第八十二話 「過去のある日と現在」
今話は、次を考えて前半はリリィの過去のある日の事と、後半は現在の話となっています。
報告です、今週中の投稿ですが、全く書けない状態が続いており、投稿がずれ込みます。本当に申し訳ありません。
ですが近々投稿出来る様にしますので、しばしお待ちください。本当に申し訳ございません。
走り出してすぐに目的の治療院は見つかり、俺は突撃するように中へと入る。治療院内には光石によって適度な明るさが灯っていた。そして、そんな早さで治療院に入って来た俺に近づいて来る二人、ルヴィとレティスだった。そしてその二人に俺もすぐに気が付いて急いで駆け寄った。
「レティス、ルヴィ! 無事だったのか!?」
「はい。私達は比較的軽症です」
「私は半分が吸血鬼ですので、自然治癒でかなり治ってます」
そうは言ってはいる二人だが、二人ともそれぞれ見える範囲でも腕や足に包帯が巻かれ、顔には疲労の色が色濃く残っていた。レティスに関しては戦闘で血を使う『血操術』をかなり行使した影響なのか、青白いを通り越して白と言って良いほどに顔色が白かった。
「レティス、顔色がかなり悪いぞ、かなり血を使ったんじゃないのか?」
「はい…ですが、今の私に比べればリリィさんの方が重傷です。だから早くリリィの所に」
「分かってる、だが」
レティスの口から言われたその内容は、寮母の人に教えてもらった時点で既に分かっているので、本音は早くリリィの所に行きたいが、その前に俺は自分の左手の親指を噛み切り、噛み切った部分から血が滲み出てきて、それをレティスへと突き出す。
「取り敢えず、これを舐めろ。少しは違うはずだ」
「だが…うむっ!?」
レティスは早くリリィの元に行って欲しいからだろう、遠慮する様に言うのは予想できていた俺は、レティスの口が開いたタイミングで血が滲み出ている左手の親指を突き入れ、突き入れられたレティスは驚いた表情を浮かべた後、すぐに頭を引こうとしたので俺は指が抜けない様にグッと押し込んだ。確かに今はリリィの状態が気になるが、それを理由にレティスを放って置けるわけではない。
「う…む…こくっ…こくっ」
そして自分が血を飲まないと俺は動かないと理解したのだろう、レティスは俺の血を飲み始めると、レティスの顔はまるで熱に浮かされたかのように顔を僅かに赤く染めながら、砂漠を彷徨っていた旅人が見つけたオアシスで水を飲むかのように、しかし同時に赤ちゃんが母乳を飲むかのように優しく指から滲み出る血を飲んでいく。
(全く、無理しやがって)
傍から見れば、血を飲むレティスの様子はかなり怪しい魅力があるなとそんな事を頭の片隅で考えつつレティスの、自分より他人を優先するというのも大概にさせないとな、思っていた。レティスは俺がこの場に居ないリリィとエルの事を知りたいが為に、今にも倒れそうなレティスを見ぬふりをしてリリィの所に行くとレティスは本当に思っていたのだろうか? もしそう思っていたのならそれは大きな間違いだ。
(俺は、家族を、そして護ると決めた奴を見捨てない)
それだけは、絶対に曲げない俺の中の信念だった。それが周りから見れば欲張りだとしても俺はそれを曲げるつもりはない、と覚悟を新たにしていると、俺の指からレティスが口を放した。時間にして凡そ一分程だった。
「もう、いいのか?」
「ああ…ありがとう、シルバー。もう大丈夫だ」
「そうか、なら行くか」
改めて聞いた後、答えたレティスの顔色は確かにさっきまでと比べるとかなり血色がよくなっており、心なしか声音にも弱弱しく無くなっている事からかなり回復している事が伺えたので、大丈夫と判断した俺はルヴィとレティスに案内されリリィが寝ている部屋へと向かい、歩き始めた。
そしてレティス達に案内されて廊下を歩く事少し、
「ここです。リリィはこの部屋で眠っています」
悪寒を感じて戻って来て、知らせを受けて俺達はリリィが眠る部屋の前へと着いた。
side リリィ
私は、懐かしい夢を見ていた。それは平日のある日、私がまだ小学生の時に高熱を出した時、両親は仕事で、祖父母はどうしても外せない用事で家を空けていて私一人で寝ている時だった。
(誰も、いない)
横になっているのに高熱で体を起こす事もままならず、頭も視界も全てがユラユラ揺れている中で私の中にあったのは寂寥感だった。もちろん今思えば風邪が移らないようにするためだと理解は出来るけど、当時の私はそれが理解できず、ただただ寂しかった。
(…寂しい)
私がそう思っていつつ、どうにか布団を顔の近くに持ってきた時だった。ガチャっと部屋の扉を開けた音が聞こえて、音がした方を見るとそこには朝学校に行ったはずの、当時はまだ義兄だと知らなかった兄さんの姿があった。
「…兄…さん?」
「‥‥‥‥‥」
兄さんは私が声を掛けたけれど聞こえなかったのか、学校の制服まま無言で寝ている私を見た後、部屋の中に入ると扉を閉め、そのまま何も言わずに私の隣に来るとそのまま私の横に添い寝するかのように横になった。
「兄さん‥‥学校は…?」
「途中で帰ってきた」
兄さんは、何でもないように私にそう言った。
「どうして…?」
私が知る限り、兄さんが学校を途中で帰ってくるという事は無かった。それだけにどうして途中で帰ってきたのか、私にはよく分からなかったけれど、兄さんはさも当たり前の様に言った。
「どうしてって、妹が熱を出しているんだ。傍に居てやるくらいはするもんだろ?」
「でも、そんな事すれば父さんに…」
怒られる、そう言おうとしてでもそれを言えば兄さんは学校に戻るのでは、と思ってしまい、全部が言えなかったけれど、
「大丈夫。お前は何も気にしないでちゃんと寝て、熱を治せ」
そう言うと、兄さんは布団の中に手を入れると私の手を握ってくれた。
(温かい…)
握ってくれた兄さんの手は、まるでお日様の様に温かく冷えていた私の体と心を温めてくれて、その温かさに包まれていく安心感に、私は自然と重くなってきた瞼をどうにか開けていたけれど、最後に隣で見守ってくれる兄さんを見た後、私は安心して眠りに就き、その時にはもう寂しさはなく、寧ろ何か温かいものを感じていた。
(懐かしい夢、見たな)
そんな事を考えながら意識は徐々に覚醒していくと、ふと右手によく知っている懐かしい感覚とほのかな光を感じ取り、私は目を開く。
(あれ、ここは…?)
うまく働かない頭で天井とカーテン越しに光が差し込む窓が見えた。
(あれ、ここは…?)
自分の部屋とは違う見覚えのない天井と窓に私は困惑しつつ、首を横に動かすと、そこには私が前世の時から大好きな義兄が私の直ぐ横で椅子に座った状態で、私の手を握ったまま眠っていて、その寝顔は少しあどけなさが残っていてもう少し見ていたかったけれど、私は何となく声を掛けた。
「義兄さん…?」
「…ん……リリィ! 目を覚ましたのか!」
目を覚ました義兄さんは何度か目を瞬かせた後、私が目を覚ました事に驚きながらも嬉しそうに大袈裟に私を抱き締めて来ました。
「良かった‥‥本当にっ!」
「もう、義兄さん。苦しいですよ?」
そう言いつつ、私も義兄さんの背中に手を回して抱き締めます。義兄さんに、大丈夫だと伝えるために。
そこでふと、私はある事が気になった。それは目覚めた時から気になっていた事、どうして知らないベットで寝ているのか、そう考えた瞬間、私は思い出した。ローブを目深く被った女と戦って私達はやられて、エルさんが私達を庇うようにしてローブの女に連れて行かれたという事を。
「ご…」
その事を言う前に私はエルさんが連れ去られてしまった事を謝ろうとしたけれど、謝ろうとした瞬間、義兄さんはそれを言わさないとばかりに更に私を抱きしめてきた。
「良い。お前は別に悪くはない」
「‥‥‥でも」
「これ以上、何か言おうとするなら、悪いが怪我人であろうと俺は怒るぞ?」
「…うん」
義兄さんのその言葉で私はある事に気が付くことが出来た。それは義兄さんは出来る限り抑えていても近くで聞けば分かった声音にあったのは、怒り、だった。
それでも私は怖くなかった。何故ならその怒りは私の事を心配してくれているからこそなのだと、理解できていたから。
「ところで、義兄さん。今日誰かをおんぶか抱えたりでもしました?」
「ああ、ティアに星を見せるためにな」
「そうですか…」
「?」
義兄さんは何でもないようにしたから自覚ないかも知れなかったけど、私はまた増えるかも、とこの場にそぐわない、でも当たりそうな予感を感じたのだった。
そして一方のその時の俺は、
(なんだろう、この悪い事はしてないはずなのに、何となく申し訳なさが募る感覚は…)
胸の内にそんな感覚を感じていた。だが正直に言って今は時間が惜しいので、それは胸の内の脇に置いておく事にして、リリィに敵がどのようであったかを尋ねる事にした。
「それで、リリィ。悪いんだが教えて欲しい事がある」
「あ、はい。なんでしょう」
「お前たちを襲い連れ去ったのは、どんな奴だった?」
話しかけた事で現実に復帰した(?)リリィに俺はリリィ達を襲ったやつの何かしらの特徴を覚えていないかと尋ねる。最低限何かしらの情報があれば立ち回りなどにも注意できるし、ある程度の予想も立てやすかったからだ。
「ええっと‥‥私が覚えている限りでは…相手は声から見て女です。ただローブを深くかぶっていたので顔は分かりませんでした。けど恐らくその女性は魔法特化だと思います」
「そうか。ありがとうリリィ…ん?」
「失礼します。申し訳ありません、リリィさんの診察をしに来たのですが…」
リリィから話を聞いた後、扉をノックする音が聞こえ、レティスに目配せしレティスがドアを開けるとそこには白衣を纏い、赤茶色の髪に黒に近い眼の三十代前半程の女性が立っていた。
「貴女は?」
「はい、私はこの治療院の院長を務めているメリアと言います」
そう言って物腰も丁寧に頭を下げてきたので、俺達も名乗ることにした。
「俺はシルバーです」
「ルヴィです」
「レティスです」
「あらあら、ご丁寧にどうも。それに、貴方がシルバー君なのね」
「はぁ‥‥?」
一通りの自己紹介が終えた後、メリア院長が興味深げに俺の事を見てきた。俺としてはそこまで興味深げに見られるような事をした覚えも、そもそもこの院長との接点はないはずなので興味を持たれるとは思えなかったのだが。気になるので尋ねて見る事にする。
「どうして俺を興味深げに見てくるんですか?」
「ああ、ごめんなさいね。実は手当をしている時にリリィちゃんが呼んでた名前だったから男だろうとは思ってね。気になってたんだよね」
「そ、そうですか…」
そうしている間も、メリア院長は興味深げに俺の事を見てきて、一通り見た後、
「それで、貴女がレティスちゃんね?」
「あ、ああ、そうだが?」
「へえ、本当に男の子みたいに喋るんだね?」
「え、あ、はぁ‥?」
今度はレティス達に興味が湧いたのかレティスに色々と話しかけ始めたので、レティスには申し訳ないがその間にリリィにどういうことなのかを尋ねようと見ると、申し訳なさそうに視線を逸らしていた。
「‥‥…すみません」
「…どう言う事なんだ?」
「それが‥‥、院長先生が私の傷を治している時にどうやら私が寝言の様に兄さんの事を言っていたようで…それを聞いた院長先生が義兄さん達に興味を持って…」
「なるほど」
後は、ご想像の通りですとリリィは恥ずかしそうに顔を赤く染めていた。それはいわば穴があったら入りたいと言っているようだった。そしてその間に色々と聞かれたであろうレティスの表情には疲れが混じっており、そしてそれはルヴィも同じだった。
一方、二人に色々と聞いたメリア院長は俺を見ながら納得したと言った感じで頷いていた。
「なるほどね。そりゃあリリィちゃんが無意識に口にしちゃう訳ね」
「い、言わないでくださいねっ!」
「はいはい、言わないから横になりなさい。診察に来たんだから」
そう言うメリア院長に対して、リリィは全力で言わないように口止めしていた。‥‥‥何か俺に聞かれて恥ずかしい事でものあるのだろうか?とそんな事を思っているとメリア院長はリリィの隣に来るとそっとリリィの手を取ると同時に、その手に淡い水色のが灯る。どうやら診察が始まるようなので、俺はリリィに目配せをした後、静かに部屋を出た。もちろん出る際にレティスとルヴィはここに居る様に伝えてだ。
(じゃあ、俺はエルを助けに行く。お前たちはここで傷を癒せ。いいな?)
(分かりました。私達はリリィと一緒に居ます。ですので無理はしないでください)
(まあ、出来る限りは善処するよ)
(どうか、お気を付けて。エルさんをお願いします)
(ああ)
ルヴィの言葉を引き継ぐようにレティスが言い、俺はそれに答えつつ、部屋を出る。そし一旦準備の為に、俺は自分の部屋へと戻ったのだった。
二週間で投稿と言っていましたが、すみません。中々に話が纏まらず、ずれてしまいました、申し訳ありませんでした。
次話は出来るだけ二週間ペースの投稿が出来るように頑張ります。
次はいよいよ、攻略です。(ここは決まっている)
ブックマーク、感想、評価などを貰えますと、活力が出ます、出来れば宜しくお願いします。
それでは、今回はこれにして失礼します。次話を楽しみにしていただけると嬉しいです。




