第七十話 「新技と全力」
どうにか、出来たので、投稿です‥‥修正が多すぎと、仕事が忙しくて執筆が出来ない…。どうにかペースを守れるようにしないと‥‥
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凡そ五分程の休憩(という睡眠)を終え、立ち上り体の調子を確かめるために俺は、何度か軽くほぐす程度で体を動かす。
(…よし。万全だな。アルザーネの方は…良さげだな)
体を軽く解しながら隣へと視線を向ける。そこには、これから戦うアルザーネが、同じく体をほぐしているところだった。そして見た感じではアルザーネの疲労はかなり抜けているようで、気のせいか、それとも錯覚か、アルザーネは濃密な闘志を纏っているように見え、それを見て俺は、寧ろ嬉しさが湧きあがていた。
(この感覚は、久しぶりだな)
今、俺が感じている感覚、それは中学時代のバレーの決勝戦で、その地方では強豪校で有名な中学校と戦い、接戦を演じて以来の感覚だった。そしてこの感覚が訪れたという事、それは最高に調子が良いという事を、体が伝えて来ていた。そしてそれは、俺が全力で戦えと、本能的に理解している証拠でもあった。
そしてそうこうしているうちに、アルザーネは準備を終えて構えを取っており、そして同じく準備運動を終えた俺も剣を抜き、構える。
「それじゃあ、本気で」
「ああ。手加減は、一切なしだ」
そして互いに一歩も動く事は無かった。もちろんそれはただ動かなかった訳ではなく、相手の次の動きを、一挙手一投足を予想、潰し先手を打てるようにしていた。もちろんその中にはワザと隙がある様に見せるフェイントも混じっており、それを潰したりし、それを風を視る者と前世、部活で磨いた観察眼を総動員してどうにか拮抗していたが、それでも俺はアルザーネの攻撃に押されていた。
(くそ、潰すのが間に合わない!)
全神経と経験を持って潰していくが、それでも徐々に潰すのが間に合わず、先手を取られそうになるが、どうにか食らいつく。そして体感にして十分、実際は僅か数秒の時間しか経過していなかったが、どうにか拮抗していた天秤が、揺らぎ、アルザーネへと傾いた。天秤が傾いた瞬間。アルザーネは一息に、まるで疾風の様に距離を詰め、掌底を放ってきた。
「はっ!」
「くっ!」
どうにか剣の腹でアルザーネの掌底を受け止め、衝撃を地面へと流し、
「せやっ!」
お返しとばかりに薙ぎ払う様に剣を振るうも、アルザーネは既に剣の間合いから抜け出しており、反撃の攻撃とはならなかったが、結果としてアルザーネからの連撃へと繋がるのを止め、仕切り直しが出来たので結果オーライだった。だが今の俺は、正直焦りがあった。それは、アルザーネの全力が予想以上に早く、また流して分かったが攻撃が重い事だった。
(くそ。早さに合わせて攻撃も重いなんて、反則レベルだろ!)
思わず、風を視る者と、確証はまだないが前世の日本の神の血を引いている体のという十分チートである自身の事を抜きにしても、それに拮抗出来るアルザーネにただ驚くしかなく、それと同じ位、面白い、楽しいという感情が湧き上がっていた。
(さあ、もっと本気で戦おうか!)
第三者が見れば戦闘狂にみえるだろうな、とそんな事を思いながら、俺は魔力を放出し、そして、アルザーネも魔力を放出、ここに二つの魔力の嵐が生まれ、互いを潰し飲み込まんと鬩ぎ合う。そして魔力の嵐が吹く中、俺とアルザーネは、互いに一歩踏み込み、俺はさっき見たアルザーネの真似、即ち【風鎧】の限定発動によって剣にのみ風を纏わせて、アルザーネは【風渦】を拳に纏わせ、互いに剣と拳をぶつけ合う。
「はああああっ!」
「やああああっ!」
本来であれば剣が勝つであろうその勝負は互いに拮抗し、しかしそれによって辺り一帯はその被害をもろに受けることになりその結果、辺りの木は薙ぎ払われ、または吹き飛ばれた。更に互いに身体強化魔法をも使い、互いに互いを打倒さんとし、その間も周囲の環境は嵐によって破壊されて行く。そして時間にして五秒ほどか。膠着した今の状況に一石投じる為に、俺はごく自然に動いた。前にではなく、後ろへと。
「なにっ!?」
「‥‥はっ!」
そして俺が後ろに下がるという事、それは互いの力を相殺した状態であったのに、一方が下がれば必然と、押していた方がバランスを崩す。
恐らく俺が押してくるだろうとアルザーネがさらに力を籠めたタイミングで、予想を外されたアルザーネは驚きの声を上げる。もしそれが通常の模擬戦であれば、それほど明確な隙では無かっただろう。だが今の俺にとって、剣を振るのに、十分なものだった。
「くぅっ!」
しかし、体勢を崩したアルザーネに確かなダメージを与える為に、人間にとって頭と体を繋ぐ重要部位である首へと剣を振ろうとしたのだが、本能的か、アルザーネは右腕を犠牲にして作り上げた僅かな時間の間に左手に纏わせていた【風渦】を地面に向けて解放し、土砂が巻き上げられた。
先ほどまでであれば互いの風魔法によって風が吹き荒れており、土砂を巻き上げようとすぐに風によって払われるのだが、今は風は止んでいた。
(くそ、やられた!)
土砂が巻き上げられたことによって一時的に視界を遮られながらも俺は構わず剣を振った。が何の感触もなく、すぐに風を視る者で確認するも、そこには既にアルザーネの姿は消えていた。
「(一体、何処に…っ!)」
直後、風を視る者で見る暇も無く、直感、本能的な危機感知というべき感覚に任せて俺はその場でしゃがみこむ。すると頭上数センチの空間が蹴りによって薙ぎ払われ、俺は屈んだ状態で後ろに剣を振るも、何の感触もなく、俺は一旦距離を取る為に膝を伸ばす様にして後ろへと飛び退るとちょうど巻き上がっていた土砂も落ち着き、そこには、獰猛な、肉食獣のような笑みを浮かべていた。
「あはは、凄いね。私とここまで戦えたのは、君が初めてだよ!」
「それは、俺もだよ。まさか、ここまで強いとはな。‥にしてもそれは【獣化】の影響か?」
「ああ、これ?」
アルザーネをよく見てみると、指先から手首に掛けて、先ほどまでは無かった動物の毛のようなモノが生え、獣性に近づいた影響か、その手は猫の手の様に変化していた。分かり易く言えば、某ゲームの動物女狂戦士のような感じだった。
「これは、体が【獣化】によって獣の側面が出た影響さ。そして、獣の側面が出てる影響で、今すぐあなたを襲いたい衝動に駆られてるけどね」
「なるほど。今は理性でどうにか抑えているって事か」
「そう言うこと」
確かに、今のアルザーネの瞳には獣性が理性を凌駕せんとし、アルザーネは理性によってその獣性を抑えているようだった。確か、読んだ本の中に獣人に関する事柄も書かれており、彼らは基本的に人間と同じだが、【獣化】した場合、軽い興奮状態に陥り、理性が失われやすくなるらしい。人間でいうところの、アルコールが入った事でテンションがハイになるような状態という事だった。(流石に、この世界ではまだ子供なので酒は飲まないが)
そして、テンションがハイになるという事は、自らの力を制御するリミッターが外れるという事で、つまり、今のアルザーネは、先程より強くなっているという事で、それは俺にとって、嬉しい事だった。何せ、強敵と戦うのは、とても楽しく、心が躍る物だからだ。もちろんそれは、死なない今の環境下だけであって、本当の命のやり取りであれば、そのような感情が湧き上がる事は決してなかった。命のやり取りである戦いでは、小さなミスで死ぬという可能性が常に存在しているのだ。そして命のやり取りの中で楽しむ程、俺は壊れてはいなかった。
「そろそろ、抑えるのも限界。だから、行かせてもらうよ!」
(なにっ!)
【獣化】したアルザーネのその早さは、俺の想像のはるか上を行き、その姿は掻き消えるかのように消え去った。
(いや、違う。捉えきれない速さで動いているのか!)
その早さはまさしく疾風で、風があれば何でも視る事が出来る【風を視る者】でさえ、アルザーネの姿を捉える事ができず、その移動の軌跡を知ることが出来る程度だった。
「ぐっ!」
殴られた、そう感じたのとほぼ同時に剣を振るったが、当たり前の様に剣はただ空を切った。
接近されていたのだろう、腹部を殴れらたと感じ、俺はすぐに【風を視る者】で自分の周囲を見てみるとそこにはアルザーネが目の前に来ていたという痕跡が残っていた。
(正面から接近されても見えない速さと、この威力の攻撃か…)
幸いにも姿が掻き消えた直後から念のために受けた衝撃を地面へと流せるように、ある程度脱力していたお陰で幾分かダメージを減らせることが出来たが、それでいつどこに攻撃を受けるか分からない状態で自然に流せるほど習熟していないので、全てのダメージを流す事はできず、殴られた腹部には今もかなり鈍い痛みが残っており、何より、内臓をやられたのか、幾分か魔力が削られた。
正直、流さず素で受ければどうなるかは想像できなかった。その証拠に、力を流した地面は、俺を中心に四方八方へと亀裂が生じていた。
それによって証明されたのは、少なくとも、もし今の攻撃を流さなかったら、俺は今この場に立っておらず、魔力欠乏によって強制的に転移させられた可能性があるという事だった。
その事実に、俺は思わず信じたくないと無意識に思い、苦笑を浮かべた、そんな俺にアルザーネの声が聞こえてきた。
「へえ、今まで誰も【獣化】した私の一撃を耐える事が出来なかったのに、凄いわね。貴方」
「いや、耐えれたのは、完全な偶然のお陰だ」
「違うな。偶然、運。それに助けられたとしても、それを含めて実力だと、私は思うな」
そう言葉を返しながら声の聞こえた方を見ると、そこにはアルザーネが立っており、その表情と声音は共に驚きと称賛だった。そして言うだけいうと再びアルザーネはまた走り出したのだろう、まるで蜃気楼の様にその姿が消える。しかし今の俺にはその事に気を向ける事は無かった・
「‥‥なるほど。そう言う考えもある訳か。ならその幸運に、そして本気を出したお前に対する返礼の為、本気を出そう」
俺は、手にしている剣、『ジョワユーズ」に魔力と意識を集中させる。試みようとしている事、想起と魔力によって魔法を発動させる、魔力とイメージで事象を改変する原理を利用して『ジョワユーズ』に一時的に『天叢雲剣』へと変化、またはその力を付与させようという試みだった。そしてもちろん想起するのは、『風神の天廻』の中に収納してある天叢雲剣だ。
「ッ!」
何かを感じ取ったのだろう、姿を捉えることは出来なくても、相手のからの視線でどういう反応をしたのかが、大雑把に伝わってきた。
アルザーネも本能的に理解したのだろう、俺が試みるとしている事が成功すれば、それは自身の敗北に繋がるという事を。だが動こうとした体を、アルザーネは自らの理性で以て封じ、アルザーネは俺の正面、二メートル程の距離に立っていた。
「いいのか? 勝ちを得るチャンスだぞ?」
「‥‥‥」
今の俺は、事象の上書きに全集中力を注いでいる状態だ。そんな状態で攻撃されれば、先程の様に攻撃を流す事無く、俺の敗北が必定であっただろう。だがそんな俺からの問いに、アルザーネはただ笑うだけだった。無言の笑み、それを見て俺はアルザーネが何を望んでいるのかを察した。アルザーネが望んでいるのは、俺と本気で戦い、勝利したいのだと。
「なら、俺もその要望に、応えようッ!」
宣言した瞬間、事象改変が、一時的に『ジョワユーズ』へと『天叢雲剣』の力を付与する事が完了したと認識すると同時に、力を解放する呪文を詠唱する。
「我は嵐の化身。八首の龍を滅ぼしし英雄の血を引く者。ひと時、我が内に秘められし力を解放せよ!」
呪文を唱え終えると同時に光に包まれ、光が晴れると、俺はオーラのようなモノを纏っていた。
「それが、お前が出せる本気か?」
「ああ、今出せる最高レベルが、こいつだ」
正直言って見た目としては、まるで魔力を放出しているだけように見えるかもしれないが、実力がある者は、それが魔力でない事にすぐ気が付くことが出来るだろう。
「なるほど…良く分からないけど。そのオーラはかなりやばいね。でも見た感じ安定もしていないようだし。まだその力を使いこなせていない、かな?」
アルザーネの言葉に俺は、ただ笑みを浮かべるだけだった。実際問題、【天叢雲剣】の力の一端を『ジョワユーズ』へと憑依させ、その状態で力の開放させるまでの構想までは出来たのだが、如何せん構想や想起は出来上がっていて、それが上手く扱えるかは、まったくの別問題だった。
(くそ、ここまでの暴れ馬とは。やっぱり事前に練習すべきだったかな…)
内心でぶっつき本番で憑依をやったことを後悔をしつつ、何とかイメージを保持しつつ暴れる魔力の制御の手綱を握り、見た目、性能ともに一時的とはいえ天叢雲剣へと変化・昇華した『ジョワユーズ』を片足を引き、刀身を隠すようにして構え、アルザーネも構えを取る。
「それじゃあ」
「ああ」
互いに無言になり、どちらともなり動き出し、剣と拳を交えた瞬間、辺り一帯の地面が経った一回の交差でまるで地割れの様に割れるが俺とアルザーネは互いに弾き飛ばされながら、互いに体勢を整える。
(これは、気の抜けない戦いになりそうだ)
こうして、互いに今出せる全力を出した俺とアルザーネの戦いが、幕を開けたのだった。
時間がかかり、申し訳ありません。そしてもうひとつ謝罪を。シルバーとアルザーネの戦いは次回に持ち込ませてください。(体力と気力を回復させた状態で書き上げたいので)
次回の投稿は、出来れば二週間を予定していますが、正直、何故か忙しくなっているので、投稿が前後する可能性があります。その際は本当に申し訳ありません。
最後にですが、誤字脱字、おかしな箇所などあれば、ご報告をしていただければ幸いです。それでは、また次話で。




