第六十九話 「私の好敵手」
どうにか、投稿です。今回は、リリィの戦いです。‥‥本当はエル達のも書きたかったのですが、このままだと進めないので、後に書きだしますので、ご容赦ください。
シルヴァとアルザーネが休息を取っていたその頃。
レティスと合流を果たしていた私、リリィは今まさに剣と魔法を交えている所で、相手にしてるのは淡い茶色の髪に肌色に近い薄茶色の瞳を持つ少女だった。
「シッ!」
「くっ!」
剣を交えはじめて、すでに何度試したか分からないほど反射を試みているけれど、その全てが失敗し、未だに目の前の彼女との戦いに決定打と言える「反射」が出来なかった。何故「反射」が失敗に終わっているのか、それは彼女の振るう剣の早さだった。
(目で見てちゃ、追いつけない!)
先程の攻撃もそうだが、彼女の剣による攻撃は全て居合の早さで振り抜かれる必殺で。
私は辺りに意識を張り巡らせ、相手の動きを僅かに先読みする事で、それをどうにか逸らし、それによって生じた相手の僅かな隙を突く事で反撃する事でどうにか戦いは均衡を保っていた。
けど一人で無理なら合流を果たしたレティスと戦えばいいのだけれど、いまこの場にレティスの姿は無かった。その理由は、私だった。当初、レティスは私に協力して倒そうと提案してきたのだけれど、それは私が断った。
「レティスさん、申し訳ないんだけど、近づいて来る人たちを倒してもらっていいかな? 彼女の相手は、私一人でするから」
「な! 正気か!?」
私のお願いにレティスさんは一言いいたげな表情で私を見てきたが、私は覚悟を持って彼女の眼を見て。それで私の本気がレティスさんにも伝わったのだろう。レティスさんは小さくため息を吐くと「がんばれよ」と小さく私に告げると素早くこの場から離脱してくれたのだった。そして私は正面から対峙すると、彼女は去っていくレティスに眼もくれずに私を見ていた。
「いいのか? みすみす勝利を逃がすような事をして?」
「いいんです。これは強くなる為の私のわがまま。だから絶対に貴女に、勝つ!」
「いいえ、勝つのは私です」
そして、二人は微かな笑みを浮かべる。それはまるで、長い間戦い、ライバルと認めた存在と出会ったかのようだった。
「ふふっ、では名乗っておきましょう。私はレイシェル・セルネイ」
「私はリリィ・ランフェード」
互いに名乗りを上げ、武器を構える事、数秒。その間に私の行動方針は決まった。
(取り敢えず、まずは相手の動きを見る)
私の「反射」は相手の攻撃を受け切り、それを相手に返すカウンター技。その為には相手の動きを見て、癖や動きを少しでも覚える必要がある。そう判断した私が最初に動く。
「せやっ!」
「はっ!」
まず最初は正面からで、レイシェルさんも剣で剣を受ける。そして、互いに剣を交えはじめて、どれ位の時間が経ったのか、今の私にはそんな事を考える余裕はなかった。少しでも意識が逸れれば、それは致命的な隙となり、敗れる事が容易に予想できていたからだった。それでも戦い始めた時に比べると、幾分かは相手の動きを読む事もでき始め、予測の的中率も上がっていた。けどそれでもまだ動きがつかめず「反射」で上手く返す事が出来ていなかった。そしてそんな私を見ながらレイシェルさんは素直に私を称賛してくれた。
「これほど長く、私と剣を交えたのは、貴女が初めてです」
「それはっ、光栄なことです、ねっ!」
私からすれば、この人の攻撃に耐えれている今の状況こそが、奇跡のような気がしてならないのが本音だった。
だってレイシェルさんの剣の動きは未だに衰えがない。どうにか、タイミングが合い相手の攻撃を弾く為に剣を振るえているのは、一重にエルさんやルヴィさん。そして離れて戦っているレティスさん、そして義兄さんと一緒に基礎である体力の強化に取り組んでいたお陰だった。
『リリィ、身体強化魔法にばかり頼るのではなく、最も基本的だが体を鍛えた方が良いと俺は思うぞ?』
『え? それはどうしてですか、義兄さん』
義兄さんと一緒に暮らし始めて、義兄さん達の鍛錬に一度参加させてもらった時、私は義兄さんからそんなアドバイスを受けて、私はどうしてだろう、と思った。だってこの世界に前世では幻想といわれていた魔法が存在していて、手軽に体を強化できるので私は色々な事に身体強化魔法を使っているのを知っての事だったのだろう。
『ああ、人間ってのは楽なものを手に入れたらすぐにそれを使う。それはたぶんこの世界でも変わらないだろう。けど俺はそれは本当の強さにならないと思っているんだ。その証拠に走り込みなんかの体力作りのトレーニングで俺達は魔法を使ってないだろ?』
『はい‥‥でもそこにどんな理由が?』
確かに、義兄さんの言う通りで、何度も見ていたけど確かに義兄さん達はトレーニングをしている時に身体強化魔法を使っている所は見た事が無かった。けどそれは単に今は使ってないだけだと私は思っていた。
『俺はな、リリィ。楽して手にした力じゃあ、もしも負けた時、次に活かそうとしないような気がしているんだ。例えば、誰かと魔法を競って負けたとする。それが普段から鍛錬をして負けたのであれば更に己を鍛えようと努力するだろう。けどそうじゃなければどうなると思う?』
『負けたのを才能のせいにして、弱さから眼を背ける…?』
『極論かもしれないけどな。もちろん、それと魔法も自分の力だから使ったりの鍛錬はする。けど俺が言いたいのは、そういう力に頼る前に、少しでも一歩づつ体を鍛えた方が体だけじゃなく、心も強くなると思っているんだ。心が負けなければ、活路が見つかるかもしれないからな』
まあ、ちょっと脳筋ぽいけどな、そう言って義兄さんは自嘲気味にそして恥ずかしそうに肩を竦めたけど、その話を聞いて私は魔法という力に甘えていた事を自覚させられた。義兄さんは私を諫める程度のつもりだったかもしれなかったけれど、私にとってはそれは確かな意識の変革に繋がった。
そして、魔法を使わず体を鍛えたお陰で私はいま、レイシェルさんの攻撃に耐える事ができて、心が折れずに戦えていたのだ。そしてレイシェルさんも私が魔法にだけ頼って戦っていない事に気が付いたようだった。
「どうやら、かなり体だけでなく、心も鍛えられているようですね」
「ええ。義兄さん達と一緒に鍛えましたから!」
「なら、これはどうかしたら!」
そんな言葉を交わしながらも続く、まるで息をのむ事すら躊躇してしまうほどの連撃を私はどうにか捌いていく。そしてそんな私を見てレイシェルさんの剣戟はさらに加速していく。そしてやがて私はその早さに着いて行くことが出来ず、徐々に捌くよりもダメージを受ける事が増える。
「くっ!」
それほどの速さで剣を振ってなおレイシェルさんの動きに乱れはなく、寧ろ早くなっていくごとにより洗練されてきているかのようだった。
(このままだと、ジリ貧。どうにか、しないと!)
今いる結界内では血や怪我を負わない代わりに魔力を消費するようになっている。
そのなかでも太い血管のある手首や足の付け根、首などを攻撃されれば血の代わりこの中では魔力を消費するのだ。
出血、怪我を負わない利点はあるが、血の代わりに魔力を削られるこの中でも外と同じように致命的な弱点で、首や手首への出血の多い箇所への攻撃だけは何とか捌いていくけれど、それはあくまで時間稼ぎで、このまま小さな攻撃を受け続けるとそれは少しづつでありながら、着実に私の魔力を削ってきていた。
(どうにかして、この連撃を止めないと)
今はどうにかレイシェルさんの早さに食い下がれているけれど、でも着実にさっきまでと比べると被弾する箇所が増えて、魔力の削られる早さも早くなっていた。それでも下手に動く訳にはいかない。下手に動いて隙を突かれると、一気に魔力を削り切られる可能性も高い。それならばここまで使っていなかった身体強化魔法や水魔法を使えばいいのだが、私としては身体強化魔法や水魔法を使うつもりは無かった。
魔法を使えば、必然的に魔力を消費する。消費するという事は消耗が増えるという事で、さらにもし魔法を使い、避けられて私に隙が出来れば一気に魔力を削り切られて魔力欠乏症に陥って強制退場されるという可能性があった。
そしてそれとはもう一つ、私が魔法を使わないのには理由があった。それは魔法なしで、今の自分の力を確かめたかったというの思いがあったからだ。
「はあっ!」
(まずいッ!)
レイシェルさんの剣の速度が更に上がり、それは私はカウンターを仕掛けようとしたタイミングが重なってしまい、気が付くと私は後ろに吹き、いや剣の柄による打突で吹き飛ばされ、生えていた木に激突し、背中と打突を受けた腹部に鈍い痛みが走った。
「これで、終わりです!」
レイシェルさんはまるで弓を引くかのように剣を構えていた。
(ッ!)
痛みに耐えながら私は全力で体を投げ出す様に左に飛び、遅れて一秒に満たない時間の間に、私が背を撃ち、預けていた木からビシッとまるで弾丸がめり込んだような音がした。しかしそれを確認する前にどうにか立ち上がって見てみると、木のちょうど私の心臓があった場所に円状の穴が開いていた。
さっきの音の正体は、木に穴を開けた音だったのだ。そして視線を左に向けると、まるで剣を槍の様に突き出し、そのまま動きを止めているレイシェルさんの姿だった。
「初見の人で私の空穿を避けたのは、貴女が初めてよ。リリィ」
「はぁっ、はぁっ…くう、が?」
そんな事を私は気にしている余裕は無く、背筋に冷たいものを感じ、咄嗟に動いたせいでまともに空気を取り込めていなかったことを思い出したかのように体が酸素を求めて、それと同時に私の中から恐怖が沸き上がった。
もし実戦だったらという湧き上がってきた恐怖で、如何に死なないと分かっていたとしても、抑える事が出来なかった。それでも体を鍛えた事で心も鍛えられていたのだろう、恐怖で心が折れる事は無く、勝つために、相手を観察して、勝利への思考を止めるという諦める事だけはしなかった。
(さっきの、木に穴を開けた技、クウガって一体‥?)
どうにか恐怖心が体を動かせる程度に恐怖心を抑えながら立ち上がるなか、私はそんな事を考えていた。
感覚的にはあまり見ていなかったので良く分からないが、何となく剣を突き出している事と木に穴が開いている事からもしかしたら剣で何かを撃ちだして木に穴を開けたのかもしれないと予想、推測は出来たけれど、それ以上の情報がないのでそれ以上の事は困難だった。
(取り敢えず、剣を突くような動作が見えた時は要注意かな)
そう言い聞かせながら吹き飛ばされてなお手放していなかった剣【クレール・フィーユ】を構えた。それを見てレイシェルさんの顔は真剣さが増していた。
「避けたのであれば、私の全霊を以て貴女を倒しましょう」
「これ以上は、本当に勘弁してほしいです!」
思わず、心からの本音が出てしまったけど、レイシェルさんにとっては自分の必殺といえる攻撃を避けられたことで、明らかに攻撃と早さに容赦がなくなり、いよいよもって私が「反射」を成功させる確率が格段に低くなってしまった。けれど、それでも私は致命傷の攻撃だけをどうにか防ぎながらレイシェルさんの霞む程に早い動きを観察ていく。それでも意識を総動員して尚、コマ落ちした映画みたいに動いている動きを観察し、また今までの動きを思い出しながら隙を探し、
(あ)
そして私は、レイシェルさん自身も気が付いていないであろう隙を見つける事が出来た。
「はっ!」
「くっ!」
それでもそれを見つけれて無意識に気が緩んでしまったのか、生まれた隙を突くようにして、横に薙ぎ払ったレイシェルさんの剣をかろうじて受けることは出来たけれど、さすがに流すことは出来ずに、私は後ろに吹き飛ばされてしまった。
そして作られたのは、先ほどと似た状況で、レイシェルさんは先ほどと同じく必殺の一撃を放つために弓を引くようにして剣を構え、
「今度こそ、これで終わりです!」
一息に剣を突き出してきた。恐らく、私がさっき避けることができたのは偶然と思ってのことだろう。けどそれは、私が望んでいた動きだった。
「いえ、終わるのは。貴女です!」
体勢を整えた私は、剣を構えたまま「反射」をする為にまず上半身の力を抜き自然体となる。
推測から出した私の答えは、恐らくあのクウガという技は剣先へ全てを乗せて放つ一点集中の打突で、それによって風を弾丸の様に押し出す技じゃないかと私は予想していた。
そして、予想通りの一点集中であれば、その攻撃を受け切ることが出来れば、その攻撃を「反射」する事が可能だと考えた。もちろん、失敗をすれば私の残り少ない魔力は削り切られて強制的に転移させられるから、ちょっとした賭け、ギャンブルに近かった。まあそれを言えば「反射」も成功すればリターンも大きいけど、失敗した時のリスクも大きいと今更ながらに改めて思う私の「反射」だけど、それは確かな私の武器だった。
そしてレイシェルさんの腕が僅かにブレる程の早さで剣を突き出す。
(今!)
そのタイミングで私は敢えて力を抜かず、貯めていた力を解放し前へと、レイシェルさんとの距離を詰める。そして私が三歩目の足が地面に付いた時、眼に見えない空気の塊が目の前に迫っている事を感覚で理解した瞬間、手にしていた剣をその圧縮され、押し出された空気に剣を斜め上に切り上げる様にして当てると同時に空気に含まれていた力を剣伝いから体に取り込む。
(ぐ、ぐうぅぅ!)
例えるなら、私のなかで激流が暴れまわっているような激痛を感じながらも、私はその力を全て体の内に留め、流れを作り循環させていく。
内で循環する事で暴れまわり体を傷つけていた波(力)を自分の力へと変換しする。そして変換した力の一部を足へと流し、レイシェルさんとの残りの距離を詰める。そして切り上げたままで止めていた刃を返し、循環させた力と私の力全て籠めて振り下ろす。
「はあああぁぁっ!」
「くっ!」
レイシェルさんは何と剣を間に挟もうとしていたけれど間に合わず、そのまま私の剣がレイシェルさんを切り裂いた。そして切り裂いた瞬間、まるで嵐のような烈風が巻き起こり、それが改めてどれ程の威力の技だったかを私に教えてきた。
「…見事、です。まさか私の空穿を受けて、それを完璧に、私に返してくるとは。私もまだまだですね」
「いえ、循環に失敗して自身を傷いてしまいましたし、何より完璧に返せていません。ですから、おあいこです」
「ふふ、分かりました。敗者は勝者の意に従いましょう」
私がそう返する、レイシェルさんは悔しそうで、それでいながら何処か満足気な表情を浮かべながら光に呑まれて行く。
「また、いずれ手合わせを」
「はい、必ず」
そうして、再戦の約束を交わし、レイシェルさんは光に飲み込まれて消えていき、それを確認した私の意識は急激に暗闇へと飲み込まれていく最中、良く知っている魔力が近づいて来るのを感じ取り、いよいよ意識が途切れる瞬間、二つの膨大な魔力を感じ取ったのを最後に、私は意識を手放したのだった。
そして、次に私が気が付いた時には結界の外の治療用テントの中で、傍には義兄さん達が心配そうにしてくれて、大丈夫である事が分かり、皆安堵していたのがとても印象的だった。
そしてその後の発表で私、いえ、私達全員が同じクラスであるという事、その中に私が戦ったレイシェルさんの名前もあった事が私はとても嬉しく思ったのだった。
次回の投稿は、二週間ほどで出来ればと思っています。次はシルバーとアルザーネの戦いを描いた後、いよいよ物語が進む、はずです(確信がない…)
そんなこの作品ですが、少しでも楽しんでもらえると幸いです。また誤字脱字の報告、評価、感想などいただけると幸いです。ながくなりました、それでは、また次話で。




