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第三十七話 「熱」

ふう~‥…ようやく思いついたので‥‥投下。間に合った‥…何故、執筆中のが全部消えたんだ‥‥‥

「お~い、戻ったぞ」


そう言いながら俺は扉を開けて建物の中へと足を踏み入れたのはシュトルの町の裏道にひっそりと佇む建物、表通りにある二号店の【ヘーパイストス】ではなく、本店の方の【ヘーパイストス】だった。そして俺の声が聞こえたのだろう、奥から一人の赤い髪の少女が出迎えてきた。


「あら、シルバー、もう頼んだものは終わったの?」


「ああ。少々手こずらされたが、問題なく討伐できたし素材も手に入れてきたぞ」


そう言うと俺は店のカウンターの上に「ギフト・スネーク」から剥ぎ取った素材、主に表面の皮や鱗、牙などを入れた物を置いた。それを見てイシュラは早速とばかりに袋を開けると中に入っている素材を見始めた。


「ふむふむ、なるほどね。それでこれが鉄並みの硬度を誇る「ギフト・スネーク」の鱗か。…それにこれは麻痺毒がしみ込んでいる牙か。これは下手に素手で触らない方が良さそうだね、でも何となくティタン鉱物と相性が良さげだから…」


何やら素材を見ながらぶつぶつと言い始めたイシュラを俺は相変わらずだなと苦笑気味に見ていた。そうイシュラは素材を見始めるとその素材にあった鉱物を触れ、直感的に識る事が出来るのだった。俺も今回のようなイシュラからの依頼は何度かあり、そしてある時尋ねた「なんで触れただけで相性のいい鉱物が分かるんだ」と。そしてイシュラは何と無しに、ごく普通にありふれたかの答えを返してきた。


「え、だって生まれた時から私は出来ていたけど?」


流石にこの返答を聞いた時は思わず絶句してしまった。刀や陶芸などの職人が何年もかけて研鑽をして物が語り掛けてくると云うような逸話などは聞いたことはあったが、まさかまだ少女ともいえるイシュラが

その境地に至っているとは思いもしなかった。だがある意味で納得できた。何せ初めてであった時は既にあれほどの武具を作り出す才能があったのだから、ある意味で当然と言える才能(ちから)だった。


「それで、イシュラ、頼んでいた物を作る準備は出来たか?」


「ん?ああ、準備できているわよ。付いて来て」


そう言うとイシュラは背を向けて奥の工房へと歩いて行き、俺もイシュラの後をついて工房の奥へと入って行った。そして少し歩いて着いたのはお世辞にも広いとは言えない薄暗い錬成場がそこに広がっていた。

そしてその中で一際存在感を出しているのは真っ赤な炉に灯った炎だった。それはまるで紅蓮の太陽の様力強さとしかし、それでありながらも温かさを感じさせるモノだった。

そしてその隣には鉄床とハンマーも置かれていた。そして見た感じではハンマーは相当使い込まれているのかその表面に幾つもの傷があったがそれが逆に何処か重みを醸し出していた。


「さて、それじゃあ始めましょうか?」


そう言うとイシュラは服の袖をまくり上げて炉へと近づいて行った。


「しかし、本当にいいのか?」


「何をいまさら言ってるのよ。もう六年の付き合いよ。それについでにその剣の様子も見ないといけないでしょ?」


「いや、確かにそうだけど‥‥」


そう言いながら俺は改めて申し訳ない表情を浮かべた。確かにイシュラの言い分は真っ当のモノだった。

確かに俺が現在腰に佩いている剣は天叢雲劔ではない。ではこの剣は何か、それはイシュラが俺の為に打ってくれた剣だった。その剣の名前は「ジュワユーズ」

それは天叢雲劔に代わる剣を探してある時イシュラに聞いた時にイシュラが「それなら作ればいいじゃない。居るでしょ、最高の職人が」とそう言って作ってくれたのが「ジュワユーズ」だった。

因みにこの剣の名前の由来は前世での歴史上で有名なシャルルマーニュのカール大帝が持っていたとされる剣の名前で、その剣には不思議な力、魔力を宿していると言われていたとの伝承のある剣にあやかって俺が名付けたのだった。因みに何故俺が今天叢雲劔を身に着けていないのか、それは厄介ごとに巻き込まれない為だった。

あの戦いの後、人の口に戸は立てられぬという諺の通り、町を救ってくれた英雄の一人である幼い少年が身に着けていた剣の事が伝わっており、またその剣があまりない鞘などに収まっていたことから否がおうにも注目が集まってしまったのだった。

そして俺への被害を危惧したゲンドゥさんのおかげで俺の情報は秘匿とされ、また容貌などの情報も徹底的に緘口令が布かれた。そのお陰で俺は今は普通に町に来れる様になったのだった。(一年くらいは来れなかったいや、来るなと言われた。まあなぜ一年なのかは恐らく俺が成長する事を見越しての事だったのだろうが)


「まあ、あれだけの事があってあんただって特定されなくて良かったじゃないの。まあ特定されても領主の息子の家に押し入りに行く馬鹿は居ないと思いたいけど」


「他人事みたいに言うなよ、後悔はしてないがあれのおかげでお前の店に顔を出せなかったんだぞ?こっちとしてはいい迷惑だよ。せっかくの二号店開店祝いに行こうと思っていたのにな」


「‥‥…忘れてたんじゃ、なかったのね」


イシュラは僅かに詰まった声で小さく言ったが、その声を俺の耳は捉えていた。


「当たり前だろ。お前の店が出来たんだぞ、それに行かないと申し訳ないだろ?」


「‥‥…馬鹿」


聞こえているとは思っていなかったのか少し驚いた表情を浮かべた後、小さく何かを言ってイシュラが背を向けてしまったが、それでも風を視る事が出来る俺には何となくだがイシュラが後ろを向いたのは赤くなった顔を隠したかったのだろうと思ったがそんな事は口には出さなかった。口に出して拗ねられでもしたら少々困った事になってしまうからだ。


「‥‥さ~て、それじゃあ早速頼まれていた物を作ろうかな」


「ああ、頼む」


そう言ってまだ少しばかり頬が赤くなっていたが俺はそれに気が付かないふりをし、イシュラもそれに気が付かれていても気が付かないふりをした俺を気にしないかのように炉と向かい合うように腰を下ろした。

これからは私の戦いだと素人でも感じ取れるほどの集中力でイシュラは意識を集中させていく。

そしてスッと目を開けたと感じた瞬間からイシュラの鍛冶師としての鉱物との語らい(戦い)は幕を開けた。


イシュラはまず最初に手元のレバーを操作し、炉へと風を送り込む。その風を受けた炉の炎は更に赤々とその存在を示すかのように燃え上がる。イシュラは風を送りながら炉の温度を更に上げていく。そしてその熱は部屋の中の温度すらも上げていく。そしてその熱気は邪魔をしてはいけないと離れた所から見ていた俺にもその熱気は伝わってきた。そして離れた場所にいる俺に伝わるほどの熱に対してもイシュラは微動だにせず、黙々と炉の温度を上げていく。

それから凡そ五分ほどするとイシュラは炉の温度が目標の温度に到達したのか、次の工程、炉の中にインゴットを入れると熱し始めた。そしてその一つ一つに返す動きだけでもイシュラがどれだけの集中力で取り組んでいるのかという熱量(おもい)が伝わってくるほどだった。

そしてインゴットが真っ赤になるまで熱するとイシュラは素早い動きで金床に乗せると槌を以て叩いて形を少しづつ変えていき、そして再び炉へと戻して再び叩く、それを何度も何度も繰り返していく。そしてハンマーと鉄が織りなす幻想的な火花が咲く中でイシュラは休むことなく手を動かしていく。


(‥‥すごい)


それを見て俺は圧倒されていた。それは驚異的な集中力であり、その乱れ一つの無い永遠に続くのではないかというほどの緻密に計算された速さと力、それらの全ての動きに俺は圧倒されていた。

そして俺が圧倒されている間にも金属の塊は徐々にその形をある物へと変えていく。

そして、その永遠へと繋がるかのような炎と槌、イシュラの息遣いのなどの音を響かせながら夜は更けて行った。


そして朝日が顔を出して数時間が過ぎた頃。【ヘーパイストス】の工房ではイシュラが語らいを終えて背を伸ばしていた。


「う~ん、あ~、久々に出来のいい、満足できる物が出来たわ」


そう言って欠伸を噛み殺す様に背筋を伸ばすイシュラの背後には火を落とした、赤々と燃えていた炉が一仕事終えたかのように沈黙していた。そして締め切られていた窓も開けられ、その光を受けて輝いている金属の円環が四つ光っていた。そしてそれを見ながらイシュラは「ジュワユーズ」の剣が傷んでいないか、刃毀れしていないかなどを鑑てくれていた。そして時折砥石に当てて何度か研ぎ、光に当てるを繰り返していた。そしてその様子をイシュラと同じように一徹した俺は見ていた。


「済まないな。あれを作ってくれるだけじゃなく剣まで見てもらって」


「いいのよ。気にしないで。それにこれを作る時に言ったでしょ、剣も見るって。それで、はいもういいわよ」


そう言うと「ジュワユーズ」をイシュラから受け取り俺は光に剣を翳してみた。


「その()、とても喜んでいるわよ。いい使い手が大切に扱ってくれているって」


「そりゃ命を預けるものだから大切にしないといけないだろ、それにお前直々に作ってもらった剣だ。大切に扱うさ」


「‥‥…もう、そう言うの禁止。それより、ほら、頼まれていた物は出来たからちゃんと受け取ってよね」


「ああ、すまないな、武具を作るのが本職なのにこんな事を頼んで」


そう言いながらイシュラが差し出してきたのは銀色であったり光の角度では金に見えたりと様々に変化する

金属の円環、まあ前世で言うところの指輪を受け取った。その数は四つ。


「いいのよ。これでも久々にいいのが作れたって自負できるものが出来たからね。それにしても、どうして三つじゃなくて四つなの?三人しかいないはずでしょ?」


イシュラの言葉が少なくて分かりづらいかもしれないがイシュラが言いたいのは何故四つも指輪がいるのかという事だった。何故イシュラが指輪が三つしかいらないのかを知っているのか、それは以前この本店で「ジュワユーズ」を打ってもらった際にまた一人増えたことを俺が教えたからだった。流石にそれがこの国の第二王女だった人物だという事は秘密だったので教えなかったが。


「へぇ、それじゃあまた新しい人でも出来たの?」


「ああ、まあそうだな」


「‥‥へえ、誰なの?」


「ああ、それはな」


少し間があり一瞬何処か辛そうな顔になったがすぐに面白そう聞いてきたイシュラに俺は渡された指輪の内の一つを左手の薬指に嵌めた。


「え?」


「お前だよ」


イシュラは突然の事に状況が読めなかったイシュラはただ茫然と俺がその指に嵌めた指輪を見て、そのまま俺の方を見てきた。そしてそれを何度か繰り返すとようやく事態が、いや俺から告白に近い事をされたという事に気が付いたのか、


「ええっ!え、ちょ、ええ~!?」


イシュラはただ驚く事しかできなかった。いやおそらく十数年しか生きていないがその中でもトップクラスの衝撃と、ぽろぽろと湧き上がってきたのは


「あ、あれ、どうして‥‥」


涙、だった。そしてイシュラは必死に目元を拭うが涙はとめどなく溢れてきた。そしてイシュラが涙を流して泣いたのは父親が死んだ時を含めて数えるほどしかなかった。いや泣く余裕がなかったと言うべきだった。何せ父親が残した店を幼い身でありながら守らなければならなくなったのだ。それからのイシュラは泣くのではなくそんな暇を惜しんで腕を鍛えるために時間を使い、涙の滝を強い意志で堰き止めていた。そして意思で堰き止めていたのは涙だけでは無かった。それは隠しきれていなかったがシルバーへの恋心もだった。


「あれ、おかしいな、全然止まらない‥‥どうして」


「そりゃ、今まで我慢していたモノなんだ。そうそう止まってくれないさ。だけどそれでいいんだよ」

そう言って俺が近づいて抱きしめるとイシュラは胸元に顔を埋めるかのよう押し付けた。それはまるで幼い子供のような仕草だった。

そうイシュラが出会った当初から年下とはいえ何かと優しくしてくれたシルバーにイシュラが徐々に恋心を抱き、付き合いが長くなっていくことに自覚していくのはある意味で当然の帰結だった。だがイシュラは自身の恋心を押しとどめていた。まあそれでも完全には無理で好意を隠しきれていなかったが。

しかし現在(いま)シルバーのストレートな告白の衝撃によってイシュラの意思で涙と思いを堰き止めていた防壁に確かな、亀裂を生じさせた。そして亀裂が生じればそこから(思い・涙)が漏れるのは必至であった。


「泣いていいんだよ。十年近く我慢していたモノだ。それに今は二人だけだ。ただ思いのままに泣け」


「‥‥シル‥バー‥ヒック‥‥う、うわああああっ!」


シルバーの言葉が最後の一押しになったのか、イシュラはこれまでため込んでいた涙を思いを吐き出し、ぶつけるかのように泣いて、泣いて、泣いた。だがその涙は冷たいモノでは無く何処か固く固まっていた氷をイシュラの中のそして伝わってくる熱による温かさで優しく溶かしていくのを感じながらイシュラはただ泣き続け、シルバーはただ優しく背中を撫でてあげていたのだった。




「落ち着いたか?」


「あ、ありがとう…」


「なに、気にするな」


あの後凡そ三十分にわたってイシュラは泣き続けたがその時間は俺にとって、そしてイシュラにとっても大切な時間となった。そしてイシュラは少し離れた所で恥ずかしそうに下を見てボソッとお礼を言って来たので言葉を返し、その場に沈黙が下りた。だがその沈黙は決して不快なものではなく、寧ろイシュラにとっての準備時間だった。そして心の準備と決意が出来たのか、イシュラは顔を上げた。


「あ、あのね、シルバー」


「ああ、なんだ?」


「え、ええっと、その‥‥」


言葉に詰まってしまったイシュラを見ながら俺はその言葉の続きを待った。


「え、ええっと‥…この指輪のこ、答えなんだけど‥‥」


「おい、出てこい鍛冶の小娘!貴族であるこの俺を待たせるかっ!」


詰まり詰まりながらもイシュラが次の言葉を言おうとした時、数人が店に入ってくる足音が聞こえると同時に朝の静けさとイシュラの言葉を遮って聞こえたのは何処か聞き覚えのある声だった。

傲慢そうなその声は主は今からすれば昨日に聞いた覚えのある声であるという事に俺だけが気づいていたのだった。


(ようやく、役者がそろったな。念の為に作ってもらったこれが役立ちそうだな)

申し訳ない(土下座)。本当に浮かばなかったんです。思い付きでやっているとちょっとしたスランプに陥りやすいので、難しいです。

さて今回の話は、まあ分かっている方の方が多いでしょうけど、まあイシュラへの告白回ですね。早いと感じられた方。間違っていないと思います。私としましても何故か意図してないのに指が動いて書いているとこうなっているので首をかしげています。ですがこれも良さとして今後もこんな感じで続けていきたいと思います。

それと次話ですが‥…正直何も浮かんでません。それどころではなかったので‥…

ですが一応二週間以内に投稿を維持できればと思っています。内容についても未定です。

でも二章は一応イシュラに関する章の予定ですのでイシュラメインに書けたらと思います。それでは、まあ、次話で。因みに最後に声だけ出てきた人物、皆さんはお分かりになりますよね?(モブ)


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