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第七話  「語られる出生」

二〇二一年、三月二十四日に改稿しました。

 食堂を出た俺は今、母さんの執務室の前に来て呼吸を整えていた。


(…さて。一体、何の話なんだろうな)


 最後にもう一度深呼吸をしてドアをノックすると、部屋からどうぞ、と母さんの声が聞こえ、俺はドアを開け執務室へと入ると。


「ごめんなさいね。少しだけ待ってね」


「う、うん…」


 そこには伯爵としての領地の管理や報告を処理する母さんの姿があり。その処理速度は書類の山を驚く速さで消し去ってしまい。


「ふう。ごめんなさい、待たせてしまったわね」


「だ、大丈夫、そんなに待ってなかったから…。お疲れ様」


「ふふ、ありがとう」


 実際、待っていた時間は五分ほど。だがその間に母さんが捌いた書類の数は百枚はありそうなものを捌き切っていた。


(‥‥すげぇ)


 自分は到底できない事をやり終えた母さんにそんなことを思っていると、母さんは椅子から立ち上がる。


「それじゃあシュメル、お茶をお願いね?」


「かしこまりました」


 シュメルさんは母さんの言葉に答えるとそのまま執務室から出ていき、それを見送っているといつの間にか母さんが傍に居て、俺を見ていた。


「シン‥‥、大きくなったわね」


「母さん?」


 そっと俺を抱きしめる母さんに少し困惑しながらも、俺も母さんの体を抱きしめる。

 そして、この時改めて自分は成長している事を自覚した。体つきもそうだが、この四年の間に身長はかなり伸びて、今の身長は百四十後半ほどで。母さんよりはまだ低いが昔ほど見上げるほどの身長差はなくなりつつあった。


「うふふ、ごめんなさいね。つい息子の成長が嬉しくなったのよ。じゃあ、シュメルが戻ってくるまでソファーに座って話をしながら待ちましょう」


 そう言いつつ抱擁を解いた母さんはソファーの前に移動し。俺も母さんに続くように母さんの向かいのソファーへ移動し、座る。


「それで、今日の鍛錬もいつもの所に行ったの?」


「うん。でも今日は珍しく岩獅子王ラーガに遭遇してね…‥」 


「まあ!岩獅子王ラーガにっ!?」


 俺の話を母さんは眼を輝かせながらその後の事を話し終えたタイミングでシュメルさんが戻ってきて、俺と母さんの分のお茶を手早く置くとそのまま部屋を出た。


「冷めてしまう前に飲みましょう?」


「そうだね」


 話をしたことで多少喉が乾いてもいたので。俺も母さんに続いてシュメルさんが淹れてくれたお茶を一口飲むと、茶葉の香りが鼻を抜けていきながらもスッキリしていて。


「美味しい!」


「ふふ、そうでしょう!」


「母さんこのお茶?」


 味としては甘みがあるが、後味はその甘みが程よく残りながらもスッキリとした味わいで。この世界に来て始めた飲んだお茶の味だった。


「これはミシェスというハーブを少し炙ることで仄かな甘みとスッキリとした後味になるお茶でね。私が大好きなお茶なの。けれど、炙り具合が難しくて、ここまで味と香りを引き出せるのはこの屋敷でシュメルだけなのよ」


 シュメルさんを褒められて母さんは自分の事のように嬉しそうに笑いながらお茶を口にして。それから少しの間、穏やかなお茶を飲む時間が過ぎて、母さんがカップを受け皿へと戻す。


「さて、お茶を楽しんだ所で。本題に移りましょうか」


「あ、そうだった!」


 お茶の美味しさのあまり忘れていたが、俺が執務室に呼ばれた要件。母さんからの大切な話があったことを今更のように思い出した。


「それで母さん、俺に話したい大切な話って、なに?」


 俺の真剣な空気に母さんの雰囲気も真剣なモノへと変わった。


「今から話すのは、貴方に伝えるようにあの人からの伝言よ」


「…伝言?」


「ええ、とても大切な伝言」


 そういう母さんの目は、この場所ではない何処か遠くの何かを見るような顔で。そんな表情のまま口を開く。


「この伝言は、私の眼で伝えても大丈夫と判断した時に伝えるように言われていたの。そして、貴方はもう十歳になる。だから今日、伝えようと思ったの。あの人、貴方の父親の伝言を」


「‥‥父さんから」


 父さん。俺がこの世界に生まれてから一度も見たことのない父親である人物。そんな人物からの俺への伝言とは一体何なのかが気になり、母さんの言葉を待った。


「まず最初に、あの人はこの国の人間じゃないの」


「この国の人じゃ、ない?」


「ええ。気が付いているかもしれないけど、貴方のその髪の色は私の色もあるけど、殆どがあの人の色なの」


 俺が転生したこの世界には幾つかの大陸と国が存在する。そして、この世界で黒髪の人はまず見たことが無いとメイド達に聞いた際は言っていたので、故に今いるこの大陸とは別の地からの旅のものかもしれないと思っていたが、それは当たっているようだった。


「そして、出会った時。後から教えてもらったけど、あの人は私も見たことが無い服、ワフクを着ていたの」


「…わふく?」


 恐らく、黒髪という事から可能性として上がるのは日本で今でも成人式などで着られる和服が最初に頭に浮かんだ。


「あの人はこのグランブルム大陸より遥か東に島国。そこの生まれだと言っていたわ」


「遥か東…島国」


 遥か東にある島国。それを聞いて浮かぶのは日本だが、俺としては異世界に日本が存在するという事は限りなくゼロだと現状思っていた。もちろん、可能性としてあり得る事も否定は出来ないが。


(この世界にも、日本のような文化を持つ島国があるのか?)


 そう思いながらも、母さんの言葉に耳を傾ける。



「あの人が何故この大陸、グランブルム大陸に来たか。それは、ある目的のために旅をしていたの」


「…ある目的?」


「ええ。と言っても、あの人は最後までそれが何なのかは教えてくれなかったけどね」


 最後まで教えてもらえなかった。その事に、母さんは少し不服そうな顔をしていたので、こんな時でしか聞けない事を聞いてみることにした。


「そうなんだ…。じゃあ、その、母さんと父さんはどうやって出会ったの?」


「…‥‥気になる?」


 先ほどの不服そうな表情は何処へやら。一瞬で恥ずかし気に髪を弄りだした母さんを見て、興味本位で聞いただった俺も気になった。


「うん、気になる」


「…じゃあ、教えてあげましょう」


 聞いてくれると分かった母さんは嬉しそうに笑いながら話し始めた。


「私とあの人が会ったのは、今日のような晴れてとても暖かい日の事だった。それでその時の私は、何をしていたと思う?」


「え?‥‥貴族のご令嬢?」


「ううん、外れよ」


 何となく、今の雰囲気からしてそんな感じで父さんに会ったのかなと思い答えると、母さんは面白そうに笑った後、答えを教えてくれた。


「その当時の私は次期当主になる為に、強くなるために私は家出をしていてね。路銀を稼ぐために冒険者をしていたのよ」


「母さんが‥‥冒険者ぁぁっ!?」


 予想外の答えに俺の驚き様を見て、母さんは面白おかしそうに笑う。


「ええ。意外だったでしょ?」


「う、うん」


 母さんの言葉に、俺は素直に頷くことしか出来なくて。

 そもそも、この世界の冒険者は冒険者ギルドへと登録することで様々な依頼を受領することが出来る。そして、その中には魔物の討伐や採取、商隊の護衛などもあるいわば傭兵と同時に何でも屋という職業で。

 正直、伯爵の子女である母さんが冒険者をしていたとは流石に繋がりが無さすぎで予想も出来なかった。


「実は、この家では当主になる為には、まずは実力を身に着けるって言うのあってね。まあ、それが無くても自由な冒険者に憧れてたって言うのもあったけどね?」


「あ、そういう事」


 つまりは、家の事が無くても冒険者をしていた可能性は高いという事で。


(母さん、今は落ち着いているけど結構やんちゃだったのかな?)


 と思わずそう思ってしまった。


「まあ、それで家を出て冒険者として活動していると、いつの間にかギルドから【煉獄の剣姫】の二つ名を与えられたのよ?」


「【二つ名】って、金以上のランクで、ギルドから実力と功績を認められた人に与えられて名乗ることが出来るものだよね?」


「ええ。私は主に火魔法と剣を使ってたから【煉獄の剣姫】って【二つ名】が付いたんでしょうけどね」


 そんな自身の若気の至りを息子に話すのは母さんも自慢出来る事と同時に、恥ずかしかったようでその顔は心なしか赤くなっており、少し可愛いと思ったのは内緒だ。


「…凄いんだね、母さん」


「ありがとう。でも、あの時はそれがあの時は裏目に出てしまった」


 素直な賞賛を送ると、母さんは面映ゆい様子だっがが、その表情は少し後悔の混じたものへと変わった。


「…どういう事?」


「有名になるという事は、自身の実力の喧伝になると同時に。敵を作ってしまうと同時に対策をされてしまう事にもなるのよ」


「‥‥そうだね」


 母さんの言いたいことはよく分かった。確かに、地球でも現実に置いても、そしてゲームなどに置いても有名になればその僅かな動作などの情報から対策を講じられることはザラで。

 そしてそれがその時、母さんに対して行われたのだと容易に察することは出来て、母さんの話の続きを邪魔をしないように俺は黙る。


「当時、【二つ名】をもらった私はより精力的に依頼をこなしていてね。その日は私の他に五人の冒険者が商隊の護衛の依頼を受けたの。一日目は何もなく終わったんだけど、翌日、斥候に出ていた冒険者からの盗賊の待ち伏せている情報を得たの」


 一旦、そこで話を区切るとカップを手に取ると少し揺らした後、そっと口を付けた。


「下手に戦えば被害が出る。そう判断した私は依頼主に交渉して進路の変更をお願いして、それは受け入れられて。私たちは迂回路を進んだ、そこはけどそれこそが罠だった」


「もしかして‥‥内通者?」


「あら、よくわかったわね」


 母さんは俺を見て褒めてくれたが、俺としては冒険者の中に内通者がいる中でよく無事だったなと思わず感心していたりする。


「そう。そして盗賊たちが待ち構える道へと進んでしまった。そして奇襲されて乱戦になった」


 その時の事を思い出しているかのように、母さんは悲し気に残っていたお茶を見た後カップへと戻す。


「盗賊の数はおよそ五十。対して内通者によって体調が良くなかった者たちもいる中での戦いでは、数も状態も圧倒的に私たちが不利だった。とはいえ、依頼主と荷台を逃がすために私も必死に戦ったその中で2.30人ほど倒して、その中で最後まで残っていた冒険者は私だけだったわ」


 魔力だけじゃなく、剣を上げることも出来ないほどの乱戦というのも凄かったが、さらりと2.30人も倒したと言った母さんが信じられなかった。


「けど、魔力も枯渇して剣も上げられないほどに満身創痍でね。辱められるくらいならって死ぬことを考えていた時に、まるで風のように自然にして忽然と私の前に現れたのよ」


 それは、絶望的な状況下で突然現れた謎の男。自殺を考えていた母さんからすれば僅かな可能性にも賭けたい心境だったのかもしれなかった。


「何者かを尋ねるとあの人は私を見て小さく笑った後「お前の味方さ」って言うとそのまま盗賊たちに「お前らの相手は片手だけで十分だ。掛かってこい」って挑発を掛けてね。あの時は」


 その時のことを思い出したのか、母さんは面白そうに笑う。一方で、結果の予想は出来ながらもその答えを求めて俺は母さんに問う。


「それで、盗賊たちは‥?」


「全員、あの人に一撃で倒されたわ。あっと言う間にね」


 予想通りというべき結果。だが母さんが大多数を倒したとはいえ残っていた首領を含めた二十人ほどをあっと言う間にというのは、かなりの実力者である事が伺えた。


「それが終わったかと思うと「少し待ってろ」って言うといきなり姿が消えてね。流石に私も驚いたわ。それで戻ってきたと思えば近くにあった盗賊たちの巣窟を潰してきたって言ってね。その時も驚いたけど、ギルドに言われた通りの場所を教えると本当に壊滅してで二度驚かされたわ、いえ、三度ね」


「え、三度って…いきなり姿を消したのと盗賊の巣窟を潰した以外にもあるの?」


「ええ。特別驚かされた事がね。何だかわかる?」


「え~‥‥。手伝ったから報酬をくれ。もしくは何かを奢ってくれとか?」


「いいえ、もっと私にとっても言われたら驚く事しか出来ないような事よ」


「え~‥‥分からない」


 流石に、言われて驚くことしか出来ないような事が何かが全く予想できなかったので、俺は素直に音を上げると母さんもそれはしょうがないと苦笑交じりの笑みを浮かべて、正解を教えてくれた。


「正解は口説かれた、いえ、告白された。が正解かな?」


「はい?」


 さしたる俺も、出会っていきなり告白なんぞ聞いた事もなく。でも、そんな俺の反応を前に母さんは笑顔で笑うだけで。それが、いや俺が生まれている時点でそれが事実なのだと理解した。


「その時の私も貴方と同じ反応をしたわ。まさか口説かれるじゃなくて、いきなり告白なんだもの。そんなの、後にも先にもあの人だけよ」


「いや、それはそうじゃないかな…」


 出会っていきなり付き合ってくれと言える猛者は普通はいないだろと。しかし、既にその成功例の実例があるので、これ以上深く考えては駄目だと頭を切り替えることにした。


「えっと‥‥母さん。父さんからの言伝って?」


「そうね。それは本題だったわ」


 恥ずかしそうに手で顔を少しのあいだ仰いだ後、母さんの表情が切り替わった。


「それじゃあ、あの人からの言伝を伝えるわ」


 緊張で高鳴る心臓の音が嫌に大きく聞こえる中で、母さんが口を開く。


「この世界の伝説と謳われる「永遠なる(エターナル・レイ)星龍(ドラゴン)」と会え。そんで、そいつと仲良くなって、仲間を作ってこの世界の敵を倒せ。だって」


「‥‥え?」


「それともう一つ、私の夫で、貴方の父親の名前だけど。その名はスサノオノ・ミコトです」


「…‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥え?」


 先ほどの「永遠なる(エターナル・レイ)星龍(ドラゴン)」に会えの時以上の情報に頭の処理が限界突破した俺は母さんが他にも何か言っているような気がしながらもそんな余裕はなく。


(え、えええええええぇぇぇぇぇっ!!!??)


 齎された膨大な情報。その中にあったあまりにも有名すぎる名前を前に俺の頭は尚も混乱し、それらを全て消化して処理できたのは一週間が経ったときで。

 しかしその時には既に運命の歯車は、動き始めていた。



 グランブルム大陸の最高峰。通称【霊峰】と呼ばれている正式名称はカエルム山脈。

 その雄大さから空を支えるように見えるほどに大きな山の洞窟にてそれは目を覚ました。

 開かれた瞼の下にあるは暗闇の中でも存在感のある金色の瞳と赤い眼。そして開かれた瞳はまるでここよりはるか遠くを見通すかのように暗闇の中で輝き。

 それは再び瞼を閉じる。それはまるでまだ時ではないとばかりに。それは再び眠りに就いた。次に目を覚ます時がその時だというかのように。

 運命の出会いは、すぐそこまで迫っていた。

申し訳ありませんでした。Wi-Fiを切られて投稿が出来ませんでした。

明日、というか今日も修正、加筆をして投稿できるように頑張ります。

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