第四十六話 「接触しました」
ふう、どうにか、休みになって、出来た‥‥ので投稿‥‥寝る。
ルヴィがレティスに最後の試練をさせようとしていた、その一方、俺とエルは山の中腹辺りをを登っている最中だった。
「‥…おかしいな」
俺と同じくエルも同様に先ほどから違和感を感じ取っていた。それは、
「うん、明らかに少ない、いや、少なすぎる?」
「それに、静かすぎる」
魔物が少なすぎ、また辺りが静かすぎる事だった。幾ら山で上に上る程に魔物の数が少なくなるとはいえ、ここまで静かで、なお数が少ないと何かしらの原因があるのではないかと疑問に思うのは当たり前と、その時だった。風に乗り、俺の鼻が微かなある匂いを嗅ぎつけた。
(これは‥‥)
シルバー?とエルがこちらを見てきたが、俺はエルを見る事なく、その匂いへと意識を集中し、今まで嗅いできた記憶とすり合わせていく。
その時だった、先ほどまで陽が差し込んでいた辺り一帯の天気が急激に変化していき、何処から現れたのか黒雲が陽の光を完全とは言えないが、ほぼすべてを遮った。しかし、今そのようなことを気にする余裕は俺には無かった。
(これは、土、か?それに、微かに獣臭さ、微かな音と‥‥血の匂い‥‥それと、前方から風切り音ッ)
風を切りながら飛来してきた何かを俺は反射的に「ジュワユーズ」を抜き様にそれを切り裂くことで対応した。
「エル!」
そして、それは俺だけではなくエルにも飛んで来ており俺は咄嗟に動こうとしたが、エルの全身から陽炎のように魔力が溢れ出て、エルの前に白く揺らめく炎が出現し、その熱が飛んできた血の弾丸を融解、いや蒸発させ防いでいた。
「大丈夫」
大丈夫だと分かったが、それでもと俺の念の為の確認の声にエルは返事を返した。そして同時に俺はエルが何を使い、防いだのを理解した。
「【相乗】を使ったのか」
エルが使ったのは風魔法で火魔法の威力を増大させる、魔力の操作の難易度がとてつもなく難しい超が付く高等魔法技術「相乗」だった。何故なら、そもそも二つ以上の魔法適正を持っていけない事、そして何より二つの魔法を維持し、その状態のまま片側をバランスを崩さない様に強化するのだ。それは常人であれば、一生、そして天才と呼ばれるものでも一握りしか到達しえない領域だった。
(それに、【相乗】で強化されたのは先ほどの熱波、それとエルの周りの状態から察するに‥‥白焔か)
恐らくエルが防御に用いたのは風で火を強化した、いや新たに創り出した風と火の複合魔法である「白焔」だった。そして「白焔」の威力はエルの前方、凡そ二メートルの範囲の地面が焼かれ、その全てが真っ赤になっていた。それはまるで地上に現れた太陽のように強烈な熱の余波を、そしてその威力を物語る現象だった。そして、日が隠れ、光が差し込まない薄暗い中、拍手が辺りに響いた。
「凄いな、かなりあふれる魔力(血)で強化した「血矢」をこうも簡単に防がれるとは、予想は出来ていたが、予想以上だね」
そう言いながら木の影から姿を現したのは、貴族服を身に纏った、レティスと同じ金色の髪、そしてまるで血のように輝く赤い眼、そして真っ白な肌を持った男が立っていた。俺とエルは身構える事は無かったが決して油断を見せる事は無く、寧ろ先程の自分達への攻撃を仕掛けてきた男が何故わざわざ姿を現したのかが気になっていた。
「お前が、視線の正体か」
「おや、分かるのかい?」
まさか知られているとは思っていなかったとばかりに質問をして来た男に俺は思わず笑みを浮かべた。
「ああ、少しでも禍々しい魔力を纏わせ、なおかつ、微かに血の匂いを漂わせていたからな、分かりやすかったよ」
そう、あの時の視線の人物が今相対している目の前の男だと俺は確信を持っていた。何せ、匂いと魔力を隠していなかったのだ。分からない方が難しいというモノだった。だがそれ以上に今は気になる事があった。それは、
「そんで、一体お前は何を喰らったんだ?」
「おや、彼女はあの事まで君に話したのか、‥…これは楽しめそうだ」
「どうせろくでもないものだな。こりゃ」
昨夜、レティスに教えてもらったのだが、吸血鬼は生物、人に限らず、魔力を持つ全ての生き物の血を吸う事で相手の魔力を喰らい、自分のモノに出来るという。そして、それは吸血鬼たち同士でも言える事で、血を吸われた吸血鬼は、血だけではなく、肉体を含む全てを喰われる。
これを吸血鬼たちは「魂喰い」と言われ「禁忌」だった。
さて、何故、「魂喰い」が禁忌と言われているのか、その理由もレティスから俺は教えられていた
「そもそも、吸血鬼が簡単に魔力を補給する以外に吸血をする必要がない。それは何故か、それは「魂喰い」の副作用が関係している。それは」
「魔力暴発、外部から取り入れた魔力と体内の魔力が反発し、魂を、肉体を傷つけ、融合しなければ、周囲十キロは灰燼と化す。それは代償を払って回復力に優れた吸血鬼であれ、最悪死に至る。それが膨大な力を持つ相手からだとすればなお更にね」
そう、男が言った通り、喰らった側も取り込んだ力を手に入れる前に魂が傷つき、最悪の場合死に至る可能性があるが故に「禁忌」とされているのだと、
「だが、成功すれば、爆発的に保有魔力を増やすことが出来る。そして、お前ははその賭けに勝った、けれど、まだ取り込んだ魔力が体に馴染んでいない。だから魔力が溢れ出ているのだろう?」
一体何を喰らったと俺は尋ねた。するとよく聞いてくれたとばかりに笑みを浮かべた。それはまるで無邪気な、初めて虫を捕まえた事を自慢する子供のようだった。
「ああ、この近くの山で眠っていたドラゴンを殺して血を吸って来たのさ。いや、美味しかったよ。ドラゴンの血は。あれほど甘美に感じたのは初めてだよ」
それを見ながら俺はやはりか、と目の前の男の言葉に俺は確信へと変わっていた。
この世界で最も魔力を保有する種族はかなり限られ、一日で膨大な魔力を保有できるようになる種族は限られる。それは最強種であるドラゴンであった。
「ああ、自己紹介がまだだったね。僕は二クス・シャアウテンだ。短い時間だけどよろしく」
先程の事はなんとでも無いとあっさりと自己紹介してきた目の前の男、ニクスは暗にこう言っているのだろう、ドラゴンを喰らえるほど力を持つ自分を超えているのかと、そうでなければ死ぬよ、と
「ふん、お前の問いに答える必要はないな。」
あえて俺は試してみろよ、と挑発する意味も込めてニクスの問いに傲慢に返した。するとニクスは笑みを深めながら眼を細める。
「へえ、まあいいさ、とりあえず君が死ぬ前に教えてくれないかな、君が保護した彼女の事をさっ!」
ニクスは、何の前触れもなく、俺へと距離を詰めてきた。恐らく、体内の血に宿る魔力、または今も放出され続けている余剰魔力によって肉体を強化したしたのだろう。そして、ニクスが言う俺が保護した彼女とは、おそらく、
(まあ、十中八九レティスの事だろうな)
二クスはかなりの速度で俺との距離を詰めてきた。スピードが落ちない事から超近接戦闘を、武器の間和えですらない、拳と拳が届く間合いに入ろうというのだろう。
奴は俺が剣を持っている事も、剣が触れない位置まで接近する事で剣を振れない様にする為にそれを選択したのだろう。
更にあわよくば俺を倒せれば、または実力を少しでも把握しておこうと思っていたのだろう。だが俺はそんなに甘くない。
「生憎と、お前に教える義理も、死ぬつもりもない」
「それは残念だ」
本当に残念、とばかりに笑みを浮かべながら二クスは五メートルはあった距離を僅か一歩で半分程の距離を詰めてきた。F〇Oの沖〇さんもビックリの足運びだ。だが俺に焦りはない。事前に、風を通して体の、足にそれを可能にする力が籠り始めていると察知できていたからだった。
そして近づいて来るその僅かな時間の間に俺は立っていた場所から十メートルの範囲に魔力を常人では感知できないほどの隠蔽魔法を一帯に施し辺り一帯に展開し、後ろへと飛びのいた。そのお陰か動きが少しばかりに鈍った。
ニクスからすれば俺の動きが一瞬遅くなった、反応出来ていなかったかのように映ったのだろう、その顔に笑みが浮かぶ。だがそれはあくまで次の一手の布石だ。俺は何ともない様にそのまま後ろに下がり、だがいつ作ったのか、ニクスが作り出した血の剣が微かに服を斬り裂いた。がそれだけだった。
「へえ、初見の「暴毒の喰剣」のを容易く避けるのか」
「生憎と、あれくらい避けるのは難しくはないんでね。」
何せ、こっちは常に全力のルヴィと鍛錬(手加減は死なない程度)をしている俺からすれば、全力を出していない二クスはまだまだ許容範囲内だった。それにしても、まさかあの短い時間で武器を作り出すとは、予想外だった。
(事前にレティスが血解術で武器を形成するのを見ていなければ危なかったな)
ニクスの血で作られた細剣に俺は警戒をしながら、やはり平和ボケがあるなと反省していた。いや、平和ボケは前世では良い事なんだが、この世界では、ちょっとしたゆるみで命を奪われる世界だと、強者であれ死ぬのだと改めて身に染みる思いだった。
「いいねえ。そうでなきゃ、面白みがない!」
一方、俺が回避した事に二クスはまるで獣のように深い笑みを浮かべた。それは、数年前、全力で戦ったあの女と似た、戦闘狂が浮かべた笑みと似た類だった。俺は大切な事を改めて感じさせてくれたニクスにこちらからお礼(攻撃)を送る。
「一応言っておくが、今、お前が見えている事が、全てじゃないぞ?」
「へえ、それはどういう意味だい?」
「布石は、見えない様に打っておくものだ」
不思議そうに尋ねて来るニクスに俺は答えを見せるとばかりに魔力を放出する。その起点は俺が先ほどまで立っていた場所で、その場所に残していた魔力の楔を中心に空間に干渉・操作し、魔力による風による不可視の結界、俺の領域を構築していく。
「へえ、面白そうだ」
状況を理解してか、なお、獲物を待つ猫のように舌なめずりする獣のように眼を光らせ、その場待ち構えるニクスに対し、俺は詠唱(言霊)を口にする。
「穏やかに、時に草葉を揺らし、疾る風よ、我が前にてその輝きを示し、今一時、光を阻みし黒雲を払う嵐(剣)となりて、乱れ、疾く舞えっ、【疾風劒技・乱舞】」
風に語り掛ける様に詠唱を終えると同時に形作られるは不可視の剣群。その数、凡そ三十。
「へえ、これは凄いな君は、今は君の所に逃げた彼女に感謝したい思いだよ!」
剣は魔力によって形作られている故に不可視。ニクスが眼で捉える事は不可能だ。それでも放出され、辺りに充満している魔力を感じ取る事が出来る。そして、そんなある意味で絶望的な状況なのにニクスは楽しみだと声を上げて笑った。
「あははははは、いいねえ、この膨大なまでの魔力、それを操る魔力の操作、どれをとっても早々味わえないものだ!」
「そうかよ‥…行「ちょっといいかな?」なんだ?」
戦闘狂に構っていられるかとばかりに、俺は無造作に手を振り下ろそうとした時、ニクスの静止の声が聞こえ、手を振り下ろそうとした手を止めた。と同時に数百の剣が一斉にニクスへとその切っ先を一斉に向けた状態で待機する。
「ちょっとした根競べと行こうか」
「なに?」
そう言うとニクスは持っていた細剣の刀身を手首に当てると、一息に切り裂き、そこからあふれ出すは禍々しい魔力を持った血。そしてそれは瞬く間にニクスの足元に血の池を作り出し、なおも血だまりへと血を流しつつ詠唱を始めた。
「我が肉体の檻より解き放たれ、現せ」
詠唱をして行くと血だまりに変化があった。一部がまるで意志を持ったかのように蠢いたかと思うと、その中から浮かび上がったのは、巨大な顎。そして次に現れるは巨大な脚が形作られ、その後には後ろ脚、最後に現れたのは、逆さ棘の尻尾。
「血より、生まれいずるは我が眷族「魔なる血龍」-グズィリー・ラフェルトー」
その全身が紅く異様なドラゴンの姿に俺はある事を思い出していた。
「そうか、魔物が少なかった原因は…」
「ハハハハッ、ああ、僕の、いやコイツの仕業だよ、僕の魔力は意志を持っていてね。なおかつ貪欲で、下手をすれば、主であるである僕自身が喰われるのさ。普段は押さえているけど、あれほどの魔力を受けると抑えれないんだ」
暗に、君のせいだよと言って来たが、俺にとってそんな事は知った事では無い。そうしている今も、血のドラゴンは虎視眈々とこちらを見て来ていたが、そんなの、ただの障害物でしかない。そして目の前に立ちふさがる壁があるのなら。
「ブチ破ればいいだけの事だ。‥‥行け!」
「へえ、面白いね、君は。‥‥喰らえ!」
俺の作り出した、剣の群れと、ニクスが、いや魔力に宿る意思が具現化したドラゴンが互いに激突し、自然の破壊である嵐は薙ぎ払らわんと、力の破壊は喰らおうと、両天災が激突した。
内容がおかしい所があれば、ご報告をお願いいたします。
取りあえず、予定としてはルヴィの試験、試練の話を書ければなと思っています。まあ予定ですので、内容が変更する可能性があります。
次回の投稿は二週間以内を予定しています。それでは、また。




