第五十三話 「決戦前」
ふう、なかなか、思い通りに書けず、内容もまとまらなかったけど‥‥どうにか‥…投稿
「いよいよ、今夜か……」
沈み行く太陽を見ながら俺はそう呟いた。それはこれから起きる戦いに対する何とも言えない思いが混じっていた。それは昨日の夜レティスの口から明かされた内容が関係していた。そんな中、近づいて来る一人の気配があった。
「……それで、覚悟は出来たのか、レティス?」
振り返るとそこに居たのはレティスで、その髪型は出会った時と同じ髪型で金色の髪を片側で結んだものだった。
「うん。私は妹を助けたい。でもそれには貴族たちの思惑通りに、私は死ななければいけない。でも、私は自分の命を捨てるような事もあいつ等の思惑通りにはいかない。妹の命を助けて、私も死なない」
その表情は覚悟が決めた表情だったが、それを聞いて俺は念のためにと口を開き尋ねた。
「それは、かなり難しい事だという事を理解して言っているんだな?恐らく今回の戦いの最中には【教会】が何かしらの介入をしてくる可能性があるぞ?」
今のニクス、いやアルテシアに手には【教会】から与えられた勝利と破滅の呪剣と名付けられた剣を持っている。それは【教会】とつながりがあると同時に、何かしらの介入の可能性があったからだ。
「それは、貴方が対処してくれると信じているから。それに、シンもメイドがいなくなっては困るでしょ?」
だが俺からの問いに対するレティスは何処か年上小悪魔のような声音と表情で、暗に俺を信じていると言って来て、俺は思わず気恥ずかしくなり頭を掻いたが、レティスは言葉で言ってほしいのか、俺を見て来ていた。
「‥‥まあ、確かに助けた命を無駄にして死なれるのは御免だな。それにしても本当にいいのか?」
「アルテシア、妹の相手は、私がする」
それは、昨日の夜、レティスから命を狙っているアルテシアと言うのは特異な魔法によって姿を変えた自分の腹違いの妹であるという告白を受けたからだった。元々後から聞いらたら、あのレティスは自分の命がそれほど長くないと思っていたので死んでも思っており、それ故に俺を殺そうとした時も何処か儚げな印象を受けたのだった。だが今その儚げな印象は無い。あるのは生きようとする強い意志の籠った眼だった。そして妹との戦いと言うのはレティスに精神的な負担をもたらす可能性があるので今日一日何度か俺がアルテシアの相手をすると言っていたのだが、レティスの眼に譲るつもりはないと悟った。
「分かった。なら約束だ。絶対に死なないでくれ」
「うん、分かってる」
そう言って俺が差し出した拳にレティスは軽くぶつけた。そもそもここに至るまでには、時間が昨日の四変六陣を終えた辺りにまで遡る‥‥‥‥‥
俺が【陰】の力が暴走し、レティスの生命力を喰らい具現化した黒いドラゴンとの戦いを終えた後、レティスに聞いた事が関係していたのだった。その中、レティスから語られた内容だった。
「お前の命を狙っているニクスが、腹違いの妹、だと?」
俺は思わずレティスに聞き返してしまった。いや内容は理解できていたのだが、それでも思わず咄嗟に聞き返してしまい、俺はしまったと思ったが、レティスは特に気にしていないのか、それともそれは想定できていたのか頷き、尋ねるように口を開いた。
「シンさん、あの子は自分の名前をこう名乗ったのではないですか、ニクス・シャウアテン、っと」
「ああ、だがどうして分かったんだ?」
俺はレティスにニクスと言う名前を言った覚えはなかったのだが、だが俺の言葉を聞いて寧ろレティスは確信を得たようだった。
「ニクスと言うのは、私が妹に聞かせていた、ある物語に登場する全てを失った悲運の少女の名前なんです。その少女は大切なもの守ろうとして、結果全てを失う、悲しい物語。妹は自分はそうならないと言い聞かせる為に、そう名乗ったのかもしれない。」
「そうなのか‥‥‥それで、レティスはどうして妹が自分の命を狙ていると思う?そもそもどうやって性別と声を偽ったんだ?」
物語に登場するその悲運の少女と言う言葉にも少し興味が惹かれたが、それ以上にどうやって性別などを偽ったのかが気になり俺はレティスに尋ねた。
「それは恐らく、彼女の特異な魔法である操影魔法によるものです」
「操影魔法?」
俺は気になっていた事をレティスに尋ねるとそれに対しての答えは既に用意していたのかすぐに答えてくれた。
「操影魔法はアルテシアだけが使える魔法で、その力は自らのみならず、全ての影を自在に操る事です」
「影を、操る?」
「はい、レティスの魔法は、今この場に存在する影を自在に操る事に事が出来る魔法なの」
全ての影を自在に操る、そんな言葉をレティスから聞いた俺は上手に反応を返す事ができなかった。だが考えてみればありうる力かも知れなかった。何せ吸血鬼はある意味で影と関係が深い。ある伝承には自ら、または建物の影に潜り込むんで移動するなどの力を持つ吸血鬼が現れても不思議では無かった。そう言う俺自身も親が風に関する神に由来するのか、風を通して周囲の状況を把握できる力を持っている。それが神という事に関わらず起こり得る可能性も、特にエルの血を取り込んだ種族であるのならあり得なくない事だった。だがそこで俺はある疑問が浮かんだ。それはその魔法がレティスの妹であるアルテシアだけなのかという事だった。
「その力は、妹であるアルテシアだけなのか?」
「はい、他の者たちに、そのような力はありません。恐らく、ドラゴンの力を人一倍に受け継いだアルテシアだからこそだなのだと思うの。妹の母親は始祖の血を継ぐ分家出である事も、影響しているのかもしれない」
レティスのその言葉を聞き俺はその可能性は十分にありと思った。吸血鬼の初代はエルから血を与えられ、取り込む事によって黒灰病を克服し、不老不死を手にし、エルはその強すぎる力ゆえに体を蝕まれたが、初代の血を色濃く受け継いだのであれば、力が何かしらの魔法として表出する可能性は、俺の事もあり十分にあり得ると思わせるモノだった。だがそれにしても‥…
(まさか、影を操る類の力とはな‥…)
影は吸血鬼を除けば、陽の光の下で生きる人間、生物、植物であるならば誰もが持つものだ。それを操れるというのはかなりのアドバンテージになる。
「エル、ドラゴンの血による影響で特異な魔法が生まれる可能性はあるか?」
「あり得なくはない。ドラゴンの血が肉体や魔力に干渉して肉体に影響を及ぼすこともあれば、魔法に影響して特異な魔法が生まれる可能性は十分ある」
エルは肯定をし、俺は思わず頭を抱えたくなった。影を操れるという事は、技量にもよるが相手を拘束するのも容易であるという事に繋がる可能性もある。もちろん俺の権能とも言える『風を視る者』は風で、現在は動きなどを察知する程度だが、それでも相手の動きをある程度予測できる、実戦ではかなり役立つ力だった。それが影となると‥‥
「厄介だな。影ってのは風と同じくこの世に存在する何にでも付き纏うものだ」
「うん。かなり厄介」
「でも‥…」
俺の言葉にエルは頷き、俺はどうしたのもかと思っている時、レティスが言った言葉に思わずレティスを見る。そしてレティスは視線を逸らすことは無く、口を開いた。
「でも、操影魔法にも、弱点が存在するんです」
「本当なのか‥‥?」
俺が本当なのかを尋ねるため問いを返すとレティスは迷いなく頷いた。
「はい、アルテシアの操影魔法は、同族、吸血鬼に対して、またはその血を体内に持つ者に対しては効果が無いんです」
「それはどういう事だ?」
確かに、吸血鬼は影を持たない。だが建物や植物に関しては必ずと言って良いほどに影を持っている。だがレティスが言うには、同じ吸血鬼に対してのみ操影魔法による攻撃は出来ない言った。
「恐らく、妹が扱う操影魔法は影を用いて様々な事が出来て、それはもちろん姿形などを全てを思いのままに変える事も出来るの。でもその中で唯一、同じドラゴンの血を宿す者はその力を相殺している‥‥と思う」
「思うって事は、確信はないのか」
「うん……でも、可能性は高いと思う」
レティスは相殺できると感じる何かがあるのだろう。だがそれを知らない俺から知れば信じていいものなのか、良く分からない。
「可能性は高いが確信はないか‥…一種の賭けだな」
そう、それは一種の賭けでもある。可能性は高かったとしても、そうでなければ、レティスは魔法、いや異能に近い力を相殺できなければ、予想が当たれば勝ちだが、外れればレティスを殺されるリスクの高いものだった。だか、もし【教会】が出てくる可能性がある。その場合はそちらに手一杯になり、間違ってもエルと戦わせるわけにはいかない。であるのであれば……
(迷っているよりは、決めた方がいいな)
俺はレティスに視線を向けると、レティスは真剣な表情で、やらせてほしいとばかりに俺の事を見ていた。なら俺が出来るのはこれだけだ。
「わかった。お前の妹の事だ。姉であるお前がどうにかしてやれ」
「‥‥‥ありがとう、シン」
「お礼は生きて帰ってからにしてくれ。それより妹の名前は何て言うんだ?」
俺がずっと気になっていたのはレティスの妹のフルネームだった。
「妹の名前はアルテシア・フォン・リーズベルト。私とは違い、カーミラ家の血を濃く継ぐ分家、リーズベルト家の生まれです」
レティスの言葉に俺は頷ける所があった。まず一つはレティスに匹敵するほどの膨大な魔力。そして、妹と言われ、思い返すとなんとなく、雰囲気が似ていると感じたからだった。だがそれでも尚更何故、腹違いとはいえ姉であるレティスの命を狙うのかが分からない。思い当たるものがなかった俺はレティスに尋ねて見る事にした。
「レティスは、妹が自分の命と力を取ろうとしている事に、何か思い当たる物はないか?」
レティスは、少し考える素振りを見せた後、何か思い当たるものがあったのか口を開いた。、
「恐らくですけど、あの子は母親を貴族たちによって人質に取られていると思うんです」
「人質?」
俺の疑問に対してレティスは頷いた。レティスが言うにはアルテシアが自分の命を狙っているその背後には、自分が王となる事を良く思っていなかった貴族たちによるものでないかという事だった。そもそもアルテシアの母親は、王家の血を引いた分家筋の家であるが病弱で、良く見舞いに来ていてのがレティスの、そしてアルテシアの父親だった。そしてその関係で肉体の関係を持ち、結果、その間に生まれたのがアルテシアだったらしい。
異なる母親という事はあっても姉妹の仲も母親同士の中はそれで悪くはなく、寧ろごく普通で仲が良い姉妹、家族だったようだった。それはレティスが王となって以降も変わらなかったようだが、ある時、レティスが王となった日を境にアルテシアはレティスを避けるようになったらしい。
「今考えると、あの頃の貴族たちが大人しかったんです‥‥」
「なるほど、その間影で今回のようなことを計画していても不思議じゃないな」
「っはい、それに彼女が私を殺しに来る理由はそれ位しかないと思うんです。彼女は、優しいですから」
「なるほど‥…さて、取り敢えず、明日はいよいよ戦いの日だからな。そろそろ寝るんだが‥…エル、もしかしてレティスも一緒にか?」
「そうだよ?」
それは先ほどから頭の隅で思っていた事だったのだが、一向にレティスが、そしてエルが出る様子も無かったので思わず訪ねたのだが、その返答に対してエルは何かおかしいかなと首を傾げ、それを聞いたレティスは思わず顔を赤くしてながらも拒否はしなかった。それを見て俺は確信した。ああ、これは覆られないな、と。
「え、ええと、お邪魔します…」
「‥‥‥‥‥…取り敢えず、寝るか」
俺は内心で諦めと、同時に何処かワクワク、いやドキドキしている自分に内心で苦笑いをしながら、レティスとエルが待つベットへと向かったのだった。
結論から言えば、二人が一緒にいる事で寝付くまでは大変だったが、それえでも知らず知らずに安心できたのか割とよく眠れたのだった。
今月の投稿は、これが最後です。次の投稿は少々時間が空くと思います。その間にもう一つの方の投稿を始めようかとも思っています。そろそろこの第二章の終わりが見え始めて来ていています。次回はいよいよ戦闘、と言うか姉妹同士の戦いですね‥…(内容を考えないと‥…)それと第三章の学院編を考えなければ‥‥‥
それでも、どうにかこの章をまずは完遂させようと思います。それでは、楽しんでいただけますと嬉しいです。それではまた。
10月7日現在ですが、上手く話がまとまらず、現在難航しています。次話を楽しみにされている方、本当に申し訳ありません。現在色々と書き出しているのですがなかなかこれといった話が書けていません、次話の投稿がもう少し遅れてしまうかもしれません。ですがどうにか目途を立てたいので、どうにか一週間以内にどうにか納得のいくものが出来るまで書き出し、良いものを投稿したいと思っています。本当に申し訳ありません。




