつつ、なんとなく弁護する気分になった。


「あちらは、出撃している六人以外は、待機を命じられているようで、そこがぼくらとは異なるようです」


 出撃メンバーから外れた十二人は、お金も得られていないはずで、できることは少ないだろう。その分、時間はたっぷりあるのだろうが、無為を楽しめるかどうかは人によって分かれそうだ。


「まあ、関わりがない分には、問題ないさ。よくないのは、過度な関わりを持たれる場合でな」


 伝聞だと前置きしてジルドが話してくれたのは、悪質な被召喚者が野放しにされた際の惨状だった。武力や魔力が強いだけに、為政者が容認すると、まさにやりたい放題になるらしい。具体例までは話したがらなかったので、よほどひどい状態だったのだろう。


「この地に、他にも被召喚者がいたのですか?」


 秋月が質問を挟む。


「俺は、別の城から移ってきたんだが、両親が幼かった時代にそんなことがあったらしい」


「ルミリオム、というのがこの国の名前なのですよね。このような城がいくつもあるのでしょうか」


「さて、住んでいた城には国王陛下はいなかったからな。少なくとももう一つは城があるのだろうけど……」


 あまり、国の情勢にはくわしくないようだ。まあ、テレビも新聞もなさそうだから、当然なのかもしれない。


「そういえば、あんたらは結婚はしてるかい?」


「結婚!? ……いやいや、ぼくらはまだ十五ですから」


「はて、俺らのところでは、そのくらいにはもう結婚してる者も多いがな。被召喚者を妻に迎える甲斐性のある男はなかなか見当たらないが、嫁のなり手ならたくさんいるからな。そういう話が出たら、声を掛けてくれ」


「はあ……」


 曖昧に頷いた頃、肉の第一陣が焼き上がったようだ。


「では、配りに行きましょうかね」


「いやいや、それは俺らが。座っててくれ」


 いい笑顔で制されてしまったので、甘えることにする。


「結婚ねえ……」


「ここでずっと暮らすのなら、いずれ考える時期も来るのかもしれないな」


 目先に精いっぱいで、しかも、いつか戻れるかもしれないという淡い期待も皆無ではないことから、ほとんど考えたこともなかった。ただ、他に被召喚者がいて、その人たちがこの地に骨を埋めているのだとしたら、考えを改める必要がありそうだ。


 いずれにしても、この城のモンスター出没地域の全平定が優先事項となるのだろう。先は遠そうだが。




 宴はなごやかに進み、ポーランド風に調理されたうさぎ肉もとてもおいしい。この地の調理法も、日本風とはまた趣きが異なり、それぞれに好評だった。もしかすると、何人かが肉料理スキルを発動したのかもしれない。


 厨房の人たちとも交流し、お互いの調理法を参考にしよう、なんて話にもなっているようだ。


 大量ではないにしても、酒が入ったこともあって、領民の人たちはお祭り状態に突入し、口々に被召喚者の皆への感謝を述べて回る者が続出した。それくらい、城に閉じこもる生活はきつかったのだろう。感謝されていることを実感して、少し皆の気分も変わるだろうか。


 眺めていると、背後から落ちついた声での呼びかけが聞こえた。振り返るとにこやかな表情で音海さんが立っている。そうでした、宿題を片付けないといけないのでした。


 個人面談は、音海さんも同席してくれて、三人で展開される形となった。


 まずは、踊り子役をやってもらっている、チアリーディング部所属の小柄な美少女、芦原さんが呼び込まれた。


 今回も、音海さんがゆったりとした雰囲気で、想いを引き出していく。芦原さんは、自分が気持的にも能力的にも、エストバル側のエースチームでの早乙女さんのような活躍ができていないことに、心苦しい思いをしていたという。


 あちらで踊り子を務める我がクラスの女王蜂は、前衛を務めていることになっている。ただ、ぼくはその点にやや疑問を感じている。騎士の反町、剣士の柳生が前衛なのは当然として、三人目は斥候である七瀬瑠衣奈が務めるのが、戦力的に考えて自然に思える。まあ、安全そうなところでだけ、前衛に回っているということなのかもしれない。


 一方で、早乙女さんの性格から、モンスター討伐自体は向いているようにも思える。ただ、彼女のような加虐性がないことは、人としてむしろ美点だと思う。


 その旨を伝え、さらに今の構成なら物理攻撃は足りているので、気持ちが整う範囲での鼓舞に注力してほしいとお願いしてみる。


 頷いた彼女は、目を伏せて呟いた。長い睫毛が印象的である。


「あちらの組に選ばれたかったわけではないけど、千夏ちゃんに疎まれているらしいのは悲しい」


 小柄で、グラマラスでありながら可憐で、さらに控えめな美少女となると、意外と生きづらい面もあるのかもしれない。敵意を向けられるべき人ではないと思うのだけれど、ぼくにまでそう思わせるあたりが、一部の人には腹立たしく感じられるのだろうか。




 続いて呼び込まれたのは、服部さんだった。彼女は、今日は高校の夏服に身を包んでいる。ついこないだまでごく普通だったその姿が、今ではすっかり非日常に感じられた。


 音海さん主導で聞き取ると、彼女の不満はだいぶ色合いの異なるものだった。


 職業に合わせて衣装がほぼ固定されるこのゲーム世界が、コスプレ的で個人の尊厳を踏みにじっている、と言うのだ。特に、巫女やダンサー姿が披露されたときに男子から漏れた歓声や、湖での水着イベントの話題への反応ぶりなどが、気に障っているようだ。


「まあ、水着イベントの話は、女性に対する視線というよりも、稲垣さんの男女を問わずのそういった感覚が一番の問題なのだと思うけれど。音海さんだってあのとき、着やせしているとか言われていたでしょう」


「あの、その話は……」


 頬を赤らめた音海さんを見て、失言を詫びた上で言葉が続けられる。


「もちろん、自分の意思でやる分にはいいのよ。水着姿を異性の前で披露するのも、コスプレ的な衣装を着るのも、戦うことも。意に沿わぬことを強制されているのが問題なんだと思うの」


「もっともだね」


 あっさりと応じると、やや意外そうな表情を浮かべられてしまう。


「春見野くんは、この世界のありようを是認しているのかと思っていたわ」


「いやいや、ぼくとしてもみんなが自由に選択できるのが望ましいと思っているよ。ただ、強制力を持つプレイヤーからよりましな条件を引き出し、さらに死なずに済み、できるだけ安全に過ごせる道を模索しているだけで。安全より、自由が大切だと言われてしまうと、そこは破綻してしまいそうなんだけれど」


「命あっての物種ではあるのだろうけど、やりたくないことを強制されて生きることに価値があるのか、って話はあるわよね。ただ、もちろん、バランスが大切だとも思う」


 命大事に、と思い過ぎなのだろうか。そう考えていると、服部さんがさらにつづけることには、どうしても戦いに慣れないそうだ。黒魔術士という役割自体は気に入っているのだけれど、自分がかけた魔法で、モンスターとはいえ生き物が傷つくのがつらいのだという。


 無理もない話なので、味方の攻撃力強化に専念してほしいと伝えると、やや安堵の表情が浮かんだようだった。




 一ノ瀬さんは、肉を堪能したせいか、わりとご機嫌モードでやってきた。


 彼女の怒りのポイントは、ぼくを含めた執行部からの情報開示が少なすぎることだったそうだ。


 どのあたりが知りたいかと問うたところ、攻略の方針や、それに至った考え方、シャルラミア姫との対話の内容、この世界の情報、といったところが挙げられた。


「全員がそのすべてに興味を持っているとも思えないから、全体に向けて話すのは適切ではない気がするな。でも、知りたい人に話して、意見を反映させていくことはもちろんできるよ。逆に、くわしく聞きたい人はいるかな?」


「山本あたりは、だいぶ興味を持っているみたい。他の人たちにも、話してみるわ」


「助かるよ。お願いします。戦闘の方はだいじょぶかな?」


「ええ。今のところは」


 なんとも頼もしい。メンバー構成として黒魔術士が手薄なので、一之瀬さんが戦闘参加してくれるかどうかは大きく影響するところとなっている。


「至らないところが多いと思うけど、気づいていない場合もあるので、指摘してもらえると助かるよ」


「手加減はしないわよ」


 なんとも恐ろしい。にやりと笑って、彼女は面談を打ち切った。




「音海さん、同席をありがとう。とても疲れたよ……」


「自らが発案した宴が続いているんですから、気を抜いちゃだめですよ。でも、偉そうに聞こえるかもしれませんが、よくやってくれたと思います」


「光栄だよ。……音海さん自身の不安や不満はないの?」


 虚を突かれた様子で、音海さんが首を傾げる。その所作によって、豊かな黒髪が揺れる。


「人の話を聞くばかりで、自分については考えてなかったですね」


「音海さんだって、十五歳の女の子なんだから、あまり気を張らないで」


「あなたもですよ、春見野くん。なんでも背負い込み過ぎです。……息抜きのはずのこの日に、面談をセッティングしたわたしが言うのも何ですが」


「ホントに」


 じろりと睨まれて、ぼくはその場を逃げ出した。


 やはり男子までは手が回らなかったが、ひとまず女子方面とは話を済ませることができた。趣味に生きている稲垣と、一之瀬さんの表現を借りると執行部に属する高梨は除外である。今日の話の内容は、二番隊の指揮を執ることが多い久我と、魔法の方針を固めてくれている秋月にも展開しておかなくては。


 そんなこんなの間にも、宴は続いている。締めは、おやつの時間に甘味を出して、という流れだと聞いているのでそろそろだろう。


 あたりを見回していると、西川と久我が、大きな寸胴鍋を抱えて中央にやってきた。柊さんのレシピで、西川が主体となって仕込み、進藤さんが魔法で冷やしたアイスがあの中に大量に入っているはずだ。


 デザートは、ぼくらからの振る舞いという形を取っていることもあり、手分けして木製の器に入れ、厨房や配膳の人たち、集落の人々に配っていく。溶けるのですぐに食べるようにと勧めると、口にした人たちから、そして特にミイアさんから感嘆の声が上がった。


 この世界の技術レベルはいびつで、宙に浮かぶ映像装置や、状況票のようなすごい技術の道具はあっても、電子レンジはもちろん、冷凍庫も冷蔵庫もない。そのため、調理法も限定的にならざるを得ない。料理のレシピ類も、総じて単調なようである。


 またこういう機会を設けましょうという話になって、宴は幕を閉じた。




 城に戻ると、全体予算を使った装備強化のため、皆で商店へと向かう。熟練度の関係から、今後使っていきたい装備を選んでくれるよう事前に伝達済みで、基本職ごとに相談してもらう形を取った。そこで固まった内容と予算との兼ね合いは、秋月が見てくれることになっている。


 基本職で括ると、騎士と巫覡と踊り子と探索者は一人ずつとなってしまう。なんとなく、四人で見て回る流れとなった。


 踊り子の衣装は、さまざまな様式のものが揃っていて、芦原さんを迷わせてしまったようだ。実際の支援効果にさほどの差はなさそうなのだが、本人のやる気に関わるとなると、意外と重要なのかもしれない。


 そう考えて、着替えるたびに評価役を務めていたのだが、当然、どれも可愛らしく、そのように答えていると、背後から鋭い視線が突き刺さっているように感じられて仕方がない。


 聞かれて答えているだけなのに、なんて理不尽なんだ。眼福ではない、と言ったら嘘になるが。


 探索者の装備はあまった金額で考えればいいので、踊り子の衣装の判定役は音海さんに、全体は秋月に任せて、離脱してギルドへ向かった。




 探索者ギルドに入ると、ギルドマスターが陽気に迎えてくれる。いつも通りスキルの確認を頼むと、観察スキルは変化なしだけれど、追加支払いで獲得可能なものが一つある、とのことだった。


 さほどの金額ではなかったので支払ってみると、弱点把握スキルが獲得できた。


「これは、どんなスキルになりますか?」


「その名の通り、モンスターの弱点の部位、苦手な属性なんかがわかる、……ことがあるスキルだな。広くまとめれば、観察系ということになる」


「系統は、他にいくつあるんですか? 鑑定も観察系ですか?」


「鑑定は別立てだなあ。ま、その辺は先のおたのしみってことでいいじゃないか」


 ギルドマスターは、NPC的に振る舞っているものの、実在の人物のようなのだが、あまり情報の開示に積極的ではない。まあ、あちらからすれば、ぼくなどはまだひよっこなのかもしれないが。


「また来ますね」


「おう、初期からの探索者なんて稀有な存在だから、期待してるよ。がんばりな!」


 決まり文句で送り出されて、ぼくは商店へと戻る。店の前では、秋月が迎えてくれた。


「お、戻ったな。探索者分以外は済ませたから」


 他の面々は、部屋に戻るか、商店で買い物を楽しんでいるようだ。


「ありがとう。そうそう、新しいスキルが獲得できたよ。みんなにも、こまめにギルドに寄ってもらった方がよさそうだね」


 胡桃谷が意外そうな表情を見せる。


「そっか、魔法を使わないと、あまりギルドに寄る機会はないんだね。ボクら魔法組は、一日二回は寄るようにしているから」


「なら、魔法職以外も一日一回は通ってほしいということにしようか」


「うん、いいと思う。そうやって獲得したスキルが、生死を分ける場面も来るかもしれないし」


 胡桃谷は、すっかりこの世界に取り組む心持ちになってくれたようだ。元々は戦闘を忌避する面があっただけに、申し訳ない気持ちもあるが、口にするわけにはいかない。


「じゃ、探索者の装備を見るか。放っておくと、後回しにしそうだからな」


「そうそう、重要な存在なんだから、防備を固めなきゃ」


 二人に引きずられるようにして、ぼくは探索者のコーナーへと連れ込まれた。



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