第九十五話 「平和な日」
お久しぶりの投稿です。短いですが、書き出せましたので、投稿します。‥‥まだ本調子ではありませんので、短いのは、目を瞑っていただけると嬉しいです…(申し訳ありません)
エルの誘拐から始まり、迷宮に伝説の邪龍であるグレンデルの戦いがあった激動とも言える春が過ぎ、季節は夏へと差し掛かろうとしていた。そして現在、俺は夏が近くなる事で発生する苦行に耐えていた。
「あ~‥‥熱ぃ‥‥」
「…大丈夫?」
「ああ。大丈夫、口癖みたいなものだからな」
寮から学院との距離は徒歩五分ほどの距離。だが雲一つない晴天によって空に燦燦と輝く太陽の熱気が容赦なく俺を焼くなか、心配そうに尋ねてきたエルにそう返しながら少しは気を付けるか、と考えながら一緒に歩き続けていると、ふと気になる事があったので尋ねて見る事にする。
「そう言えば、今日はどうする、泊まるのか?」
「‥シルバーが良ければ」
「エルが嫌じゃないなら。俺は良いぞ」
「なら、泊まる」
「そうか」
『泊まる』その言葉から容易に推測できる事だが、エルが言った泊まるという言葉は読んで字の如く俺の部屋に潜り込んで一緒に寝るという事だった。
(まあ、疚しい事はしてないからな。大丈夫‥‥大丈夫…か?)
外から見れば。何かしているのでは?と勘繰られるかもしれないが本当に同じ部屋で‥‥エルが俺のベットに潜り込んできてその結果、同じベットで寝ているだけだ。別に疚しさなど無い。が目が覚めた時にエルの寝顔が見れて俺的には得になっているのだが、それは秘密だ。
さて、そもそも何故エルが俺の部屋に潜り込み泊まる様になったのかだが、それはエルが誘拐された事件の三日後の病室でヴァルプルギス魔法学院の学院長ディアネル・シルクードとの話が起因していた。
「ところで、君の部屋は確かベットが空いていたよね?」
「? ああ、空いているが…それがどうかしたのか?」
「そうか…なら夜は君の部屋で彼女を寝かせてあげられるかな?」
「‥‥‥何を言っているんだ、あんた。そんな事出来る訳ないだろ?」
「いや、出来るさ、何せ私は学院長だ。そして学院でまた彼女が狙われるリスクは存在する。夜間などは特にだ。であるならばそのリスクを限りなく減らすにはこの学院で最も安全な場所と言えば、彼女が見初めた君の部屋以外、あり得ないだろ?」
思っていた以上にまともなディアネルからの提案に俺は強く否定をすることが出来なかった。あの時エルと行動を共にしていたリリィ達ですら敵わない敵というものが、明確に存在している以上、俺が動かないという選択肢はないが故に明確に否定は躊躇われた。
「まあ、確かにそうかもしれないが‥‥」
「なら、私が君に言いたい事も分かるよね?」
「分かるが…倫理的に駄目じゃないのか?」
男子寮と女子寮が分けられているのは、男女が健全に過ごす為。そしてまだ盛りの年齢ではないにしろ男女を一緒の建物にしたら、最悪の可能性も考えられる。故に男子寮と女子寮に分けられているのだろう。
だが如何にエルを守るためとはいえ、男子寮の俺の部屋でエルを寝かせるというのは、俺も男ゆえに一定の年齢を超えるまでは一線は超えないと誓ったが、一緒に寝る事により理性が崩壊するという可能性も完全には否定できないが故の言葉だったが、ディアネルはそっと俺の肩に手を置き、いい笑顔で言った。
「大丈夫。君なら出来る」
思わず殴りたくなったが、仮にも学院長を殴る訳には行かず代わりに言葉で俺は無理だと言い、ディアネルは大丈夫と言う押し問答が繰り返された。
「ふむ…どうしてもダメかな?」
「ああ、俺も男だからな。もしもの可能性がある」
「そうか‥‥分かった。それじゃあこの話はこれで終わりにしよう」
「あ、ああ…」
俺の意思が固いと感じたのだろう。ディアネルがこの話を一旦持ち帰る事で決着がつくと、ディアネルは立ち上がった。
「さて、それじゃあ私は失礼するよ。体に気を付けて」
そう言うとディアネルは部屋から出て行ったのだが、それが何処となく俺に不安を抱かせた。
(‥‥やけに、簡単に引き下がったな…)
そんな事を考えながら、体を休めるために俺は再びベットへ横になったのだった。
そして翌日、病院を退院したその日の夜。俺の部屋にエルが泊まりに来た。それと同時に理解した。ディアネルは俺を油断させ、本丸であるエルへと攻勢を変えたのだという事に。
そして、確かな理由で俺の所に来たエルを、俺は拒否する事は出来ず、今日に至るまで陽中では普段通り、夜は俺の部屋で寝るという習慣が出来上がったのだった。
そして、慣れというものは恐ろしいもので、最初こそ自身の悶々とした感情を抑える事に苦労したのだが、二週間が経過する頃には悶々とした感情もなく、ごく自然と過ごせるようになった。が、それでもいつか機会があれば学院長を殴る、またはぼこぼこにしようという決意が揺らぐことなく俺の中で更に固まったりもしたりする。
「そう言えばそろそろ夏季休暇だったけ?」
「うん。来週からだったはず」
「もうそんなに近くなってたか…早いもんだな」
「夏季休暇」それは前世の学校と同じくヴァルプルギス魔法学院にも存在する夏休みだった。休暇の期間は凡そ二か月と少しと、なかなかと長い休暇だった。
そして、その長い夏季休暇の間に宿題などもあるが、それ以外は自由。いわば遊ぶも良し。自主鍛錬に当てるもよしと言ったものだが、その目的は秋にあるある催しものに対しての準備期間ともいえるだろう。
そして、その中で大半の人が占めるのが、実家への帰省で、俺もその部類だ。
「なあ、エル。夏季休暇中は家に帰ろうかと俺は思っているんだが、どう思う?」
「私は良いと思う。それに多分、ティア達も反対しないと思う」
「ああ…そうだな」
言葉にこそしなかったが、エルが言いたいことが理解できた。実家の方が、本気で練習できる。それはどういう意味か、それはあの件以降も、今まで通り朝錬をしていたのだが、リリィ達三人の熱の入り具合が依然と比べて明らかに違っており、正に全力を出しているようにも見えた。そしてその理由は間違いなく。
(エルを守れなかったから、だろうな)
魔女メティス・ブラッドに対し、リリィ達は三人だったにもかかわらず、手も足も出ずに敗れた事による悔しさが鍛錬に熱が入っている理由だろう。そして、それを俺は別に止めようとは思わなかった。強くなることで死ににくくなるし守れる事も出来るなら、止める必要は無いだろうと俺は判断した。もちろんオーバーワークになれば本気で止めるが、今の所その様子もないので三人は今の所は様子見の段階だった。
そして、この場にリリィ達が居ないのは、休憩してから来いと俺が厳命したからだった。
「まあ、取り敢えずはその方向で行くか。鍛錬ばっかりじゃなくて息抜きとかも考えないとな。けどその前に」
「まずは今日一日の授業をこなす事?」
「ああ、その通りだ」
エルとそんな事を話しながら、俺達は学院へと辿り着き、その門を今日も通った。
今話は、前の章から少し時間が経過した辺り、夏の前辺りからとなります。
そして、夏と言えば…お分かりだと思いますが、あの季節ですね。そして、そのシーンも書き出そうと画策はしておりますので、楽しみに待って頂けると嬉しいです。
そして、次話から徐々に物語を動かして行きたいと思いますので、どうか、読者の皆様。宜しくお願いします。
最後にですが、今後の投稿頻度は二週間間隔での投稿が出来るよう努力して参ります。
長くなりましたが、今回はこれにて失礼します。また次話を楽しみに待って頂けると嬉しいです。
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