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第四十九話 「前日の夜」

ふう、どうにか、出来たので、投稿‥‥


風呂場で盛大に血を流し、そして熱気に逆上せた俺は現在、エル達によって一階のリビングにあるソファーで寝かされ、額と首に濡れた布で冷やして体温を下げている最中だった。


「あー。血が足りない……」


「大丈夫?」


そんな俺の頭側から声をかけて来たのはソファに座るエルだった。何故エルが隣に居るのか。それはオレが再度鼻血が出た時、即座に回復魔法を掛けて止血をするためだった。

そして、エルの大丈夫には鼻血は止まったか、体は大丈夫かと言う二つの言葉の意味が込められていた。もちろんその言葉の意味を理解した俺は、頷く。


「ああ、ありがとうな。お陰で鼻血も止まったようだ。ただ、まだ頭の方は血が足りてないからフラフラするな……」


それに、心なしか体の方もフワフワした感覚がまだ続いていた。


「回復魔法は傷を癒すだけで、血までは補えない」


そう、幾ら怪我を癒す回復魔法であっても失われた血はどうしようもない。その部分は現代医学と同じく自分でどうにかするしかないのだ。


「まあ、そうだな。流石に幾ら回復魔法とは言え、万能じゃないからな。」


と言葉を返しながら力の入りづらい体をどうにか起こした俺は自力でそのままソファへと座り直したが、


「とととっ」


まだ血が足りていないせいだろう、体を少しばかり動かしただけで軽い目眩がしたが、体をそのままソファーに預け、少し休むと襲ってきた目眩はすぐに収まった。だかそんなあまり見せない弱っている俺を見てエルは心配そうな目で俺を見てきた。


「本当に、大丈夫?」


どうやら、普段でもここまで弱っているところをエルに見せたのは何気に初めての事だったのでエルが心配するのもおかしくはなかった。


「ああ、これに関しては栄養と休息を取ることで治るからな。血も自然と戻るだろうからそこまで心配しないでも大丈夫だぞ?」


そう言いながら、心配そうに見てくるエルに俺は心配してくれてありがとうと言う思いを込めてやや力が入りづらい手でエルの頭を優しく撫でる。するとエルも安心した表情で体を預けてきた。それは静かでそして何か暖かく感じる穏やかな時間。


(あー、穏やかだな~、ってあれ?)


そこではたと俺はある事に気づいた。それはもう出会って六年にもなるがエルと二人きりと言うのはまだ数回ほどしかないと言うことだった。

普段は朝の鍛練を含め、俺とエルの二人だけではなく誰かしらが着いてきていて、本当に二人っきりということはあまりなかったのだ。と言うことはだ、


(……どうしよう、話す事がない……)


普段であればルヴィやリリィが何かしらの話題を振ってくれるのだか、その二人はリビングに居ない。リリィは自分の部屋に、ルヴィは罰と反省の為に風呂の掃除をやらせていた。

そして、イシュラはといえば、屋敷に帰った時に預けた(ジュワユース)のメンテナンスを頼んでいた。


そもそも、わりと最近に鑑て貰ったのだが、今回、ニクスの魔剣、勝利と破滅の呪剣(ティルフィング)の力である三度の願いを叶える力で、今回は俺の心臓を抉るという願いだった。それによって因果は決まった。


そもそも「因果逆転」とは先に剣が心臓を穿つという結末を先に決めつけるモノでまあ、某槍使いの槍と同じ能力で、余程の因果の強制力を超える幸運が無ければ変える事すら不可能なのだ。そこで状況を打破する為に俺はその既に決まった因果を切り裂くと言う荒業を(ジュワユース)で行ったが、その影響で刀身には刃毀れや、亀裂が所々に生じてしまっていたのだった。


「ねえ、一体何をやらかしたの?」


朝食の後、どうにかならないかと刀身の状態をイシュラに見てもらったのだが、一周回って呆れた表情を浮かべながらイシュラは聞いてきたのでせめて弁解はせねばと俺はありのままを伝えた。するとイシュラは目元をほぐした後、ハァーと深いため息を吐いた。まるでそれは予想できなかったと言っているかのようだった。


「まさか、そんな事になっていたなんてね。それに、まあ貴方が生きているし、仕方がないか」


「仕方がないのか?」


てっきり俺は怒られるとばかり思っていたので拍子抜けしてしまった。


「ええ、(ジュワユース)がこの程度の損傷で済んだのは、一重に強度を重視して作ったからよ。そうじゃなければ恐らく、剣は「因果を斬る」なんて常識外の事は出来なかっただろうし、そもそも振る前に折れていた可能性の方が高かったわよ」


「マジか‥‥」


イシュラの話を聞きながら俺は改めて(ジュワユース)が折れていない事、そしてあの時の全てを切り裂く剣技「千山海刃(せんざんかいじん)村正(むらまさ)」が成功したお陰《幸運》でここに立つことが出来ているのだと実感できた。


「取り敢えず剣に関してはまだ修復できそうだから数日待ちなさい。」


「‥‥修復なおせるのか?」


剣に関しての知識は少しは持っていたが、それでも特に深い知識を持っていない俺は少々心配げに尋ねたが、


修復なおせるに決まっているじゃない。‥‥いえ、私が貴方の為に作った剣だもの、絶対に修復なおすわ」


自信を持って言ったが、すぐに恥ずかしくなったのか、若干顔を赤くしながらイシュラはそのまま部屋へと戻ってしまったのだった。そしてお風呂から上がった現在は、そのまま俺が趣味で作った、小さいが道具も設備もちゃんと整備した工房で修復作業に入る前に教えてくれたのだが、損傷具合から俺が学院に行くまでには修復(なお)せるが明日までに修復すの不可能とは言われたと俺に伝えてくれと一緒に風呂に入っていたリリィからイシュラの伝言を聞いたのだった。


どうやら顔を合わせるのが恥ずかしいみたいですともリリィが教えてくれたのだった。そして、レティスはと言えば、恥ずかしさと申し訳なさで厨房に籠っているそうだ。‥…一体、何を作っているのやら。

とその時扉が開き、俺にとっては救いの人物がリビングへと入って来た。


「ふぅ~、疲れました~」


「お~、お疲れ~」


「お疲れ、ルヴィ」


俺はまだ血が戻っていなかったので手を上げるだけで、エルはルヴィへと水魔法で冷やした風をルヴィに流していた。エルが送った風で幾分か涼めたお陰か何処となく疲れた顔に生気が戻ったようだった。


「あ~、涼しいです~」


「そりゃいい事で、にしてもなんであんな事をしたんだ?」


まだ怠いのでソファーに体を沈めている体勢で申し訳ないが、エルの魔法で涼んでいたルヴィに尋ねるのは、何故レティスにあの様な事をさせたのかという事だった。


「そう言えば、ご主人様にはまだお伝えしていませんでしたね」


「俺には?という事は、エル達は最初から知っていたのか?」


「知ってた。そもそも朝ご飯を食べた後にルヴィから教えられた。因みにイシュラとリリィも知っていた。」


そう言われ、俺以外は全員知っていたという事だった。しかし、それにしてもだ、一体何故あのような事をしたのか、その理由が俺には分からなかった。


「シン、気が付いてない?」


エルとルヴィに関しては既にそれに関して知っているようだったが、俺には思い当たるものは特にない。


「何をだ?」


分からない、故に素直に聞いてたのだが、エルとルヴィはまるで仕方がないとばかりにヤレヤレと首を横に振っていた。


「‥…これは重症かも知れませんね」


「シン、もっと(女の子を)見る眼を持たないと」


俺としては何処でその仕草を覚えたのかと聞きたかったが、エルとルヴィからのどうして分からないのとばかりに少々冷たい目線を向けられ、俺が悪いのかと思ってしまい聞く事が出来なかった。その時、タイミングよくリビングへと近づいて来る足音が一つ。


「皆さん、冷たい物が出来たので食べま、どうしたんですか?」


部屋の中に入って来たのは、丁度話題の渦中にあったレティスで、その手に持っている盆に乗っている器に入っているのは、白い球体の様なモノだった。そして俺は白くて丸い、そして冷たいもので浮かぶのは一つしかない。


「もしかして、アイス、か?」


「はい」


「でも、いったい誰に作り方を教えてもらったんだ?」


そもそも、この世界にはアイスを作るための物は無く、そもそも作り方を知っているのは俺とリリィだけしか‥…


「もしかしてリリィに教えてもらったのか?」


「はい、実はリリィさんにお願いして教えてもらいながら作ったので、その、先程ご迷惑をおかけした事への謝罪の意味で作ってきたのですが‥‥」


「ああ、それなら有難く貰うよ。皆も、…て早ッ!」


いつの間にやらエルとルヴィはその手にアイスが入っている器を手に持っていた。

俺もレティスからアイスをもらうと器から微かな冷気が心地がいい。

そもそも、何故レティスがアイスの作り方を知っているのか疑問に思ったが、リリィに教えてもらいながら作ったのであれば納得だ。リリィは前世でも色々とお菓子を作っていた。恐らくアイスもその派生で作ったのだろう。それに先ほど部屋に戻るというのは嘘では無かったが、その後部屋に来たレティスに頼まれてアイスの作り方を教えたのだろう。


(あいつ、基本作るのも教えるのも得意だからな‥‥)


そう思いながら俺はスプーンでアイスを一口取るり、口の中へと運ぶ。


「こ、この味は‥…」


(ミルクの濃厚な味の後に、まるでレモンを思わせる柑橘系のさっぱりした味が来て、後味はさっぱりして、更にもう一口、最初の濃厚な味が欲しくなるッ!)


それはまるで塩辛い物を食べた後に甘い物食べたくなる様に、一口食べれば連鎖的に食べたくなる味だった。そして俺達(俺・エル・ルヴィ)ははただ無心でレティスが作ったアイスを食べ進めて行く。食べて行くと頭にキーンと来るが、納まると再び食べ進める。

そして、全部を食べるとテーブルに器を置くとレティスを見る。レティスはやや不安げな眼でこちらを見てきた。


「どうでしょうか‥‥?」


「ああ、すげえ美味かった」


俺は嘘も誇張もなく、正直に答える。いやホントに美味かったのだ。


「うん、絶品」


「本当、今度私もリリィさんに作り方を教えてもらわないとっ!」


「そ、そうですか。良かったです」


エルとルヴィも絶賛し、それを聞きレティスは安心したのかホッと息を吐いた。とそこでアイスを食べて意識が少しはっきりした俺はレティスにというよりはあの時に居た五人の内の三人、エル・ルヴィの二人に尋ねて見たいことがあった。


「それと、エル、ちょっと回復魔法を掛けてくれないか?それとルヴィ、すまんがこっちに来て肩を揉んでくれないか?」


「?いいけど」


「分かりました」


そう言うとエルはやや不思議そうに、とルヴィは当たり前にレティスの隣から俺の近くへと来てくれ、エルは隣に腰掛けて回復魔法を掛けてくれるお陰で体が仄かに温かくなり、ルヴィは後ろから肩のツボを揉み解し始めた。そしてレティスは盆と皿を戻す為にリビングから出て行った。


「ああ~、そこそこ‥‥‥っとそう言えば、あの風呂場の事なんだが、レティスにとっての切っ掛けは得れたと思うか?」


「え?」


レティスが部屋から出て少し経ってからの唐突の質問にエルとルヴィはどういう意味かと俺を見てきて、説明不足だったと、更に言葉を付け加える。


「いやな、エル達が何の意味もなくあんな事をするとは思えなくてな、何か意味があったんだろ?」


エルには回復魔法を、ルヴィには肩を揉んで貰いまがらもたまにリリィも交じって悪ふざけをするときはあるが、それは結果的に何かしらの意味を成していたのだ。まあそれでも大半が悪ふざけである部分も否定はできないが‥‥


「はい。意味はありました」


「手助けはした。けどは、後は本人の心次第」


レティスとエルは互いに頷いた。どうやら今回の風呂場での事は何かしらの、恐らくレティスに関する事でした事柄のようだった。それにしても俺個人的には美味しい思いを出来たが、それでも俺自身が慣れていないのであまり頻繁にやられるのは血が足りなくなりそうなので勘弁してほしかった。だが、


「ちゃんとした理由(わけ)があったのならいいさ。あ~、そこそこ…くぅ」


「かなり凝ってますね」


「まあ、普段から剣を振っているかけど、なかなかマッサージを出来ていないからな…」


今は先ほども確かに天国ではあったが、今は極楽だった。その時リビングの扉が開いた。


「ふう、疲れた~って何やってるの?」


リビングに入って来たのは、工房で(ジュワユース)の修復作業をしていたイシュラだった。


「ああ、さっきのでまだ調子が戻らなくてな、回復魔法とマッサージで回復を促している所だ。俺は体の調子は良くなってきたよ、ついでにイシュラもやってもらえばいいんじゃないか?仕事で肩が凝るだろ?」


「え、流石に悪いわよ」


「イシュラはそう言っているけど、どうだ?」


俺が隣のエルと後ろにいたルヴィに尋ねると二人は頷いた。


「大丈夫。それに疲れているなら尚更」


「そうです。それに先ほどの事(お風呂の件)に巻き込んだ謝罪もありますし」


「え、本当に大丈夫よ、自分でも体を解すことは出来るから、あっ」


そう言いながらリビングから脱出しようとしたイシュラの手を俺は掴んだ。それは最近体得した技一つ【空脚】、足音を消し、意識、無意識の狭間に入り込む【抜き足】に似た足技の一つだった。それ故に相手から見れば足音もなく、瞬間移動したかのように感じる技だった。

そして俺はそのまま巻き込む様にイシュラを抱きかかえると、そのままソファへと移動しイシュラを座らせる。


「ちょっと、何するのよっ!」


一方のイシュラは無理やり座らせた俺に鋭い眼で見返してきたが、俺は何とでもない様にイシュラへと言う。


「疲れて無理して体を壊してほしくないからな。じゃあ、二人とも頼んだ」


その二人(エル・ルヴィ)にイシュラの事を任せると俺はそのままリビングを出るためにドアへと向かう。


「任せて」


「分かりました」


二人の返事を背に俺はリビングを出る。その間際、


「さあ、それでは始めますよ、イシュラさん?」


「とりあえず、剥く」


「ちょ、え、止め、いやああああぁぁぁぁ。ちょ、助けて!」


「‥‥‥ごめん、無理」


何やらイシュラさんの悲鳴が聞こえてきたが、俺は巻き込まれたくないので、そのままリビングから出て行く。


「この、あっ…不届き者~!」


最後にイシュラの何処か艶の混じった声を背に俺はリビングを出たのだった。しかし、リビングを出た後、特にする事もない。


「‥…風呂に入り直すか」


リビングから微かに聞こえてくる声に気が付かないふりをしながら、俺はゆっくり入れなかった風呂に入る事にしたのだった。

今回はまあ特にこれと言ってないですね。まあ、次回の投稿も二週間以内で出来ればと思っています。

一応次の話は主人公とレティスの二人の話を出来ればと思います。その為の伏線みたいなのを回収できればと思います。‥‥レティスへの切っ掛け、気になる‥‥

内容、おかしな箇所、疑問点があればご報告お願いいたします。

そして皆様、まだまだ暑いので体調に気を付けてください。

それでは、また次回の投稿で。

また最近投稿を再開した作品があります。下のURLから見ていただけると嬉しいです。

https://ncode.syosetu.com/n4666ev/


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